「【おい相棒、本当にここで合ってるのか?】」
「……間違いねぇよ」
夜8時、俺はロビン大司祭の指定の場所に来た。
その場所の名は……〈キャバクラ トントトン〉。
ピンク色の光が店から漏れている。これはあれだ、大人の店というやつだ。
「気が利くじゃねぇか……」
青少年がこのピンクのオーラに興味ないわけがない。
鼻の下を伸ばして、俺は扉を開ける。
「いらっしゃ~い」
「なっ……!?」
そこはたしかに、キャバクラだった。
けれど、キャバ嬢に偏りがあった。
――太っている。
全員が丸々太っている。大柄だ。
一番軽い人間でも恐らく100㎏は超えているだろう。
「おー! 来たか! こっちだ、こっち」
真っ赤のソファーにあの大司教は座っていた。
両脇にキャバ嬢を抱えている。ソファーが沈みに沈んでいるじゃない。
俺、今からあそこに行くの?
「まーっ! 可愛い子! ほら、座って座って!」
「さすがロビンちゃんの連れねぇ~、反抗期真っ盛りって感じで可愛いわぁ! 眠たげな眼も素敵ッ!」
ロビンとの間にキャバ嬢を1人挟み、俺は座る。
「まさか大司祭殿がこんなぽっちゃり好きだったとはな」
「細身の女なんて抱いても気持ちよくねぇぞ。ま、ガキにはまだこの魅力はわからないか」
多分、一生わからんと思う。
「……それで? 試験の日程と場所は?」
「試験日は明日、時間は朝9時だ。ちょうど第一期の中途入学試験の試験日が明日でな、お前をねじ込んでおいた。感謝しろよ。試験会場はこの街の南部にある教団が管理している訓練場だ」
「オーケー。それだけわかれば十分だ。またな」
俺が立ち去ろうとすると、手をロビンに掴まれた。
「待っち! 待っち! もっとゆっくりしてけよ。お前の話が聞きたいんだ」
時同じくして、フルーツの盛り合わせがテーブルに届く。
「食っていいぞ。ここは俺のおごりだ」
「……しゃあねぇな」
果物を貪りつつ、話を聞く。
「まずよ、どうしてお前はエクソシストになりたいんだ? 仇討ちか? それとも純粋な正義感か?」
「いいや、俺がエクソシストになりたい動機は、復讐心でも正義感でもない」
「じゃあなんだ?」
「俺がエクソシストになるのは、ハーツ=ヴァンクードを口説くためさ」
「はぁ!?」
ロビンは困惑した表情をする。
「あいつに惚れた。一目惚れだ。でも、あいつには父親に決められた婚約者がいるらしい」
「おう。いるぜ。よーく知ってる」
「あいつを口説くためには、まず父親に婚約者を取り下げて貰わなきゃならねぇ」
「お前、知らないのか? あの人の父親は教皇なんだぞ。教皇に言うことを聞かせるには……」
そこでロビンは俺の目的に気づいたのか、言葉を詰まらせた。
「まさか、お前」
「多分、そのまさかだ。ハーツの縁談を潰すために、俺は教皇を目指している」
ぷ。と、ロビンは吹き出し、なにかがはち切れたように笑いだす。
「あはははははははっ!! ま、まさかあのバケモノに挑戦しようって人間がいるとはな! しかも、そんなくだらない理由で! こんな面白人間がまだこの世にいたとは……だはははははっっ!!」
ロビンは腹を抱えて笑う。笑うに笑う。
「はー……笑った笑った。しかし、教皇様……アルフォン=シッドは手強いぞ」
「アルフォン=シッド? それが教皇の名前なのか?」
「ああ」
「おかしいな。ハーツの父親なら、ファミリーネームはヴァンクードじゃないのか?」
「本名はアルフォン=ヴァンクードだよ。代々教皇にはシッドの名が贈られるのさ。教皇として動くときは、常にシッドを名乗る」
「シッドってのは、教皇である証なのか」
「そういうこと。シッドには“主人”って意味があるらしいぜ。我らエクソシストの主人アルフォン=シッド様ってわけさ」
ロビンは頬杖をつき、俺をジッと見てくる。
「いいな。その話」
ロビンは口元を歪ませる。
「のったぜエル。俺がお前をプロデュースしてやるよ」
軽い口調でロビンは言い放った。
「プロデュース?」
「お前が教皇になれるよう、協力してやるって言ってんだ」
ロビンは、俺の目を見て、視線を固定する。
「どうして協力する? あんたに得があるか? 今の教皇に不満でもあるのかよ」
「俺に得はあるし、教皇への不満もまぁある。そうだなぁ、まずお前に、1つ重大な情報を教えてやろう」
ロビンは一度視線を切り、グラスに入った飲み物を飲んで、再度俺を見て言う。
「ハーツ=ヴァンクードの婚約者は、この俺だ」
「なんだと……!?」