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札幌ブラック05

「つまり、氷永会の人間ではなくお前が雇った〝バイト〟若者がブラックバイツの金に関わってると」


「ああ。うちのブラックカード担当が売人として雇ったガキバイトだ。黒カード担当は作るだけ。無差別に勧誘して仕事を与えている千人ぐらいの若者が売人。若者、いや〝ひよっこ〟だな。中学生と高校生がほとんど。学生でも働けるってエスエヌエスでばら撒いて募集。アカウントを作らせて乳首丸出しアニメキャラカードを売り捌く。もちろん〝ひよっこ〟だろうと俺達に関わる以上は全員監視する。そのうちの一人が、その黒カードバイトのうちの一人が妙なことしていて。売り上げが極端に低い。たださぼってるだけかと思ってたら、案の定違うところで金もうけしてた。俺たちの指示に従わず、違うところにカードを売っていた。横流しだ。基本的に配送はこっちでやるんだが、ある程度実績積んだやつはある程度の数のカードを予め送って、そのひよっこバイトにやらせてた。バイト代を少し弾んだりして。手間が省けるからな。横流しのガキを調べたらそいつは他に窃盗、泥棒にまで手を染めていた。犯罪常習高校生。カード含め、盗んだ物を専用業者に買い取って貰って金を稼いでるんだろ。現金や宝石、高価な腕時計みたいなモノをそのまま売ったらすぐに足がつくから、こっちの世界の専門業者にってところだろうよ。まったく」


「そうか。つまりその買い取り業者がブラックバイツってわけだ」


「ああ。俺達はそう考えている」


「なるほど。ひよっこからブラックバイツの金の流れが分かれば、より奴らの実態が見えてくるかもしれないな」


「ああ。組で少し調べてみる。お前は重要人物だから、組の情報でも共有する。正さんから許可を貰っている。なんだかお前のことを気に入ってるみたいだったぞ。良い覚悟のある若者だって」


「それは喜んで良いのか、悪いのか分からないな。悪用されなきゃいいけど」


「なっ、お前。正さんはそんな人じゃない!」


「分かってるよ。一緒に飯食ったしな」


「ったく。ジョークは笑えるやつにしてくれ。何か分かったらメッセージ送る」


「オーケイ。よろしく」


 強盗集団に一般人からの盗品とヤクザから盗んだカードを売る高校生。おそらく高校生だというのは嘘だろう。年はそれぐらいだとしても、きっと中卒でぶらついているんだ。イジメで学校に行けなくなり、不登校でもなんとかフリースクールで普通を目指すも普通の成績として認められない世間に絶望し、いろんな悪いことに手を出す。そんなところかな。盗みは生活に困った人間がまず始めに手を出す犯罪。盗むだけなら誰でもできる。成功させるためには頭を使わないといけないけど。その年で盗みをうまくやれているなら、自頭は良いんだろ。学生生活の環境が合わなかっただけ。バカじゃない。だから最初は真面目にフリースクールとかで頑張ろうって思っていたはず。知能はバカではないのに世の中で生きることができる居場所が無いことに絶望した。だからフリースクールも辞めて、現在か。


 まじめに働かないのは、働くことでその見下してきた人間に使われるのが嫌なんだろう。だから他の手段で金を稼ぐために盗みを極めた。嫌われた世の中を嫌って、真面目に働かずに不真面目に生きるなら他に手段はない。


 そういうのたくさん見てきたからな。若い泥棒の事をタカが知らないということは、氷永会の同業他社の人間ではない。個人経営だな。盗みで業績を上げ、その業界で名前が知れ渡る前にきっとブラックバイツは声を掛けた。そんなところだろうか。推測でしかないけど。




 ※ ※ ※




 ブラックバイツの人間が菓子折りを持って俺の部屋のインターホンを押した。やってきたのは二人。流石にこれは予想外。メトロン星人か。菓子は北菓楼のシュークリームか。美味しいよな。おかきとかも美味しいぜ。ルタオのチーズケーキ、ロイズの生チョコ、石屋製菓の白い恋人。この辺がおみやげの定番。



「アパートの上は火事で燃えたんですか?火事はだいぶ前のように見えますが、黒い木材がまだ放置されてましたので」


「そうだな。五年ぐらい前かな」


「地下に住んでるとは思いませんでした」


「そう、実は地底人なんですよ。いや、そんなことより、今日はどうして。てっきり殴り込んでくるものだと思っていたけど」


「ええ。ここ数日であなたの家の周りに何人か人がいるのを確認しましたので、殴り合いは賢明ではないと判断しました。ひとまず、一度話をしておこうと思いまして。先日、あなた方が仕掛けた戦いで感じたのは暴力で我々を潰そうとしてきた訳ではないと思っています。あなた方はこの手の人間を相手にすることに馴れている。一つ覚えのヤクザよりずっと手強い。これまでと同じやり方だけでは通用しないことが分かりましたので、このような話し合いの機会を作りたいと思ったわけです。そしてあなたは我々の訪問に対して、扉を開けてを家に上げてくれた。話をしてくれると解釈しても良いんですね?」


