ハーツの婚約者がこいつだと……?
「そんな怖い眼すんなよ。親が勝手に決めたことだぜ?
俺の両親もハーツ枢機卿の両親と同じで優秀なエクソシストでな、親同士がより良い血統を作るために決めた婚約だ。品種改良ってやつさ。もちろん、俺はこの縁談に大反対だ」
ロビンは立ち上がり、両腕を広げる。
「見ての通り、俺は100㎏以下の女には興味がねぇ!」
「ハーツはどっちかって言うとスレンダーだからな。細マッチョって言ってもいいけど」
「だろう? 他の連中は揃ってあの人を美人だと評するが、俺はぜーんぜん惹かれない。まぁ、エクソシストとしては尊敬してるけどよ」
だけど。とロビンは言葉を続ける。
「俺もエクソシストだ。教皇の言葉には逆らえない」
「それで、俺を教皇にして縁談を破談にしようって魂胆か」
「そうゆうこと」
「あんた自身が教皇になろうとは思わないのか?」
「――ガラじゃねぇ。俺は大司教ぐらいがちょうどいいんだよ」
少しだけ、いま表情が曇ったな。
「どうだ? 俺の提案、受ける気あるか?」
「大司教が手伝ってくれるなら心強いってもんだ。断る理由がない」
「そっかそっか。……そんじゃま、念のため、確認な」
――見えなかった。
「なっ……!?」
いつの間にか俺は額にリボルバーの銃口を押し付けられ、ロビンの左手に胸倉を掴まれてソファーに押し込まれていた。
ロビンは一切眼を笑わせず、俺を睨むように見る。
「動くなよ? つーか、動けないか」
ロビンからあふれ出た禍々しい霊力が、体を抑えつけてきた。
全身を粘土に包まれてるみたいだ……!
「【エル!? テメェ、この野郎! なにしやがる!】」
「黙ってろ付喪神。俺とこいつの話だ」
ロビンがティソーナを睨む。ティソーナは気圧され、黙り込んだ。
キャバ嬢たちも騒然とする中、ロビンはまったく周りを気にせず話し始める。
「冗談や酔狂で言ってるわけじゃねぇんだ。俺達がやろうとしていることは革命さ。教皇を引きずり下ろすってのはそういうことだ。生半可な野郎とは組めないわけ、わかるか?」
「……ああ」
「教皇になりたいなら、教皇を殺すだけの覚悟が必要なんだよ。エル、お前にあるか? 教皇になるために、教皇を殺す覚悟がよ……」
「そんな覚悟、必要ない」
「はぁ?」
俺は霊力の制止を振り払い、右手を振り上げロビンの首を掴む。
「――なくても殺せる」
「……ほんっと、お前おもしれーわ。面白くて、恐ろしい」
ロビンは銃をホルスターにしまった。
「安心したよ。お前には賭けるだけの価値がある――」
ロビンは右手人差し指と中指を合わせ銃に見たて、俺の額に押し付ける。
「エル!」
ロビンは笑って、口を大きく開く。
「俺がお前を“エル=シッド”にしてやる!」
シッドは、教皇に贈られる名前だ。
つまり、もしも俺が教皇になったら、
俺の名前は“エル=シッド”になるのだ。
「俺とハーツ枢機卿の結婚は4年後の春だ。期限はあと4年。教皇の就任平均年齢は42歳、お前が成し遂げようとしていることはいまだ前代未聞のことだ。真っ当なルートじゃ到底成しえない……死ぬ気で俺のプロデュースについてこいよ」
「……上等だ!」