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特別編 雪の日に甘くほろ苦い贈り物を(後編)

※カミル視点です。




「私に、祝って欲しいのですか?」

「あぁ、カミルに祝って欲しいんだ」

「っ!?」



 どうして、どうして私に祝って欲しいの?


 メスト様の言葉に唖然としていると、メスト様の視線が一輪の花に向けられた。



「珍しいな、花を飾るなんて」

「えっ、えぇ……たまには良いかなと思いまして」

「そうか」



 言えない。本当は、あなたのことを想って買ったなんて。


 買ったばかりの紫色の花に柔らかく微笑みかけるメスト様に、私は勇気を振り絞る。



「そう言えば今日、帰りにチョコレートケーキをいただいたのですが、よろしければ召し上がりますか?」



 徐に椅子から立ち上がった私は、空になった鍋を持つと無表情のままさりげなく聞く。


 手、震えていないわよね?

それにしても、心臓の音がうるさい!

この音が聞こえてしまったらどうしてくれるのよ!



「おぉ! チョコレートケーキか! もちろんいただくが……いいのか? 俺が食べても?」

「えぇ、ちょうど2ついただいたので」



 嘘。本当は、花を買った後に、わざわざケーキ屋に寄って2つ買ったのだ。



「そういうことなら、ありがたくいただこう!」



 満面の笑みを浮かべるメスト様。

 そんな彼を見て罪悪感を覚えないわけがない。それでも……



「分かりました。それでは、用意しますね」



 彼の誕生日をお祝い出来ることが嬉しくて仕方なかった。

 だって、今の私にはその資格がないから。

 だから……



「お誕生日おめでとうございます。メスト様」



 嬉しそうにケーキを待っている彼に聞こえないように、キッチンに逃げた私は小さくお祝いの言葉を呟いた。

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