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第238話 反撃の手筈(中編)

「っ!?……レクシャ殿。これってもしかして、我が国で作られた転移用の魔道具ですね?」

「はい、そうです。さすが、マーザス様ですね」



 筆頭宮廷魔法師であり、帝国魔法研究所の副所長でもあるマーザスは、レクシャの手の中に収まっている見知った物を見て、思わず目を見開いた。

 すると、皇帝が首を傾げてマーザスの方を見た。



「マーザス、これは?」

「あっ、はい! こちらは、我が国で平民向けに作っている転移魔法が付与された魔道具でございます。とは言っても、貴重な非属性魔法が付与されておりますので、属性魔法が付与された魔道具に比べると少々値が張る物ですが」

「平民向け……ということは!?」



 『平民向け』という言葉を聞いて、レクシャの思惑を気づいた宰相。

 そんな彼を一瞥したレクシャは、小さく笑みを零した。



「えぇ、この魔道具は魔力ではなく魔石で動きますので、無効化魔法を使う人達でも簡単に転移魔法を使うことが出来ます。とは言っても、転移先を事前に登録をしないといけない上に、必要となる魔道具の数も多いので、準備するには少々時間がかかりますが……」

「そういうことでしたら、お任せください」

「マーザス殿?」



 小首を傾げるレクシャに、マーザスは体をレクシャの方に向けると、笑みを浮かべながら胸に手を当てた。



「この魔道具は、我が帝国の無効化魔法を使える者に持たせるのですよね?」

「えぇ、そうですね」

「それでしたら、我々帝国魔法研究所にお任せください。転移先の座標と必要になる数を教えていただければ、来る時までにご準備致しましょう」

「よろしいのですか?」

「はい、もちろんです」



(弟弟子であり我が親友が、自国で頑張っているんだ。ならば、兄弟子として少しでも手助けするべきだろう)



「とは言っても、陛下の許可が下りてからにはなりますけどね」

「……ありがとう、ございます」



 深々と頭を下げたレクシャに、マーザスは優しく微笑んだ。

 すると、蚊帳の外だった皇帝が少々不機嫌そうに声をかけた。



「おい、レクシャ。マーザスも言っていたが、皇帝である俺が許可しなければ、魔道具の準備だけでなく、帝国の悪魔すら貸さないからな」

「はい、分かっております。皇帝陛下」



 頭を上げたレクシャは、いつの間にかマーザスの方に向いていた体を皇帝と宰相に向けると話を戻した。



「転移先には、既にシュタール辺境伯家とヴィルマン侯爵家の騎士団が待機してさせています。ですので、転移後は騎士団にすぐさま合流していただき、我が次男からの合図を待っていただきます」

「ほう、合図と?」



 僅かに笑みを浮かべた皇帝に、レクシャは小さく頷いた。



「はい。我が次男は、夜中にノルベルトを知っております。そして、ノルベルトが建国祭の前日の最後の準備として、いつものように魔力を注入し、自室で深い眠りにつくところを、姿隠しの魔法で気配を一切消している次男が確認する手筈になっております」

「つまり、その愚か者が深い眠りについたタイミングで、ご子息が合図を送るということでしょうか?」

「はい。次男が、転送魔法を使い騎士団の皆様に合図を送ります」

「その合図が送られたら、魔法陣に無効化魔法を使うということか?」

「正確には、シュタール辺境伯家とヴィルマン侯爵家の騎士団に、結界の見張りをしている騎士たちを制圧してもらった後、無効化魔法を使える者達で魔法陣の中にある闇魔法の魔力を無効化してもらいます」

「結界を見張る騎士? おい、レクシャ。貴様は先程、『王都の警備を強化するために国境にいる騎士達に召集をかける』と申していたではないか?」



 眉間の皺が深くなった皇帝に対し、レクシャは真剣な表情のまま答えた。



「実は、国境付近で警備をしている騎士達とは別に魔法陣を守っている騎士達がおりまして、奴の計画ではその者たちには召集をかけません。万が一にでも魔法陣が使えなくなると困りますから」

「フン、そこだけは用心深いようだな。他は、どうしようもなく杜撰であるが」

「えぇ、そうですね」



(それに、自分以外の人間を使い捨ての駒としか思っていないノルベルトのことだ。ある程度仕事を部下達に押し付け、確認がてら水晶に魔力を注入したら、明日に備えてさっさと眠りにつくだろう)


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