牢屋に行きついた。
「ここは……?」
ここが俺の意識の中、魂の部屋なのだろうか。
牢屋だ。鉄格子が目の前にあって、その奥にさっきの悪魔がいる。
俺が看守で、悪魔が囚人みたいだ。
パッと視線を下ろすと、俺の腰に鍵がぶら下がっていた。俺は腰の鍵を手に取り、目の前の牢の扉を開ける。
「【ギギッ!!】」
悪魔は叫び、飛び掛かってくる。
俺は悪魔の首を右手で掴み、睨みつける。
「おい、アホ鬼。とっとと俺の中から出て行け」
「【ギ……ギッ!】」
悪魔は反抗する。
俺は声色を低くして、再度忠告する。
「……殺すぞ」
「【ギ!?】」
悪魔は頬に汗をつたらせ、その体を消滅させた。
◆◆◆
「――は!?」
意識が魂から現実に戻る。
目の前にはさっきの悪魔がいる。俺から飛び出た感じだ。
(なんだ、これ)
俺の体に、青色のオーラが見える。悪魔にも、紫色のオーラが見える。
「それが霊力だ」
「これが……」
生まれ変わった気分だ。
「【ヒギッ!!】」
悪魔が俺に背を向け、逃走を始めた。
俺は霊力を纏い、悪魔の進行方向に先回りする。脚力が段違いに上がっている。
俺はポケットに手を突っ込んだまま、蹴りで悪魔の顔面を蹴り砕いた。
「霊感は完璧につかめたようだな」
ハーツはその鉄仮面の口角を、初めて上げた。
(これで俺は悪魔を倒せるようになった)
もう自衛できるだけの力は備わった。後はハーツが迷宮をクリアするまで時間を潰すだけでいいのでは?
ここで、コイツの弟子をやめてしまっても――いいんじゃないのか?
――否。
俺は今、好奇心を抱いてしまっている。
この霊力の先にある技に、術に、興味を持ってしまっている。
「へい
「ふん、調子の良い奴め」
◆ハーツ視点◆
ハーツ=ヴァンクード。
エクソシストならば、その名を知らない者はいないというほどの傑物だ。
齢10歳でエクソシストになり、それから13年で第七教団の
(この霊力は……)
霊力に目覚めたエルが発したオーラは、ハーツの想像を超えるものだった。
(霊力だけで言えば、すでに司教のレベルはある)
教団の階級は6つ。
―――――――――――――――――
教皇(1人)……七つある教団を統べるエクソシスト。エクソシストの頂点。
枢機卿(7人)……一から七まである教団をそれぞれ担当するエクソシスト。
大司教(21人)……枢機卿を補佐するエクソシスト。それぞれの教団の幹部。
司教(200人)……大司教を補佐するエクソシスト。教皇に直接その実力を認められたエクソシストがなれる。
司祭(2500人)……下っ端エクソシスト。エクソシストはまずこの階級から始まり、大抵のエクソシストは生涯司祭のまま終わる。
助祭(6000人)……エクソシストを補佐する一般人。
―――――――――――――――――
基本的に、強い順に階級は決まる。
エルはすでに司教に匹敵するだけの霊力を発していた。これは異常なことである。
(恐らくは“
“逆境転生”とは、死の淵を彷徨わせることで霊力を覚醒させる方法を言う。ハーツが示した3つの霊感を掴む方法の内、その2に
(“逆境転生”で霊力に目覚めた者は、他2つの方法で霊力に覚醒した者より多量の霊力を持つとされている。90%の人間は“逆境転生”を行っても霊感も掴めず、霊力も増えることなく死ぬか生き返る。9.9%の人間は霊力を増やし霊感も掴める。こいつはそのどちらにも当てはまらない存在。“逆境転生”をえて、霊感は掴めなかったが霊力は増やせた者だ)
決闘において引き分けとなった回数、13回分の“逆境転生”の積み重ねだ。
しかし、“逆境転生”は本当に死の淵まで追い込まないと成せない業。エルは13回も死の淵を彷徨い、生還したということになる。異常なことだ。
(純粋にタフなんだろうな。強力な生命力、それがこいつの才能なのだ。……面白い。殺すつもりで追い込んでやろう)
ハーツは不気味に笑った。