「よくやった。いや、よく
「言い直さなくていいよ。ああ、もう。最低の気分だ」
「次の敵の情報を手に入れてきたぞ。聞きたいか?」
「ああ、そうだな。一応頼む」
「名前は分からないが、そいつは〝蛟劉〟のひとりだ。必ず勝て」
「どんな得意技がある?弱点は?」
俺は既に銃と手裏剣という手の内を明かしてしまっている。不利だ。
「相手も銃だ。ガトリングだ」
「ガトリング?」
話を聞くに、るろうに剣心実写版で香川照之が撃っていたアレに近いらしい。まじかよ。俺は人斬り抜刀斎じゃないぞ。勝てるのか?
「そこで今度はお前にこれを貸すことにする」
「え?これは」
これは、刀だ。〝影武者〟の本体。千紫万紅・無銘刀。これは、強力な助っ人になるかもしれない。あの刀で人を殺せるのかは分からないけど。
「次の試合までどのくらい時間があるんだ?」
「二時間四十五分」
「それなら、影武者と話ができるな。打ち合わせをしておこう」
「創、何か必要なものはあるか。飲み物とか、食べ物とか」
「え?買ってきてくれるの?」
ボス自ら買い出しに行ってくれるだなんて。デスマッチの最中でなければファイターズの点が入った時のように「ばんざーい、ばんざーい」と言っている。ばんざーい!
「もちろん誰かボーイズに買ってきて貰う。必要無いなら無いで構わない」
「じゃあ、値段の良いパン屋のあんぱんとコーン茶で」
「分かった」
それじゃあ、さっそく作戦会議だな。
※ ※ ※
「相分かった。して、どのように致す。茨戸殿」
「その前に確認。お前のその刀って人を殺せるのか?」
「出来ると思う……が、分からないが正しい答えである。やったことは無い。知っての通り儀式刀であったのだ」
「そうだよな。とりあえず、この前みたいに黒い馬と武士の姿で最初乗り込んでくれ。相手に疑問と警戒を与えることができる」
「御意。我は人に非ず。茨戸殿の手をこれ以上汚さぬため、助太刀致す」
それから段取りと対策を考えた。ガトリング銃。無造作無作為無闇矢鱈に撃ちまくられたらさすがに避けるスペースが無い。先手を取る必要がある。
あんぱんを食べる。そう言えば、あの朝ドラはおもしろい。
食後、第二試合が始まった。
「チャレンジャー、茨戸創」
「チャレンジャー、スレッジ・オブ・セギノール」
それは助っ人外国人の詰め合わせだ。よく撃ちまくりそうな名前だこと。相手は背の少し高い日本人みたいだけど。
相手が手を挙げる。
「おい、審判。向こうは二人いるぞ。違反だろ」
「茨戸創。言い分は」
「これは道具だ。この戦いでは道具なら何を使っても良いと聞いた。奴隷を道具扱いしても、ここでは何の問題はないだろ。それに見ての通り、俺は武器を持っていない。武器は互いにひとりひとつ。公平だ」
「おい、審判。どうなんだ」
「認めます。この裏世界にルールはありません。理由が通れば、それはルールです。何か文句でも」
「ちっ。仕方ない。殺してやる」
相手が睨んでくる。既に構えている。
「では、両者見合って。スタンバイ」
俺も合図を出す構えをする。
「Fight!」
相手が無数の弾を放つ。
……その前に、影武者は黒馬で敵の目の前に瞬間移動。さらに同時瞬間に各八頭の黒馬に八人の影武者が取り囲む。相手が振り返って焦る前に瞬間移動で八方向から斬。息をする前に息を止める。ひとつの影武者がその本体で切り裂き、
一人斬り、次に移りまた斬り裂く。赤い飛沫がその度に吹き飛ぶ。これを八回。八方向から刀を振り下ろして抜けていく。敵の肉体はまるで牛肉の塊に包丁を入れるように裂けるように分断。裂傷分断。裂傷分断。サイコロステーキが完成。見るも無残。俺は自分の手を使わずして相手を殺した。敵が自慢のガトリングを撃つ前に。血は良く見るので吐き気はなかったが、自己嫌悪は残った。
二回戦、終了。すぐ三回戦が始まる。
三回戦も同様の手を使って終了した。相手は親を戦争で失った女の子だった。それはさすがに、辛かった。この場に参加せざるを得なくなる社会と少女のすべてが辛かった。ひとつ終わらせるために、俺は断腸の思いで影武者に攻撃を命じた。彼女は負けを望んでいて、影武者は「御免」と首を一断。俺は涙を流し、片手で顔を覆わざるを得なかった。
三回戦も終了。
これで俺は二回、直接手を下していない事になるのだろう。しかし、どう言い訳しても俺が殺したことに違いはない。戦争を指揮する犯罪者と変わらない。どんな環境であろうと、許される街であろうとそれは許されてはいけない。人として許されないことを噛み砕いて、俺は決勝戦に残った。これに勝てば終わりだ。優勝賞品を成哉に渡して帰ろう。もう、やめよう。
朱色のテレビ塔の地下街の試合は終わり。次は、ノルベサの赤い観覧車の下。その地下深くに作られた〝チカ街〟が舞台となる。早く、早く。最悪俺が死んでも、終わらせたい。もちろん、戦う前に必ず万が一のことがあった時は娘のことを頼むと雁来成哉に言ってある。ボスのあれほど美しい冷えた「わかっている」を聞いたのは初めて。それだけで、俺は泣きたくなった。やっぱり、まだ死にたくない。
決勝戦が始まる。