「そうだな。警戒は解かないが、俺も聞きたいことがたくさんあるんだ。お互い言えないことばかりだろうが、改めて初めましてのご挨拶ぐらいの自己紹介をしても損はしないだろう」


「ええ、そうしましょう」


「じゃあ、俺から。こういうのは先に自分のことを話すのが礼儀だからな。相手のことを聞きたいなら、まずは自分のことを開示する。ええと、名前は茨戸創。創成川リバーサイド・ボーイズ・ガールズのメンバー。雁来成哉の友人。この街ではオーガナイザーという肩書で通っている。氷永会にも友人がいる。妖刀使いを味方につけ、魔法少女とも知り合いで、リバーサイドにいる超能力者とも仲良し。悪い大人を見つけては懲らしめている」


「なんとも現実離れな言葉が多いですね」


「そういう街だからな、ここは。しかたないさ」


「では、私たちも。我々の組織の名前はブラックバイツ。きちんとした組織です。階級も上下関係も目的も理由も動機も共通して共有しています。行動にはきちんと理由があります。犯行履歴は茨戸さんと皆さんが調べた通りだと思います。嘘で隠すことも、逃げることもしません。私たちはいつでも受けてたちます」


「じゃあ、質問してもいいか?」


「はい。そのためにここに来ているので、もちろんどうぞ。お聞きします」


「目的はなんだ。盗んだ金で豪遊か?仲間を増やして次の強盗して悪の名誉が欲しいのか?この街のトップ、一大勢力にでもなるつもりか?それとも新しいヤクザにでもなるつもりとか?」


「はい。答えは、全部おおよそ正解です。しかし、ご想像通り全て正解ではありません。ひとまず、ヤクザや若者集団の座を手にするのが最終目標ではないとお伝えしています。目標達成に必要になるればそのようにします。もちろん、私たちは半グレ組織ではありません。ヤクザでも、若い人たちの集団でもありません。別の組織です」


「いや、そういうのを世間様は半グレって呼ぶんだよ。覚えておけ」


「そうですか。補足すると、私たちは強盗が大きく目立つためそれだけの集団に見えがちですが、様々なところに手を出しています。多方向からこの街のあらゆる集団を攻めています。私たちはこの街に於いてはまだまだ〝ひよっこ〟ですから。暴力だけで勝てる社会ではありませんからね、令和は」


「手を出してるのは強盗以外の様々な犯罪、詐欺とかってことか?」


「そうなりますね。できれば真面目に働きたいところですが、それではあまりにも組織を作り上げるのに時間がかかりすぎてしまう。それこそ健全真面目に働いている会社に詐欺をかけて億単位で騙し取ることもしています。うまく行けば人員の訓練にも、バイク整備や武器の調達に充てることができます。のんびりと城を建てていたんでは、作ってるうちに壊されちゃいますからね。日本全国各地、それぞれの支部でヤクザのような既強力組織と真っ向から戦うには、即訓練と設備装備の充実は必須。悪人の世界では即戦力採用は難しいですからね。素人を戦えるように鍛えるのです。もちろん、柔道空手武術のような基礎体力があるに越したことはないですけど」


「そうか。それにしても、よく話してくれるんだな。お前の目の前にいるこの男は、すぐにでも殴り倒してやりたい若者集団の対象なんだろ?それとも帰り際に殴るつもりか?」


「いえ、流石にそれはやりません。今日は話し合いですから。最初に言いましたが、お互い冷静に大人として話をする必要があると感じたのです。この街を荒らして回っている私たちのことを快く思わない人間がでる頃だと思っていました。私たちの事を攻撃してくる頃だろうと。現にこの街のヤクザもあなた達も喧嘩を仕掛けてきた。決着をつける日はそう遠くないはないでしょう。いつにしますか?お好きな日時を指定してください。負けませんよ」


「ああ。もちろん。こっちも負けない。じゃあ三日後にしよう。時間は26時。天体観測の定番時刻。場所はお前達が決めろ。いつも通りバイクの集合時間をエスエヌエスに載っけろ。迎えにいく。必ずお前達を潰して、この街から追い出してやる」


「分かりました。ではそのようにしましょう。ずるずる戦いが続くのは私たちとしても不本意。引き分けはなし。決着をきちんとつけましょう」


「ああ、最後にもう一つ。こっちも最高ボス連れてくるからさ、そっちも一番強いやつ連れてこい。戦えなくても、一番偉いやつ。率いてる人間がその場にいないと決着決められないだろ。リモートは辞めろよ?」


「分かりました。必ずや、そうします。この約束は絶対でお願いします。裏切りはそれ以上の報復があるでしょうから。互いに」


「分かった。じゃあな、ブラックバイツ。わざわざ来てくれてありがとうよ」


「はい。では、これで失礼します」


 礼儀正しい敵はこうして約束を取り付けて帰った。騒動はいよいよ終盤戦。さっそく決戦の事を仲間に連絡、周知徹底しないと。人数の約束はしていないからありったけ集めて、たっくさんの仲間で叩きのめしてやる。ガキ共もヤクザも総動員。総力戦だ。



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