牢獄から、ゆらゆらと揺れる馬車に乗ること30分。
深い森の中に連れてこられた。
「降りろ」
執行人の命令で馬車から降り、その姿を確認する。
迷宮には空に向かって縦に伸びる建物型と、地面の下に続いていく
巨大な穴が目の前にあった。中は真っ暗でなにも見えない。迷宮だと知らなければ、隕石が3つぐらい重ねて落ちたのかと思うだろう。
「けっ! どうやって降りるんだよ、ここから!」
大柄な男が吠えるように不満を言う。
ちなみに、今日“迷宮流し”に遭うのは俺だけじゃない。他に9人いる。
“迷宮流し”は3ヶ月に1度
「全員、穴の前で整列」
嫌な予感がするものの、断るわけにはいかない。
俺達囚人一同は穴に沿うように並ぶ。
「手を前に出せ」
手錠のついた手を前に出す。10人の執行人が1対1で手錠を外していく。
「後ろで手を組め」
言われた通りにする。ここに来て反発する者はいない。
「全員、わかっていると思うが、これから貴様らは迷宮に入る。迷宮に一度入れば攻略するまで外に出ることはできん。もしも迷宮を攻略できた場合、攻略した者だけでなく、その時点で生きていた全員を無罪放免とすることを約束する」
「質問だ」
俺は質問を挟む。
「なんだ?」
「迷宮にはどうやって入るんだ?
「ない。これからお前らを突き落とす」
驚きの声が、囚人たちから漏れた。
いや、いやいやいや! こんな底の見えない穴に落ちたら、落下ダメージでお陀仏だろうが!
「や、やってられるかよぉ!!」
痩せた40歳ほどの男が執行人の1人を突き飛ばして、逃げようとする。すぐに執行人が剣を抜き、男の腹を貫いて首を撥ねた。
他の囚人も、俺も、多少反発の心はあっただろう。でも今ので消え去った。なぜなら剣を抜いた執行人の手際があまりにプロだったからだ。丸腰じゃ、勝てる相手じゃ無かった。
「では、健闘を祈る」
「最後に1つ、マハルトに伝言を頼んでもいいか?」
執行人は「マハルト?」と首を傾げる。
「……ああ、あの博打好きの。いいだろう。聞いてやる」
「じゃあこう伝えてくれ。『もし迷宮を攻略できたら、真っ先にテメェを殺しに行く』」
「わかった。伝えておこう」
一斉に、俺達は穴へ突き飛ばされた。
「うわあああああああああああああっっ!!!」
ただひたすらに叫ぶ。意味ないとわかっていても、叫んだ。
俺だけじゃない。他の囚人も叫んでいる。
太陽の光が遠くなる。漆黒に包まれていく。
「おわ!? なんだ!?」
めちょ。と、音がした。背中から、スライムのようなものに着地した。緑色のスライムの膜が穴に敷いてあった。
(気持ちわりぃ!!)
俺達はスライムに飲み込まれていく。
スライムが全身を包み、数分経った頃、ボトンと落とされた。
落とされた部屋は正方形の土の部屋。
そこら中にロウソクが設置されている。あと、人骨が所々落ちている。
俺と、他9……じゃなくて、1人いなくなったから8人の囚人、全員揃っている。
「なに、ここが迷宮なの?」
「あー、死んだかと思ったぜ」
「どうせ死ぬんだろ、今からよ」
「見ろ! あそこに階段があるぞ!」
太った男囚人が指さした先に、さらに地下へと繋がる階段があった。
こうして始まったのだ。
無罪を勝ち取るための、戦いが。
大迷宮〈ティソーナ〉――攻略開始。