「ったく、どこまで歩いても何もねえな……この世界、観光地ゼロかよ」
真雲零は
果てしない草原が夕陽に染まり、風に揺れる草の波がどこまでも続いていた。
足元では、鋼色のスライムが何度もとぶつかり、『遊んでくれ』と言わんばかりに跳ねていた。
「おい、やめろ。ペット飼うようなキャラじゃねえんだよ」
スライムは一瞬止まり、キラキラした表面を震わせて拗ねたような仕草を見せる。
夕陽に反射するその姿が、妙に愛らしいかった。
――竜にスライム、さて次は何だ?ダンジョンでも出てくんのか?
自嘲気味に笑う。
数時間、適当に歩き続けた先。
草原のなだらかな起伏が途切れ、地面が突如として、切り立った崖に変わる。
――はぁ、これだけ歩いて行き止まりか。
落乱し、崖の下を覗く。
「…………!!」
そこには黒々とした岩場の階段、そして、ぽっかりと空いた巨大な洞窟があった。
洞窟の周囲には苔むした石柱が不規則に並び、穴から硫黄の臭いが鼻をつく。
「マジで、ダンジョンきたよ……」
中を覗き込む。
底は見えず、闇がどこまでも続いているようだった。
「絶対ヤバいだろ……誰が好き好んでこんなとこ――」
スライムがぷるんと跳ね、穴の縁に近づいてキョトンとした様子でこっちを見上げる。
「なんだよ、お前も興味あんのか?いや、入んなよ、マジで 」
スライムを軽く足で押しのけつつ、周囲を見回す。
穴の近くには、人の足跡や馬車の轍、さらには壊れた剣や鎧の破片が散らばっていた。
「人が出入りしてるってことは……ここ、なんかあるな」
――となると、話は変わるのだが。
「……………」
――どうする?RPGの世界なら、トラップとかあるよな。いや、それより現地民と遭遇した場合、なんて言えばいい。『よく分からん光に飲まれて、この世界にやってきました、助けてください』?…………いやいやヤバすぎる。通報案件じゃねぇか。
その時、風向きが変わり、穴の奥からかすかな叫び声が聞こえてきた。
「―――――――ァ゛ア゛ッ!」
声は遠く、だが確かに人間のもの。
聞き慣れている。
これは、絶望と恐怖に満ちた叫びだ。
目が鋭く細まる。
―――明らかにただごとじゃねぇ。
この先危険なのは、百も承知だ。
だが、足はすでに動き始めていた。
「…………おい」
スライムに呼びかける。
「お前は来るな」
スライムが「へ?」みたいな動きで跳ねる中、
岩場を滑るように降り、穴――いや、『ダンジョン』の入り口へと足を踏み入れた。