炎と爆音が廃工場を包み込み、マスクドレイダー――
視界が闇に沈み、身体が浮遊する感覚に襲われる。
音も風も消え、静寂がどこまでも続く。
「なんなんだ、これ…………」
声が、
次の瞬間、眩い光が弾け、体が急に重力に引っ張られた。
「ッ!!」
反射的に着地。
柔らかい地面、草の匂いがした。
「草原…? こんな場所、近くにあったか?」
目の前には、果てしなく広がる大草原がそこにあった。
廃工場のあの殺伐とした雰囲気とは真逆だ。
風に揺れる緑が地平線まで続き、空は澄んだ青。
遠くの丘と鳥のさえずりが、清々しい空気を運んでくる。
――スーツにGPSやセンサーでも付いてりゃ楽だったのに……結局、頼れるのは自分の目と鼻、それとこれまでの経験だけだ。
「マジで、どこだよ、ここ」
小さく呟き、ぐるっと360度見渡す。
地平線の彼方まで草が揺れ、遠くの丘以外に目立つ地形はない。
空には雲一つなく、太陽がほぼ真上に位置している。
時間帯は昼間、恐らく正午前後だろう。
風の流れや草の匂いから、人工的な臭気は感じられない。
少なくとも、廃工場のあの爆発の影響はここには及んでいないようだ。
涼しい風が頬を撫でる。
「ふぅ……悪くねえな、この空気」
汗と硝煙の匂いが残る顔に、草原の風は心地がよかった。
「圏外………」
案の定、電波はゼロ。
位置情報アプリも「読み込みエラー」を表示するばかりだ。
「使えねえな、ったく」
周囲を改めて見渡す。
緑の草原、遠くの丘、青い空。
すべてが現実離れしたほど静かで、まるで絵画の中に放り込まれたみたいだ。
だが、廃工場のあの異常な爆発と光を思い出すと、ここがただの草原でないことはハッキリしてる。
「…あの光、何だったんだ? 組織の仕掛けか、それとも…」
考えを巡らせながら、空を仰ぐ。
太陽の光が眩しく、目を細めた。
――ゴオオオッ。
「……?」
重低音の風切り音が大気を震わせ、巨大な影が空を横切る。
視線が動きを捉え、身体が硬直した。
「は?」
――赤い鱗に覆われた巨大な竜が飛んでいた。
翼は丘を覆うほどデカく、尾が空を切るたびに風が唸っている。
鋭い牙と燃えるような目が、地上からでもバッチリ見えた。
「な……な………な」
竜に目を奪われ、言葉を絞り出すのがやっとだった。
怪人の比じゃない、あの圧倒的な
ここが、ただの草原ではないことを改めて思い知らされた。
竜は悠然と旋回を終えると、遠くの丘の向こうに消えた。
風が止み、草原に再び静けさが戻る。
「………………」
夢か? 幻覚か?
自嘲するように笑い、首を振る。
「どうやら俺、疲れてるらしいな……」
そう呟きながら、スマホをもう一度確認するが、依然として圏外。
その時、足元に何か柔らかいものがぶつかった。
見下ろすと、ゼリーのような鋼色のスライムが、ぷるぷると震えながら体当たりしてくる。
その様子をじーっと観察する。
スライムは無邪気に跳ね、まるで子犬のようにはしゃいでいた。
全然、痛くない。………が。
「は、はは」
直感が言ってる。
夢ではない、と。
スライムはぷるんと跳ね、また真雲の足にぶつかってくる。
ちょっと鬱陶しい。
「絡むなって、邪魔だぞ」
軽く舌打ちしつつ、頭を掻く。
――『竜』に『スライム』って、RPGでも始まるのか?
スライムを完全にスルーし、
「とりあえず…………歩くか……って、おい、ついてくんなよ」
スライムがクルクル跳ねながら、後をついてきた。
どうやら真雲のことを気に入ったようだ。
「くそっ、かわいいな」
スライムはキョトンとしたように震える。
「へ?」って顔をしてるみたいだった。
「……勝手にしろ」
半ば諦めつつ、同行を許すことにした。
別に、愛くるしさに負けたわけではない。
現地調査のためだ。うん。
再び歩き出すと、スライムは嬉しそうに、跳ねながら再びついてきた。
草原の先を見据える。
地平線はまだ果てしなく遠い。
風が背中を押し、どこか新しい物語の始まりを予感させる中、ただ一歩、また一歩と進んでいくのだった。