「ぷーっ! ろwうwそwくwの付喪神ぃ!? 絶対、弱っちいじゃないですかぁ!」
図書館へ向かう馬車の中。
俺がティソーナを紹介すると、隣に座っているフォウが笑い転げた。
(もうお決まりの反応だな……)
「【なめんじゃねぇぞ! 俺様が本気を出せばダイヤモンドだって斬れるんだからなぁ!!】」
「ダイヤモンド!」
フォウはやれやれと肩を竦め、俺の膝に肉球を乗せる。
「まったく、つまらない冗談を言うロウソクちゃんですね」
「冗談じゃねぇさ」
「え?」
「こいつに斬れねぇもんはねぇよ」
俺が真剣な目で言うと、フォウは顔を真っ青にして席の端っこに身を寄せた。
「ロウソクの付喪神に、妄言癖の術師……これ、フォウが頑張らないといけない案件では!?」
馬車が止まる。
俺とフォウは街中にある図書館へ辿り着いた。
図書館は家とかショップの並ぶ場所にあり、通行人も普通にいる。
図書館の前には依頼人と思しき女性が立っていた。
「お待ちしておりました。エクソシスト様……あれ? エクソシスト様ですよね?」
そう思うのも無理はない。
俺は黒いシャツに緑のズボン。白の上着を腰に巻いているラフな恰好(上着を腰に巻いてるのはベルトに付けたロウソクを隠すため)。
もう1人は布団を被ったたぬきだ。
「そうだよ。俺が依頼を受けたエクソシストだ」
正確にはまだ
「そうですか。失礼しました。私はこの図書館で働く司書です。今日は図書館への入館は禁止にしております。なので、現在図書館の中には誰もいません」
「おお、それは助かる」
「これが図書館の鍵です」
司書は5つの鍵が掛かった鉄の輪をくれた。
俺は右肩にティソーナを、左肩にフォウを乗せ、図書館の前に立つ。
「感じるな、霊力」
「あの~、お腹痛くなってきたので帰っていいですか?」
「帰ってもいいけど、マーサ司祭に告げ口するからな」
「うっ! ……いじわる」
異質な空気を感じる図書館に、足を踏み入れる。
◆◆◆
エルとフォウゼル。2人と入れ違いになるように1人の助祭(非戦闘員)が教団支部のマーサ司祭を訪ねた。
「え!? それは本当ですか!?」
マーサは助祭の話を聞き、顔に汗を浮かばせる。
「はい。例の図書館を利用した人たちが次々と記憶障害を訴えています。特殊な能力を持つ悪魔……それもかなりの影響力をもった悪魔が潜んでいるかと。Fランクは妥当なランクではありません。Eランク……いや、Dランクに引き上げるべきです」
「そんな……! もう司祭1名と入団希望者を1名、向かわせてしまっています!」
Dランク任務は司祭2名から受けられる依頼。
戦闘力の低いフォウゼルと、司祭ですらないエルでは荷が重い、とマーサは判断する。
「私が行きます! 馬車の用意を!」
焦るマーサのもとへ、1人の男が訪れる。
「お久しぶりです。マーサ司祭」
男は灰色のロングヘアーで、身長は180cmほど。制服を着ていることからエクソシストだとわかる。
両耳には、金属の輪に銃弾をぶら下げたピアスが付いてる。
「ロビン大司教!」
「どうしたの? なにかもめ事?」
彼の名はロビン=アルヴァス。17歳で第七教団所属の大司教となった男だ。
「それが……」
マーサは“図書館の声”のランク変動についてと、その任務にすでにエルとフォウゼルが向かったことを伝えた。
「Dランクか。フォウの手にはちと余るな……」
「いまから私が救援に向かいます!」
「いいよ、俺が行く。いま暇だし……」
ロビンの右耳についた弾丸が喋り出す。
「【サッキ、デートスル予定ダッタ女ニフラレタカラナ!!】」
甲高い少年の声だ。
右耳の弾丸の発言を受け、今度は左耳の弾丸が喋り出す。
「【別の女の子と付き合っているのがバレて振られたのよね。自業自得よ】」
右耳の弾丸に比べ、左耳の弾丸は穏やかな女性の声だ。
彼らは弾丸の付喪神であり、いまは耳のピアスに付いた弾丸に取り憑いている。
ロビンは痛い所をつかれ、肩を落とした。
「……すみませんロビン大司教。女性に振られたばかりなのに……」
「いや、いいよ。変な気を使わないでくれ……」
「【スッゲー、デブナ女ダッタゼ!】」
「【コラ! デブって言っちゃ可哀そうよ。ロビンはふくよかな女性が好きなのよね】」
ロビンは頭を掻きながら、出口に向かう。
「100㎏以下の女は抱いた心地がしないのよ。あーあ、エクソシストは細身の女ばっかりで嫌になるぜ」
ロビン=アルヴァスは見た目も美麗で、女性にモテる。しかし、体重100㎏以下の女性はお断り。