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第6話 魂の部屋

 牢屋に行きついた。


「ここは……?」


 ここが俺の意識の中、魂の部屋なのだろうか。

 牢屋だ。鉄格子が目の前にあって、その奥にさっきの悪魔がいる。

 俺が看守で、悪魔が囚人みたいだ。

 パッと視線を下ろすと、俺の腰に鍵がぶら下がっていた。俺は腰の鍵を手に取り、目の前の牢の扉を開ける。


「【ギギッ!!】」


 悪魔は叫び、飛び掛かってくる。

 俺は悪魔の首を右手で掴み、睨みつける。


「おい、アホ鬼。とっとと俺の中から出て行け」

「【ギ……ギッ!】」


 悪魔は反抗する。

 俺は声色を低くして、再度忠告する。


「……殺すぞ」

「【ギ!?】」


 悪魔は頬に汗をつたらせ、その体を消滅させた。



◆◆◆



「――は!?」


 意識が魂から現実に戻る。

 目の前にはさっきの悪魔がいる。俺から飛び出た感じだ。


(なんだ、これ)


 俺の体に、青色のオーラが見える。悪魔にも、紫色のオーラが見える。


「それが霊力だ」

「これが……」


 生まれ変わった気分だ。


「【ヒギッ!!】」


 悪魔が俺に背を向け、逃走を始めた。

 俺は霊力を纏い、悪魔の進行方向に先回りする。脚力が段違いに上がっている。

 俺はポケットに手を突っ込んだまま、蹴りで悪魔の顔面を蹴り砕いた。


「霊感は完璧につかめたようだな」


 ハーツはその鉄仮面の口角を、初めて上げた。


(これで俺は悪魔を倒せるようになった)


 もう自衛できるだけの力は備わった。後はハーツが迷宮をクリアするまで時間を潰すだけでいいのでは?


 ここで、コイツの弟子をやめてしまっても――いいんじゃないのか?


――否。


 俺は今、好奇心を抱いてしまっている。

 この霊力の先にある技に、術に、興味を持ってしまっている。


「へい師匠マスター。次の修行はまだかい?」

「ふん、調子の良い奴め」



 ◆ハーツ視点◆



 ハーツ=ヴァンクード。

 エクソシストならば、その名を知らない者はいないというほどの傑物だ。

 齢10歳でエクソシストになり、それから13年で第七教団の枢機卿すうききょうとなった天才。そんな天才が畏怖する才能が、目の前にあった。


(この霊力は……)


 霊力に目覚めたエルが発したオーラは、ハーツの想像を超えるものだった。


(霊力だけで言えば、すでに司教のレベルはある)


 教団の階級は6つ。




―――――――――――――――――


 教皇(1人)……七つある教団を統べるエクソシスト。エクソシストの頂点。

 枢機卿(7人)……一から七まである教団をそれぞれ担当するエクソシスト。

 大司教(21人)……枢機卿を補佐するエクソシスト。それぞれの教団の幹部。

 司教(200人)……大司教を補佐するエクソシスト。教皇に直接その実力を認められたエクソシストがなれる。

 司祭(2500人)……下っ端エクソシスト。エクソシストはまずこの階級から始まり、大抵のエクソシストは生涯司祭のまま終わる。

 助祭(6000人)……エクソシストを補佐する一般人。


―――――――――――――――――




 基本的に、強い順に階級は決まる。

 エルはすでに司教に匹敵するだけの霊力を発していた。これは異常なことである。


(恐らくは“逆境転生ぎゃっきょうてんせい”の影響だな)


 “逆境転生”とは、死の淵を彷徨わせることで霊力を覚醒させる方法を言う。ハーツが示した3つの霊感を掴む方法の内、その2にあたいするもの。


(“逆境転生”で霊力に目覚めた者は、他2つの方法で霊力に覚醒した者より多量の霊力を持つとされている。90%の人間は“逆境転生”を行っても霊感も掴めず、霊力も増えることなく死ぬか生き返る。9.9%の人間は霊力を増やし霊感も掴める。こいつはそのどちらにも当てはまらない存在。“逆境転生”をえて、霊感は掴めなかったが霊力は増やせた者だ)


 決闘において引き分けとなった回数、13回分の“逆境転生”の積み重ねだ。

 しかし、“逆境転生”は本当に死の淵まで追い込まないと成せない業。エルは13回も死の淵を彷徨い、生還したということになる。異常なことだ。


(純粋にタフなんだろうな。強力な生命力、それがこいつの才能なのだ。……面白い。殺すつもりで追い込んでやろう)


 ハーツは不気味に笑った。

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