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札幌ブラック04

 聞いてくれよ。俺もようやくエスエヌエスを始めたんだ。もちろんネットに上がっている情報を得るためにネット検索としては使っていたんだけど、あちこち情報を見るために見てはいたんだけど、でも見ていただけだったんだ。さすがに使わないと情報集めに苦労するようになったからさ。ブラックバイツを良い機会にした。リバーサイドの掲示板とか使ってきたから、難なく使い始めることができた。これなら毛嫌いせずにちゃんとやればよかったな。ちなみに、俺のアカウント名は「伝説のオーガナイザー」。とてつもなくダサいが、おかげで気づいたガキ共がたくさんフォローしてくれた。やっぱり俺って人望あるんだな。ふはは。


 エスエヌエスを使ったら例のバイクを秒で見つけた。ご丁寧に各個人アカウントを作ってそれぞれ写真を上げまくり。さすがに暴行写真動画は載っけてないけど、走行予告してくれるから大助かり。自分達で犯行現場を教えてくれる犯罪組織はそういない。情報を元にボーイズ達と張り込んで何度か確認したけど、どの日も定刻通り現れた。誰かを殴る時も、強盗する時もあれば、殴らないで普通にバイクで走るだけの日も。爆音も蛇行運転も無し。大人しく法定速度と道路交通法を守って運転。集団で走ってるから異様な感じはするけど、何も悪いことしてないから市民も警察も見守ることしかできない。なるほど、賢いな。やはりただの暴行強盗窃盗団ではない。成哉の言う通り、利口でクレイジーだ。


 接触を試みる決行日を奴らの走行予定日に合わせて決め、勇気と意志のある負傷を恐れない勇敢なボーイズガールズを招集。奴らに負けない人数を揃えて奇襲。バトル開始。もちろんこの戦いで奴らの一部を倒すことに成功しても、ブラックバイツ全体を活動停止に追い込む事は出来ないのは分かっている。調べるまでもなく巨大なグループ。きっと札幌だけでなく、全国展開しているに違いない。


 今回のこの戦いは相手に警告を与え、この街に対して宣戦布告してきた奴らの敵、リバーサイドの上の人間が俺であることを伝えるのが目的。名前と顔を教えて、それから向こうからこっちに接触してくれば勝ち。成哉は潰せって言ったが、この街から全員追い出して二度とこの土とコンクリートを踏めなくしてやるのが現実的だと思う。完全に潰すとなると、あまりにも時間と労力が掛かりすぎる。それこそそっちは警察に任せた方が良い。いつかの低級盗撮犯罪組織とは違う。あれは壊滅も潰すのも簡単で良かったが、ブラックバイツはそんな単純じゃない。上の支配している人間は成哉レベルで引き籠もっているのだ。引きずり出して成哉タカの前に転がすことができればパーフェクトだが、東京でリモートワークしてたら手を出せない。現実的に考えれば、今回引きずり出す対象はこの街のブラックバイツ雑魚人間を率いる小者リーダーになる。どうせ履歴書の経歴に半グレとか書く人間だろうから、バカじゃない。利口。頭良くないと悪い大人の世界では生きていけない。バカと素人を使い倒して奴らは生きていく。だから本気の覚悟で悪人として生きていくことを決めた人間、例えばヤクザには及ばないのだ。だから半グレ。


 これは俺の予想に過ぎないんだけど、奴らは俺達を潰そうとしているんじゃないかと思う。創成川リバーサイドボーイズ・ガールズを倒し、雁来成哉を引きずり出して潰す。この街の支配権を奪って我が街とする。本格的に活動拠点としたいのではないかと、そう考えている。だからこそ、奴らはこっち側の、リバーサイド側の幹部のような人間が出てくるのを待っているはず。それならお望み通り俺が出ていってやろうじゃないのってわけ。これでも成哉の右腕を自負しているからな。


 唐突に始まった、俺が仕掛けた少数のブラックバイツと少数のリバーサイドBGの戦い。BGが一方的にやられて被害に遭ったことはあったが、こうやってきちんと戦力を整えて挑んだのは氷永会以来居なかったのでは。警察ですら手を出すのに躊躇っているから、真っ向から勝負する覚悟ある人間は少ないはず。


 バトルはこっちが優勢だった。勝利を重ねてきた奴らにとって、奇襲とはいえ予想外だったかもしれない。こっちも強いメンバーがたくさんいるんだ。俺達を倒すつもりなら、よく覚えておけよ。


「そこまで。話をしよう。先に名乗る。俺がこの街のオーガナイザーだ。俺達を相手してるなら耳にしてるだろ。この集団における小者リーダーはどいつだ?」


「私です。なかなかやりますね。あなたのネームもリバーサイドの強さも噂通りだ。今日はあなたがこのグループのリーダーですか?」


「そうだ。この街のオーガナイザー茨戸創は雁来成哉の右腕だ。この街を牛耳りたいなら、俺のところに来い。雑魚を寄越しても返り討ちにされるだけだと、いまわかっただろ。ちゃんと話ができる人間が来い。最上階の人間なら、それがベスト」


 俺はカマをかけた。奴らがこの街を手に入れる確証は無かったが、言質を取れればそれに越したことはない。向こうの目的を知りたかった。日ごろの行いから予想はできるが、推測の域をでない。


