触れた相手の魔力を介してその精神を支配する異能——魔力感染。
術者が望めば聖人君子ですら、一言の命令で幼子を犯す鬼へと変貌させる。
この能力は、相手を絶望に叩き落とすほどにその効力を増し、対象の抵抗を奪う。
シルバに能力の詳細を明かしたのも、まさにそのためだ。
力を理解させ、もう助からないと思い込ませることで、術中にはまりやすくするのだ。
最強の初見殺し——と、言えるだろう。
だが、この能力は決して万能ではない。
同時に操れる人数は10人が限界。
持続時間も1週間と期限つき。
さらに、一度洗脳が解かれると、相手には完全な免疫がつき、二度と能力は通用しない。
この制約が、アランの支配を常に不安定なものにしていた。
今、アランが従えているのは、駒の中でも最高戦力の三人。
本来なら、シルバがいなくとも、彼らだけで目的のダンジョンを攻略できるはずだった。
だが、アランはタワーオフェンスゲ—ムの如く、適当な冒険者を地道に狙い、ダンジョンに送り続けるしかなかった。
その理由は、たった一つの拭いきれぬ不安。
怖かったのだ。
過去に一度——。
資金稼ぎのため、森奥のモンスター討伐に送り込ませた駒が戻ってこなかった日があった。
アランは死んだものとして放置していたが、実際は遭難し、脱水症状で倒れていたところを他の冒険者に救われていた。
1週間が過ぎ、その駒は教会で目を覚ますやいなや、狂ったようにアランのもとへ向かった。
仲間たちの仇。
アランが強いた非道な行いは残虐なもので、暇さえあれば駒同士で殺し合いを
それまで持ち合わすことすら許されなかった復讐心が湧き上がり、ナイフを振り上げ、殺意を剥き出にして襲いかかった。
後から駆け付けた駒のおかげで、その冒険者は殺せたが。
あの時の戦慄は、今も肌に張り付いている。
もし能力の詳細が漏れ、集団で対策を講じられていたら、アランはそこで終わっていただろう。
遠距離での攻撃には対処できない。
気絶につながるようなものを喰らってしまえば、能力も意味をなさない。
アランの戦闘力は、能力を除けば皆無に等しいのだ。
これらの不安は、アランの心を
それ以降、外敵から身を守るため、常にそのときの最高戦力を手元に置くようになった。
彼らはバクラダでも指折りの冒険者たちだ。
老剣士のガルザックは、『
50歳を超える齢でありながら、その剣で両断した大型モンスターは100を超え、過去にはガ—ディアンを単身で討伐した実績もある。
後衛の一人、ゼルドは『
数時間かかる高位強化魔法を、わずか数分で完成させる卓越した魔術師。
その言霊は戦場を瞬時に変える。
もう一人の魔術師リナスは、『
武器の潜在能力を極限まで引き出し、錆びた剣すら一騎当千の業物に変える。
彼らは、いくつも点在するダンジョンを何度も攻略してきた、『攻略班』と呼ばれるプロの冒険者たちが集うギルドの精鋭たちだった。
そして今、その力はアランの私欲のために振るわれている。