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第4話 ヘル or デス

「エクソシスト……ってなんだ?」

「悪魔を討伐する専門家だ」

「聞いたことない」

「やはり、この国ではエクソシストはあまり知られていないようだな。エクソシストを名乗ったら『魔女だ』と言われて投獄された」

「そりゃ災難だったな」

「いいや、そうでもない。私はこの迷宮を作り出した悪魔に用があって、この国まで来たのだからな。“迷宮流し”になったのは不幸中の幸いだ」


 不幸中の幸いはこっちの方だ。

 悪魔を討伐する専門家と、奇跡的に同じタイミングで“迷宮流し”を受刑したんだからな。


「あんたはこれから迷宮を攻略するのか?」

「そういうことになる」

「だったら俺も一緒に連れて行ってくれ! 雑用でもなんでもやる!」

「断る」


 女――ハーツは、冷たい瞳で見てくる。


「勘違いするなよ。私はエクソシストだが、善人ではない。現に、私は先に行った6人を見捨てているし、さっきの男にも致命傷を与えた。一般人ならまだしも、罪人であるお前らを守る義理はない」

「俺は……冤罪で罰せられたんだ」

「嘘をつくな」


 ハーツは俺を指さし、威圧を放ってくる。


「ここに入れられた9人の中で、お前が一番邪気を孕んだ目をしていた。初めてだ。エクソシストでも悪魔でもない奴に恐れを抱いたのは……」


 そんな怖い眼をしていただろうか。今後は気を付けよう。


「話は終わりだ。さよならだ」


 ハーツは地面を蹴り砕き、走り出した。


「勝手に終わらせんなよ……!」


 俺は走ってハーツを追いかける。

 せっかく見つけた、地上に繋がる糸。ここで見逃すわけにはいかない。


(なんつー、速さだ!)


 太ももがはち切れるぐらい力を出しているのに、どんどん距離を離されていく。

 しかもアイツは、通せんぼしてくる悪魔を殺しながら走っている。

 途中、他の受刑者たちの死体が見えたが、足を止めることもせず、追い続ける。余計な思考はなしだ、走ることに、追うことに集中しないとあっという間に見失う。


「……驚いたな」


 ようやく、ハーツが足を止めた。


「2割の力で走っている私に、生身で追いつくとはな」

「だーっ! はーっ!! ……い、今ので2割かよ!!」


 とんでもねぇぞこの女! 馬より速いんじゃないか!?


「……そうだ、良いことを思いついた」


 ハーツは俺の方を向く。

 ハーツは俺を指さし、予想外のことを言い出す。


「お前、私の弟子になれ」


 えーっと?


「はあ? 弟子? それってつまり、俺にエクソシストになれって言ってんのか?」

「そうだ。最近、教団が『弟子を取れ』とうるさくてな」


 教団? ってのは、エクソシストを雇ってる組織だろうか。


「いやいや勘弁してくれ。俺はここから無事に出たいだけだ。それに弟子なら、ここを出た後探せばいいだろ?」

「これまで多くの弟子を募ったが、全員、私の修行に耐え切れずに逃げ出した。どうやら私の指導は地獄らしい。何人か殺しかけたこともある。『こんな修行を受けるぐらいなら死んだ方がマシだ』と言ったやつもいたな」


 まだ少ししかこいつと接していないが、なんとなく容赦のない人間だということはわかる。


「俺だって根性のある方じゃない。弟子になったところですぐに逃げだすぜ」

?」

「なにを言って――」


 そこで俺は気づく。

 この女が考えている非道な策に。


「この迷宮内において、安全なのは私の近くだけだ。つまり、私から逃げれば待っているのは死だけ」

「こ、の野郎……!」

「弟子入りを断るのなら、ここでおさらばだ」


 弟子入りを断れば、こいつは今度こそ俺を巻くつもりだろう。

 弟子入りすれば、地獄の修行とやらが待っている。そして修行に耐え切れず逃げ出せば、俺は悪魔に殺される。


 あれ? 詰んでね?



「さぁ選べ少年。弟子ヘルオア死刑デスだ」



 選択の余地なんて、あってないようなもんだ。


「……上等だ。地獄を歩いて生還してやる」


 こうして、俺は剣闘士からエクソシストにジョブチェンジした。

 なーに、迷宮を攻略するまでの辛抱だ。迷宮を攻略したら剣闘士からもエクソシストからも足を洗って、自由に生きてやる。

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