「分かりました。検討します」


 否定もせず、肯定もせずか。


「俺達も今日は引く。待っている」


 互いに警戒を解くことなく、双方すぐにその場を後にした。俺はすぐに成哉とタカに挑発したことを連絡した。




 ※ ※ ※




 ブラックバイトという言葉を知っているだろうか。社会問題としてマスコミがこぞってテレビ番組の特集にしたり、新聞のコラムに書かれたりしていたから見聞きしている読者は多いはず。賃金未払い、長時間労働、ノルマの強制、休憩時間を与えないなど。ブラック企業のアルバイト。正社員を減らし、アルバイト雇用を増やし負担をかける。正社員のような働きを求めて強要。会社としては賃金が下がるので人件費削減になるってことだな。アルバイト代が他よりも高い!最低賃金を大幅に上回る!みたいな謳い文句で集めて嘘偽りなくその通りの金額をアルバイトに払っても、正社員に比べれば圧倒的に低い。痛くもかゆくもない。全てを悪用した悪い企業。それを超大手ショピングモールなどを展開する企業の系列店でやるんだから、なんともやるせない。学生はその企業ネームに安心して応募して働き始めるが、ブラックバイト。その企業の大きさ故に不満の声は届かない。渋々苦しみながら働かないといけなくなる。バイトが生活のすべてになり、何のために働いているのか、働くことだけが人生なのか、そんなことを考えて鬱に落ちてしまう例は多い。俺もそんなガキ達を見てきたし、扱ってきた。


 もちろん成哉にそれを伝えればすぐに用意された救いの手によって助けを与えられる。その手を取れば脱ブラックバイト。普通の生活を取り戻せる。成哉がガキ共のトップをやっている本当の意味はそこにあると、その事例を見るたびに再確認している。成哉ビックボスの息がかかった働く場所は全部法律遵守。この街のブラックバイト企業は、ほとほと困っていることだろう。今年から希望に満ちあふれる高校生、大学生になった何も知らない一年生をブラックバイトに勧誘するしかない。成哉に救われる前に。


 救われた学生は成哉に恩を感じ、ガキ共のことを知り、ガキ共として活動して俺の仲間になる。全員が全員ではないのは言うまでもないが、一定数いるからリバーサイドは活動できる。


 特に新人からは使ってもらえる喜びがあるって集会で言われたことがある。任せられたことが嬉しいって。俺たちの仲間は、何も武力制圧するだけの集まりではない。ラーメン屋もいる、平社員もいるし、プログラマーもいる、心のカウンセリングをする奴もいる、家庭教師もいる、怪しい研究をしている奴もいる。成哉は戦うだけの集団を作りたいわけじゃない。ガキ共を助けたいのだ。大人たちから指をさされ、生き方を否定され、真面目に生きることを良しとする社会から。性を売っても、バニーガールをしても、コンビニ店員でも受け入れる。お前のことを理解している大人が少なくとも一人はここにいるというのを作ることの重要性を理解している。実行している。だから、世の中の健全人間共に、この若者たちのことを下に見られる理由はどこにもないし、だからそういう大人を許さず、その社会を変えてやりたいから社長会長リーダーを成哉はやっているのだと、この事実を俺は大好きなガキ共と話す度に繰り返し確認する。成哉ビックボスの喧嘩最強も、この街での圧倒的な存在と権力を手にするための手段でしか無い。それこそ呼吸をするように人間を下に見る人間は、えらい人に対しては頷いて無条件で従うだろ。社長やってますって言えば、ええ!? すごいですねって。同じ人間なのにな。


 話を戻す。ブラックバイトを意味するこの言葉は、世間一般ではこのように使われることが多いがこの街のこっち側では、ブラック・カード・バイトの意味で使われることがある。


 簡単に言うと、トレーディングカードの偽物を作ってフリマサイトやオークションサイトで売りさばく人間のこと。海賊版。もちろん犯罪、違法だ。


 正規品そっくりに作るのもあれば、二次創作アダルトイラストを無断転用し、無地のトレーディングカードに貼り付けてキラキラ光らせて二千ぐらいの値で売るのもある。ポスターとして綺麗に加工すれば数千円でフリマアプリなんかで売れる。これが百売れれば数十万、千売れれば百万になる。いい金儲けになる。ネットに無造作に投げられた無数のイラストを常に使い続ければネタ切れも鮮度も落ちない。一つ無断使用だと糾弾されても、すぐに撤退、切り捨てればいい。使えるモノは山ほどある。違反通告、申告を受けてもアカウントを消して何度でも作り直す。百ぐらいアカウントを作り、並行して運用すれば儲けは倍々になる。


 それはアニメキャラの乳首が出てなくても良い。人気のキャラクターのイラストならどれでも売れる。祭りに屋台を出してわたあめや焼きそばを売るより効率がいい。顧客は十代とか二十代前半が多いと聞いている。小遣いを少し出せば買える、手の届く範囲だからか。本物、公式のグッズは高いからなかなか手がでなかいがために、だめだとわかっていても若いガキは買うことができる値段だからつい買ってしまう。悪い大人は子供の足元を良く見ている。きっと組の収益の一部でしかないだろうが、ここ数年の戦力のひとつではあるのだろう。物価高だから何でも安く手に入れることが正義。フリマアプリ万歳! こんなモノがこんな値段! 家に眠っているお宝があるかも? 旦那さんの秘蔵コレクションが! あなたも探してみては? みたいなテレビ番組が平気で横行するぐらいだ。世の中は自覚無しに転売と犯罪を助長してる。つまり表の人間にとって便利な商売はこっちサイドの人間にとっても都合の良い商売だった。


 成哉に報告の電話をしたあと、タカにも俺が戦いを挑んで殴り合いをし、正式な宣戦布告と挑発を実行した経緯と結果の説明をした。その話の中で、組のブラックカードバイト取締担当がブラックバイツの金の流れを掴んだと俺に報告してきた。ブラックカード、ブラックバイツ。きっと言葉遊びで終わらないだろうな。




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