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第25話 革命問答 前編

「【おい相棒、本当にここで合ってるのか?】」

「……間違いねぇよ」


 夜8時、俺はロビン大司祭の指定の場所に来た。

 その場所の名は……〈キャバクラ トントトン〉。

 ピンク色の光が店から漏れている。これはあれだ、大人の店というやつだ。


「気が利くじゃねぇか……」


 青少年がこのピンクのオーラに興味ないわけがない。

 鼻の下を伸ばして、俺は扉を開ける。


「いらっしゃ~い」


「なっ……!?」


 そこはたしかに、キャバクラだった。

 けれど、キャバ嬢に偏りがあった。


――太っている。


 全員が丸々太っている。大柄だ。

 一番軽い人間でも恐らく100㎏は超えているだろう。


「おー! 来たか! こっちだ、こっち」


 真っ赤のソファーにあの大司教は座っていた。

 両脇にキャバ嬢を抱えている。ソファーが沈みに沈んでいるじゃない。


 俺、今からあそこに行くの?


「まーっ! 可愛い子! ほら、座って座って!」

「さすがロビンちゃんの連れねぇ~、反抗期真っ盛りって感じで可愛いわぁ! 眠たげな眼も素敵ッ!」


 ロビンとの間にキャバ嬢を1人挟み、俺は座る。


「まさか大司祭殿がこんなぽっちゃり好きだったとはな」

「細身の女なんて抱いても気持ちよくねぇぞ。ま、ガキにはまだこの魅力はわからないか」


 多分、一生わからんと思う。


「……それで? 試験の日程と場所は?」

「試験日は明日、時間は朝9時だ。ちょうど第一期の中途入学試験の試験日が明日でな、お前をねじ込んでおいた。感謝しろよ。試験会場はこの街の南部にある教団が管理している訓練場だ」

「オーケー。それだけわかれば十分だ。またな」


 俺が立ち去ろうとすると、手をロビンに掴まれた。


「待っち! 待っち! もっとゆっくりしてけよ。お前の話が聞きたいんだ」


 時同じくして、フルーツの盛り合わせがテーブルに届く。


「食っていいぞ。ここは俺のおごりだ」

「……しゃあねぇな」


 果物を貪りつつ、話を聞く。


「まずよ、どうしてお前はエクソシストになりたいんだ? 仇討ちか? それとも純粋な正義感か?」

「いいや、俺がエクソシストになりたい動機は、復讐心でも正義感でもない」

「じゃあなんだ?」

「俺がエクソシストになるのは、ハーツ=ヴァンクードを口説くためさ」

「はぁ!?」


 ロビンは困惑した表情をする。


「あいつに惚れた。一目惚れだ。でも、あいつには父親に決められた婚約者がいるらしい」

「おう。いるぜ。よーく知ってる」

「あいつを口説くためには、まず父親に婚約者を取り下げて貰わなきゃならねぇ」

「お前、知らないのか? あの人の父親は教皇なんだぞ。教皇に言うことを聞かせるには……」


 そこでロビンは俺の目的に気づいたのか、言葉を詰まらせた。


「まさか、お前」

「多分、そのまさかだ。ハーツの縁談を潰すために、俺は教皇を目指している」


 ぷ。と、ロビンは吹き出し、なにかがはち切れたように笑いだす。


「あはははははははっ!! ま、まさかあのバケモノに挑戦しようって人間がいるとはな! しかも、そんなくだらない理由で! こんな面白人間がまだこの世にいたとは……だはははははっっ!!」


 ロビンは腹を抱えて笑う。笑うに笑う。


「はー……笑った笑った。しかし、教皇様……アルフォン=シッドは手強いぞ」

「アルフォン=シッド? それが教皇の名前なのか?」

「ああ」

「おかしいな。ハーツの父親なら、ファミリーネームはヴァンクードじゃないのか?」

「本名はアルフォン=ヴァンクードだよ。代々教皇にはシッドの名が贈られるのさ。教皇として動くときは、常にシッドを名乗る」

「シッドってのは、教皇である証なのか」

「そういうこと。シッドには“主人”って意味があるらしいぜ。我らエクソシストの主人アルフォン=シッド様ってわけさ」


 ロビンは頬杖をつき、俺をジッと見てくる。


「いいな。その話」


 ロビンは口元を歪ませる。


「のったぜエル。俺がお前をプロデュースしてやるよ」


 軽い口調でロビンは言い放った。


「プロデュース?」

「お前が教皇になれるよう、協力してやるって言ってんだ」


 ロビンは、俺の目を見て、視線を固定する。


「どうして協力する? あんたに得があるか? 今の教皇に不満でもあるのかよ」

「俺に得はあるし、教皇への不満もまぁある。そうだなぁ、まずお前に、1つ重大な情報を教えてやろう」


 ロビンは一度視線を切り、グラスに入った飲み物を飲んで、再度俺を見て言う。


「ハーツ=ヴァンクードの婚約者は、この俺だ」

「なんだと……!?」

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