俺は
「【おっと。武器は
「どうして?」
「【ここにある本には記憶が閉じ込められている。戦いの余波で本が壊れたりすれば、記憶は行き場をなくし消滅します】」
「ふーん」
「【どうして私が記憶を集めているか、気になるでしょう? 教えて差し上げましょう】」
悪魔はべらべらと喋り出す。
「私が記憶を集める理由、それは単なる知識欲です。知識を蓄えれば蓄えるほど私は満たされる。司書の記憶、医者の記憶、放浪者の記憶。大切な記憶や、逆にトラウマの記憶。どれも見ていて楽しいし、ためになる。人の思い出を吸収することで最初は虫けらほどの知能しかなかった私も、今やここまで言葉が喋れるようになった。知識は強さ、知識は生命力です】」
「そんな、あなたの都合で……人の思い出を奪うなんて最低です!」
フォウは俺の記憶の書を抱いて、泣きそうな声で言う。
「……思い出は、全部大切で……かけがえのないものなのに……!」
フォウの体から、霊力が立ちのぼる。
「あなたは許せません!」
「【許せない? ならば一体――】」
「もうやめだ」
俺は話を強引に打ち切る。
「みえみえの時間稼ぎするなよな。長話して、俺達の記憶がなくなるのを待ってるんだろ?」
「【どうでしょうかねぇ……】」
俺はロウソクから炎の刃を出す。
それを見たフォウと悪魔は動揺する。
「ロウソクから、炎の刃が生えた!?」
「【なにを……!? 炎が本に燃え移ったらどうするのです!】」
「フォウ。俺の記憶の書を上に掲げろ」
「こ、こうですか?」
フォウが両手で本を上に掲げる。俺は俺の記憶の書を――炎の刃で斬り裂いた。
「うえっ!?」
「【馬鹿な!?】」
「やっぱりな」
空白だった記憶が、埋まっていく。
「俺の記憶、戻ってきてるぜ」
「【くっ……!】」
「さっきの『本が壊れれば記憶が消滅する』ってのはブラフだろ? 俺達を暴れさせないためのな」
「【なぜ、そう思ったのですか?】」
「別に、深い
「【そんな理由で、なんの確証もなく
俺はロウソクを構え、薄く笑う。
「心配すんな。元より、大切な記憶なんざねぇ」
俺は時計悪魔を縦に斬り抜ける。
「……こんなせこい真似で足止めするんだ、戦闘力はないって言ってるようなもんだぜ」
「【それは違います】」
声が、天井から聞こえた。
「――なに?」
ゴォン!!
と、倉庫の扉を突き破り、大量の本が流れ込んできた。
「【私が仕掛けなかったのは、あくまで記憶の本を守り、あなたたちの記憶を奪うためです】」
「ちっ!」
「あばばっ!?」
背後の本棚が床に飲み込まれて、俺達の背後には壁だけが残った。
俺とフォウは本の海に圧され、壁を突き破って本ごと外に押し出される。
「
フォウは大きな狼に変化し、俺を背に乗せ図書館正面の通りに着地する。
「サンキュー、フォウ」
「世話が焼けますね!」
図書館は――変貌していた。
一階部分が開き、口のような形に。二階部分には目玉ができている。
「なんですか、あれ……」
「迷宮説は外れだな。あいつは……図書館そのものに取り憑いていたんだ」
図書館の悪魔。限定的な悪魔だな……。守護神にすれば、図書館にのみ取り憑ける付喪神になるのだろうか。
「【その通りです。私は図書館にのみ憑ける悪魔。図書館の設備は私の体の一部。自由自在に操ることができる】」
図書館悪魔は口から大量の本を吐き出し、攻撃してくる。
霊力を纏った本だ。避けるのはたやすいが、ここは人通りの多い道、一般人を守らなくてはならない。
俺は炎の刃で本を迎撃するが、全部はカバーできない。
「変化! “ぽっちゃりタヌキ”!!」
フォウが巨大な毛玉――もとい巨大たぬきになって、その大きな腹で本の大群から一般人を守る。
「あだだだだだ! 皆さん、早く逃げてください!」
フォウは身を挺して市民を守る。
「……なんだよ、全然役立たずなんかじゃねぇじゃねぇか」
防御はフォウに任せ、俺は図書館に向かう。
「【どうする気だ?】」
「こうなったら仕方ねぇ。図書館ごと悪魔を燃やすぞ!」
「【その言葉を待ってたぜぇ!!】」
地を蹴り、飛び上がると、本が壁を作って進路を塞いでくる。
「【近づかせませんよぉ!!】」
「うっぜぇなぁ!」
本が固まり、手の形をとる。俺は本の手にはたき落とされた。
「っつぅ!!」
背中から地面に突っ込む。
「【本が邪魔で図書館までいけねぇぜ】」
俺は口に溜まった血をペッと吐き出し、
「上等だ。まとめてぶっとばしてやる」
炎の刃を消す。
そして、ティソーナが取り憑いたロウソクの芯が、チリチリと火花を散らし始めた。まるで――火の点いた導火線のように。
「ティソーナ、モード“
◆◆◆
「あれが我らが枢機卿の弟子か! ははっ! すげーな、ロウソクの付喪神だってよ! おもしれぇ!」
時計塔の上。
1人のエクソシストが高みから図書館悪魔と、エルとフォウを見守っていた。
「しかし、記憶を奪う悪魔か。第四教団が欲しがりそうだ」
「【助けにいかないの?】」
左耳の弾丸が聞く。
「【アノアクマ、ケッコウヤルゼ!】」
右耳の弾丸が言う。
大司教ロビンは「冗談だろ」と笑う。
「こっからが面白いところだろうよ」