※カミル視点です。
雪の訪れを感じさせるような寒さを覚えた翌日。
魔石屋の店主様の言う通り、王都は一面銀世界になった。
真っ白な雪に喜ぶ子どもたち。その全員が、身なりの良い温かそうな服を着ていた。
恐らく……いや、間違いなく貴族の子だろう。
だって、平民の子ども達はいつものように親の手伝いをしているだろうから。
そんなことを思いながら、私はいつものように村からの納品分を得意先に納品し、これまた村から頼まれた物資を買い込んだ。
そして、最後に紫色の一輪の花とチョコレートケーキを買った。
別に期待なんてしていない。けど、何となく用意した方が良いかなと思っただけ。
「よし、これで完成」
しんしんと雪が降る中、仕事を終えた私は少しだけ早い夕食にありついた。
今日は一段と寒いから、うんと温かいものでも食べよう。
「でも、ちょっとだけ作り過ぎちゃったかな」
テーブルの上に置かれた鍋いっぱいのポトフに、思わず苦笑いを零す。
一体、何を期待したのやら。今日は聖なる日。あの人が来るはずがない。
「まぁ、明日の朝ご飯に回せば……」
コンコンコン
「えっ?」
聞き間違いだろうか? さっき、ドアがノックされたような……
コンコンコン
「カミル~、来たから開けてくれ~」
「っ!?」
嘘、でしょ?
慌ててベレー帽とアイマスクを身につけた私は、震える手を押さえてドアを開ける。
そこには、両腕をさすりながら震えているメスト様が立っていた。
「どう、して……」
どうして、あなたがここにいるの?
「『どうして』って、今日は俺が泊りに来る日だろ?」
「そう、ですが……あの、今日は何の日かご存じで……」
「ごめん、それよりも中に入らせてくれ。さすがの俺も、この寒さは堪える」
「あっ、すみません」
雪の冷たさで体が冷え切ったメスト様を中に入れた私は、そのまま彼を脱衣所に押し込んだ。
「ふぅ、助かった~。ありがとう、カミル」
「どういたしまして」
空になった鍋を前に、満足げな笑みを浮かべながらお腹をさするメスト様。
そんな彼に、私は眉を顰めながら問い質す。
「ところで、どうして今日来たのですか?」
「それはもちろん、カミルと鍛錬するために……」
「今日、何の日かあなた様だってご存じのはずですよね」
今日は聖なる日。そして、今日はメスト様のお誕生日。想い人と過ごすには絶好の機会のはず。
それなのに、どうして私のところに来たの?
静かに問い質す私に、メスト様は苦笑しながら頭を掻いた。
「もちろん知っている。今日は聖なる日。そして、俺の誕生日。だが、聖なる日で騎士達が次々と休むお陰で、朝から忙しくてそれどころじゃなかったんだ」
「そう、だったのですね」
「あぁ、それにダリアからは『聖なる日は別の人と過ごすので一緒に過ごせません』って珍しく手紙が来たから」
「っ!?」
あの女、本当に何を考えているの!?
婚約者の誕生日に、婚約者をほったらかして別の人と過ごすなんてどんな神経しているのよ!
それに、聖なる日だからこそ騎士として国を守って欲しいのだけど……まぁ、あの男が宰相である限り無理ね。
あの女の自由奔放さに怒りを覚えつつも、誕生日にも関わらず身内の事情に振り回されたメスト様に内心同情した。
すると、気まずそうな顔をしていたメスト様が静かに背を正した。
「それに……今日は、カミルに祝って欲しいなと思ってな」