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第256話 あの夜の真実(前編)

「シトリン君、いつまで魔法の効果が続く?」



 ルベルからの問いに、時が遡って止まった森を見回したシトリンが淡々と答える。



「規模からしてもって1時間です。それを過ぎたら、元の時間に戻ります」

「分かった」



 小さく頷いたルベルは、そのままフェビルとメスト、ジルとザールに目を向けた。



「そういうことだ、フェビルにメスト君。それと、ジル様も。1時間以内に怪しいと思う人物を探してくれ」

「「「はっ!!!」」」

「分かりました」



 敬礼をする騎士3人と深々とお辞儀をするジルに、小さく笑みを浮かべたルベルは、表情を引き締めると4人と共に時の止まった森の中を捜索した。





「見つからないな」

「でも、何としても見つけ出さないといけません」

「そうだね。帝国に行っているラピスのためにも見つけ出さないと」



 ルベルやジル達と分かれた騎士達は、険しい表情のまま月明かりが照らす森の中を血眼になって探す。

 だが、黒幕の姿は一向に見えない。


(本当は、あいつが一番見つけたいだろうに)


 今もカトレアの傍にいるであろうラピスのことを思い、小さく下唇を噛んだメストが反対側に目を向けた瞬間、遠くからジルの声が聞こえた。



「皆さん!! 見つけました!!」

「「「っ!?」」」



(まさか、捜索を開始して1時間足らずで見つかるとは)



「メスト、シトリン、聞こえたな?」

「「ハッ!!」」



 フェビルの合図で強化魔法をかけた騎士達は、すぐさま声が聞こえた方に駆けて行った。





「ジル様! 見つけたとは本当ですか!!」

「ルベル団長……」



 騎士3人が着く少し前に辿り着いたルベルは、少しだけ息を整えると背を向けているジルに声をかける。

 すると、振り返ったジルの顔が初めて会った時に見た温和なものではなく、険しいものに変わっていた。



「ジル様、一体どうされたのですか?」

「そっ、それは……」



 ルベルの問いかけにジルが申し訳なさそうな顔で視線を逸らした時、ジルの傍にいたザールがジルに何かを耳打ちする。



「……ふむふむ、なるほど。分かった、お前の意見に従おう」

「ジル様、護衛騎士は何と……」

「ジル様!」



 ルベルが再び声をかけようとした時、遠くから猛スピードで騎士3人が駆けてきた。



「フェビル団長に、メスト様に、シトリン様。来るのが早かったですね」

「えぇ、強化魔法を使って走ってきましたから」

「そうでしたか」



 2人の到着に一瞬笑みを浮かべたジルは、ゆっくりとメストの方に視線を向けると笑みを潜める。



「どうした? 俺を見て浮かない顔をして……」

「あぁ、そうですね」



 不思議そうに小首を傾げたメストに、小さく息を吐いたジルは真剣な表情で口を開いた。



「メスト様。それに、ルベル団長にフェビル団長にシトリン様。どうやら、僕たちは開けてはいけない箱を開けたかもしれない」

「それは、どういうことでしょうか?」



 困惑する4人を見て沈痛な表情で俯いたジルは、立っている場所から少しだけ横に下がった。



「恐らく、こちらがカトレア嬢を操った犯人だと思われます」

「「「「っ!?」」」」



 真犯人の姿に、4人は言葉を失う。

 何せ、視線の先には下卑た笑みを浮かべながらカトレアがいる方角に向かって闇魔法を放つダリアと、それを呆れ顔で見守っているリアンの姿があったから。





「そんな、まさか……」



(ダリアが、カトレア嬢を操っていたというのか? そもそも、どうしてダリアがこの場所にいる? それに、どうして闇魔法なんて使えているんだ?)



 見たことが無い笑みを浮かべる婚約者を目の当たりに、メストは魂が抜けたように膝から崩れ落ちた。

 そんな部下を見て、小さく拳を握ったフェビルは真犯人達に射貫くような視線を向けると、険しい顔をしたルベルが口を開く。



「どうして、この2人がこの場所に? 部下の報告では、お2人が同行するなんて聞いていない」



(部下から意図的に隠されている可能性もあるかもしれないが……あの親バカ宰相が、宮廷魔法師団長である俺に何も言わずに子どもを戦地に赴かせるような真似をしないはず)


 ノルベルトの性格をある程度知っていたルベルは、魔物が跋扈していた場所に2人がいることが疑問でしかなかった。

 すると、静観していたジルが少しだけ2人に近づいた。



「これは、この2人を見つけた護衛騎士が口にした予想なのですが……恐らく、このお2人は物見遊山で来たのではないのでしょうか?」

「「「はぁっ!?」」」



 驚きの声を上げる騎士3人に対し、ルベルは地を這うような声でジルに問い質す。



「……つまり、興味本位でこちらに来たということか?」

「そうなるかと」

「っ!?」



(遊び感覚でこの場所に来るなんて、正気の沙汰とは思えんぞ!)


 怒りを抑えるように拳を握るルベル。

 すると、内心気圧されていたシトリンが、軽く咳払いをするとその場にいる人達に提案をする。



「でしたら、この2人を動かしてみてはいかがでしょう?」


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