目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第28話 瞬殺 

 試合の時間がきた。

 俺とヴィッツは岩板の上で対峙する。岩板のすぐ側にはバケツ教師がいる。このバケツ教師が審判を務めるそうだ。


「まず決闘の前に、互いの守護神を披露しろ」


 ヴィッツは指を鳴らす。


「来い。ガルーダ!!」


 ヴィッツの頭上に、カラフルな羽色をもった怪鳥が出現した。


(式神か……)


 それを見たギャラリーにいる教団関係者はざわめきだす。


「ふぅむ。飛行型の式神だねぇ」

「腐ることはないな……」

「問題は強度だろ。人を引っ張り上げられるだけのパワー、それに悪魔の攻撃を避けられるだけの速度がなきゃ使えん」


 どうやら好感触のようだ。


「次、エル」


 バケツ教師が急かしてくる。

 俺は1本のロウソクを前に出した。


「ロウソク?」


 と、ほとんどの人間が口をそろえた。

 俺はロウソクに付喪神ティソーナを憑かせる。


「憑神ッ!!!」 


 ロウソクにティソーナが憑依した。

 ギャラリーたちは、ガッカリ半分、驚き半分の声をあげる。


「ロウソクの付喪神!?」

「はじめて見るな。記録にもない」

「しかし、ロウソクとは……」

「たまに面妖な守護神が信じられない力を発揮することもある。ま、たまにだがな」


 俺は右手にロウソクを持ち、腰の左側に当て、構える。


「【エル、なんだその構えは……】」

「サムライが使っていた構えだ。たしか、“居合い”とか言ってたっけな」


 バケツ教師が「双方そうほう準備はいいか?」と聞いてくる。


「いつでも大丈夫ですよ」

「こっちもだ」


 俺は腰を落とし、呼吸を整える。


「……いいかティソーナ。俺の振りに合わせて、を刃に変えろ」


 小声で俺は言う。


「【ぜ、全火力!? 蝋を全部使う勢いでいいのか!?】」

「そうだ。一瞬で全部使いきれ。一太刀ひとたちに、全てをけろ」

「【……へへっ!  おもしれぇじゃねぇかよ!!】」


 まだだ、まだ集中力が足りない。

 一切無駄なく、洗練された半月を描く。斬撃がたゆんだらこの技は失敗する。


 集中……集中……。


「では、これより……」


 集中力が深まる。海の中に沈んでいくみたいだ。

 呼吸と、心臓の音が、大きく聞こえる。



「試合開始ッ!」



 バケツ教師の合図と同時に、怪鳥は動き出した。


「飛翔せよ、ガルーダ! あのふざけた連中をき飛ばせ!!」


 怪鳥がいっそう高く飛んだ。


――ここだ。


(ティソーナ、モード“蛇腹剣スネークブレード”)


 怪鳥はまだ20メートル先にいるが、俺は構わず居合い斬りを放った。 


 斬ッ!!!!!


 蝋から飛び出た炎の刃は、30メートルを超える刃となり、美しいあかき半月を描く。


――一瞬。


 一瞬で、怪鳥はななめに真っ二つに斬り裂かれ、消滅した。

 決闘場の壁にまで刃は届き、長い焼き斬り傷を作った。

 手にあった蝋は溶けきり、白くべたつく液体だけが右手に残る。



「…………は…………?」



 ヴィッツは理解まで時間がかかった。20秒はなにもわかっていなかった。


「これは、異例だな」


 と、バケツ教師は呟く。

 ヴィッツは他に守護神はもってない様子で、俺はまだロウソクを持っている。勝負は決まった。


「試合終了! 勝者、エル!!」


 会場はいまだ、静まり返ったままだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?