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シン・ホロ・クラウディレッド02

「あれが……ゴジラ……!」


「違う」


「えっ。じゃあ、あれが……エヴァ……!」


「違う」


「えっ。じゃあ、あれが……ライダー……!」


「違う」


「えっ。じゃあ、あれが……ヤマト……!」


「違う」


「えっ。じゃあ、あれが…………ガンダム…………!」


「違う」


「え。もう、シン無いよ。それじゃあ、タイトル回収出来ないって」


「そんなIP使うかバカ。シン・ホロ・クラウディレッド。お前がこの殺し合いで使う道具の名前だ。シンは共罪という意味だ。このデスマッチ、さすがに素手では勝てない。この戦いでは、何を使っても良いことになっている。ピストルも、刀も、この世の武器で無くても何で良い。勝てば何でも構わない。とにかく相手を殺すことができれば勝ちだ」


「そんなむちゃくちゃ。犯罪係数真っ黒じゃん。執行対象間違いなし。なあ、成哉。俺は本当にまったく知らない誰かを、その相手を殺さないといけないのか?たとえ同意を互いに得ている試合だとしても、やっぱり……。俺はクスリなんかいらない。人殺しにはなりたくないんだけど」


「諦めろ。あのクスリはこの街の今後を左右する。試用劣化版なら既に出回っているが、本物が出てくるのは今日が初めてだ」


「えぇ……俺に関係ないじゃん。成哉が自分でやればいいだろ。殴り合いは特技じゃん」


「事情があってな。俺には参加資格がないんだ。お前がるしかない」


「うえーん」



 チカ街は街というだけあって、かなり広かった。天井も高く、白の明るい空間だった。異空間といえば、その表現は正しい。どこまでも広がる無機質な白はどこか緊張を煽るようだ。不安と唐突に突きつけられた死に戸惑うばかり。どこからともなくやってくる焦りが俺を莫大な不安で包みこむ。



 この街の直上には赤い観覧車がある。第一ステージ。たぶん赤いテレビ塔の直下にあるチカ街でもやるんだろうな。第二ステージ。


 すすきの観覧車にはスペイン語で観覧車の意味のノリアという名前が付いている。また、スペイン語で赤はホロ。赤い観覧車の名は、ホロ・ノリア。


 札幌テレビ塔も赤いが、これはどちらかというと朱色。建てられたときは銀剥き出しだったが、遠くからの視認性問題からコッパーローズという赤い色に塗られた。しかし、それでもはっきりしないので濃く塗り替えられ、今はクラウディレッドという朱色だとか。二、三階部分の外壁が緑に塗られたのはゼロ年代に入ってから。今は赤と緑が特徴的で遠くからもよく分かる。


 チカ街の直上にある建造物はどちらも赤い色が特徴。殺し合いが行われるこのチカ街にはおそらく赤い血が飛び交っている。まさか、そんなところまでリンクさせているわけじゃないだろうな。


「これは、拳銃なのか?」


「そうだ。その名前の通り、銃身に赤いラインが一本入っているだろ。創、一回戦がすぐに始まる。全部で三回勝てば決勝だ。必ず勝て」


「うえーん」



 戦いの舞台はチカ街の中心にあるリング。プロレスのリングとの違いは円形になっていること、四方を強化ガラスで覆われていること。おそらく銃弾が観客に飛ばないためだろう。相手は巨漢、筋肉ムキムキ。ザンギエフみたいな外国人。あいつに鉛の弾は通用するのか……?


「チャレンジャー、茨戸」


 鉄の扉が開き、俺は重い足取りでリングに入る。


「チャレンジャー、エンザンギエフ」


 え? マジでザンギエフ?


「両者見合って。スタンバイ」


 見合って? スタンバイってことは、銃を構えて良いんだな。


「Fight!」


 俺は即撃った。拳銃を撃った経験はゼロだったが何とか命中。しかし敵は猛然と何もなかったかのように走ってくる。まじかよ。


 シン・ホロ・クラウディレッドは射出する弾が非常に小さく、鋭利だ。スピードも出るので、その鋭利が五臓六腑を打ち抜く。装填されている弾数が多いので、撃ちまくるのが基本的なスタイル。ハンドガンなのに。不思議な銃だ。


「覚悟」


 エンザンギエフが拳を振り下ろす。俺はひょいと移動して躱した。拳は地面にヒビが割れてへこんだ。まじかよ。


 喧嘩慣れしていなかったら避けられずに一撃で死んでいた。どうする。逃げ回っては殺せない。顔を、目と頭を狙う。そうしよう。


 俺は撃ちまくる。何発か額と頬に当たった。痛そうだったが、痛いだけ。怪我にも致命傷にもならない。くそっ。初心者がピンポイントに撃てるかよ。現実は小説みたいに簡単ではない。いくら撃ちまくっても、刺さるだけ。くそっ。いや、そういえば。


 エンザンギエフは腕を振り回す。俺はちょこまかと逃げる。しかし、あまり広くないリング。一撃貰った。とんでもない威力だ。脳しんとうだ。体がふきとび、動けなくなる。力がうまく入らない。骨が何本かやられている。人間技じゃない。ドーピング大量投入だろう。相手を殺すことができるのなら、何でもありか。安易に武器に頼るのではなく、己の肉体を鍛え上げ武器とする。立ち上がれない一撃で相手を殺す。受けた一撃が相当応えている。踏ん張って立ち上がり、もう一戦戦えるのはあと一回が限度。次貰ったら意識が飛び、それから粉々に殴られて肉片になる。


「この野郎!これでも喰らえ!」


 俺は秘密兵器、薔薇の手裏剣を投げる。これには自信がある。投げた二枚の手裏剣は確実にエンザンギエフの目に命中。ぐさりと刺さり、隙ができた。今だ。


 俺は飛んで上から覆いかぶさり、撃ちまくった。顔の表面積全てに穴を開ける。大量の血液と体液と、よく分からない液体が流れた。やはり人を捨てていたか。相手は体の力を抜いた。抵抗をやめた。


「悪く思うなよ」


 俺は眉間にシワと盛大なため息を貼り付けてしかめ面。撃ちまくった。



 一回戦、終了。



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