「エクソシスト……ってなんだ?」
「悪魔を討伐する専門家だ」
「聞いたことない」
「やはり、この国ではエクソシストはあまり知られていないようだな。エクソシストを名乗ったら『魔女だ』と言われて投獄された」
「そりゃ災難だったな」
「いいや、そうでもない。私はこの迷宮を作り出した悪魔に用があって、この国まで来たのだからな。“迷宮流し”になったのは不幸中の幸いだ」
不幸中の幸いはこっちの方だ。
悪魔を討伐する専門家と、奇跡的に同じタイミングで“迷宮流し”を受刑したんだからな。
「あんたはこれから迷宮を攻略するのか?」
「そういうことになる」
「だったら俺も一緒に連れて行ってくれ! 雑用でもなんでもやる!」
「断る」
女――ハーツは、冷たい瞳で見てくる。
「勘違いするなよ。私はエクソシストだが、善人ではない。現に、私は先に行った6人を見捨てているし、さっきの男にも致命傷を与えた。一般人ならまだしも、罪人であるお前らを守る義理はない」
「俺は……冤罪で罰せられたんだ」
「嘘をつくな」
ハーツは俺を指さし、威圧を放ってくる。
「ここに入れられた9人の中で、お前が一番邪気を孕んだ目をしていた。初めてだ。エクソシストでも悪魔でもない奴に恐れを抱いたのは……」
そんな怖い眼をしていただろうか。今後は気を付けよう。
「話は終わりだ。さよならだ」
ハーツは地面を蹴り砕き、走り出した。
「勝手に終わらせんなよ……!」
俺は走ってハーツを追いかける。
せっかく見つけた、地上に繋がる糸。ここで見逃すわけにはいかない。
(なんつー、速さだ!)
太ももがはち切れるぐらい力を出しているのに、どんどん距離を離されていく。
しかもアイツは、通せんぼしてくる悪魔を殺しながら走っている。
途中、他の受刑者たちの死体が見えたが、足を止めることもせず、追い続ける。余計な思考はなしだ、走ることに、追うことに集中しないとあっという間に見失う。
「……驚いたな」
ようやく、ハーツが足を止めた。
「2割の力で走っている私に、生身で追いつくとはな」
「だーっ! はーっ!! ……い、今ので2割かよ!!」
とんでもねぇぞこの女! 馬より速いんじゃないか!?
「……そうだ、良いことを思いついた」
ハーツは俺の方を向く。
ハーツは俺を指さし、予想外のことを言い出す。
「お前、私の弟子になれ」
えーっと?
「はあ? 弟子? それってつまり、俺にエクソシストになれって言ってんのか?」
「そうだ。最近、教団が『弟子を取れ』とうるさくてな」
教団? ってのは、エクソシストを雇ってる組織だろうか。
「いやいや勘弁してくれ。俺はここから無事に出たいだけだ。それに弟子なら、ここを出た後探せばいいだろ?」
「これまで多くの弟子を募ったが、全員、私の修行に耐え切れずに逃げ出した。どうやら私の指導は地獄らしい。何人か殺しかけたこともある。『こんな修行を受けるぐらいなら死んだ方がマシだ』と言ったやつもいたな」
まだ少ししかこいつと接していないが、なんとなく容赦のない人間だということはわかる。
「俺だって根性のある方じゃない。弟子になったところですぐに逃げだすぜ」
「
「なにを言って――」
そこで俺は気づく。
この女が考えている非道な策に。
「この迷宮内において、安全なのは私の近くだけだ。つまり、私から逃げれば待っているのは死だけ」
「こ、の野郎……!」
「弟子入りを断るのなら、ここでおさらばだ」
弟子入りを断れば、こいつは今度こそ俺を巻くつもりだろう。
弟子入りすれば、地獄の修行とやらが待っている。そして修行に耐え切れず逃げ出せば、俺は悪魔に殺される。
あれ? 詰んでね?
「さぁ選べ少年。
選択の余地なんて、あってないようなもんだ。
「……上等だ。地獄を歩いて生還してやる」
こうして、俺は剣闘士からエクソシストにジョブチェンジした。
なーに、迷宮を攻略するまでの辛抱だ。迷宮を攻略したら剣闘士からもエクソシストからも足を洗って、自由に生きてやる。