試合の時間がきた。
俺とヴィッツは岩板の上で対峙する。岩板のすぐ側にはバケツ教師がいる。このバケツ教師が審判を務めるそうだ。
「まず決闘の前に、互いの守護神を披露しろ」
ヴィッツは指を鳴らす。
「来い。ガルーダ!!」
ヴィッツの頭上に、カラフルな羽色をもった怪鳥が出現した。
(式神か……)
それを見たギャラリーにいる教団関係者はざわめきだす。
「ふぅむ。飛行型の式神だねぇ」
「腐ることはないな……」
「問題は強度だろ。人を引っ張り上げられるだけのパワー、それに悪魔の攻撃を避けられるだけの速度がなきゃ使えん」
どうやら好感触のようだ。
「次、エル」
バケツ教師が急かしてくる。
俺は1本のロウソクを前に出した。
「ロウソク?」
と、ほとんどの人間が口をそろえた。
俺はロウソクに
「憑神ッ!!!」
ロウソクにティソーナが憑依した。
ギャラリーたちは、ガッカリ半分、驚き半分の声をあげる。
「ロウソクの付喪神!?」
「はじめて見るな。記録にもない」
「しかし、ロウソクとは……」
「たまに面妖な守護神が信じられない力を発揮することもある。ま、たまにだがな」
俺は右手にロウソクを持ち、腰の左側に当て、構える。
「【エル、なんだその構えは……】」
「サムライが使っていた構えだ。たしか、“居合い”とか言ってたっけな」
バケツ教師が「
「いつでも大丈夫ですよ」
「こっちもだ」
俺は腰を落とし、呼吸を整える。
「……いいかティソーナ。俺の振りに合わせて、
小声で俺は言う。
「【ぜ、全火力!? 蝋を全部使う勢いでいいのか!?】」
「そうだ。一瞬で全部使いきれ。
「【……へへっ! おもしれぇじゃねぇかよ!!】」
まだだ、まだ集中力が足りない。
一切無駄なく、洗練された半月を描く。斬撃が
集中……集中……。
「では、これより……」
集中力が深まる。海の中に沈んでいくみたいだ。
呼吸と、心臓の音が、大きく聞こえる。
「試合開始ッ!」
バケツ教師の合図と同時に、怪鳥は動き出した。
「飛翔せよ、ガルーダ! あのふざけた連中を
怪鳥がいっそう高く飛んだ。
――ここだ。
(ティソーナ、モード“
怪鳥はまだ20メートル先にいるが、俺は構わず居合い斬りを放った。
斬ッ!!!!!
蝋から飛び出た炎の刃は、30メートルを超える刃となり、美しい
――一瞬。
一瞬で、怪鳥は
決闘場の壁にまで刃は届き、長い焼き斬り傷を作った。
手にあった蝋は溶けきり、白くべたつく液体だけが右手に残る。
「…………は…………?」
ヴィッツは理解まで時間がかかった。20秒はなにもわかっていなかった。
「これは、異例だな」
と、バケツ教師は呟く。
ヴィッツは他に守護神はもってない様子で、俺はまだロウソクを持っている。勝負は決まった。
「試合終了! 勝者、エル!!」
会場はいまだ、静まり返ったままだ。