「
それらしく挨拶を交わし、
姿が見えなくなった後、残された
「邸まで送る」
答える前にひょいと抱き上げられ、唖然とする。
「だ、だ、大丈夫っ。ひとりで帰れる!」
じたばたと暴れてみたが、少しも
明け方から騒がしい庭先に、ふたりの従者が同時に顔を出す。
「······君の邸は?」
もはや暴れるだけ無駄と悟った
「公子さまは見かけによらず力持ちなんだね、」
「····君が軽すぎるのでは?」
「そうかなぁ? 普通だと思うけど。公子さまは背も高くて美男子だから、人気者なんじゃない?」
「······私は他人とはほとんど話さない」
「そうなんだ。でも、初対面の俺とはこんな風にお話してくれるの?」
「·········それは、」
口ごもるように
「みんな俺のことを厄介者扱いしてるんだ。まあ、俺がいつもふざけて遊んでるからなんだけど。母上や
「君は君だ····痴れ者かどうかなんて、私には関係ない。それに、厄介者でもない」
なんの抑揚もなくそんな事を言うので、
その後も
見慣れた邸の低い塀の前まで来た所で、やっと地面に足が付けられた。細身なのにどこにそんな体力と腕力があるのか、まじまじと下から上にかけて眺めていたら、視線が合った。
「えっと、奉納祭まではまだ時間があるから、狭いけど休んでいく?」
断ると思っていたが以外にも頷いてくれたので、嬉しくなって後ろに回り、背中を押して一緒に前に進む。門を開けて庭に入ると、年老いた桜の木が迎えてくれた。縁側からそのまま中へ入った
まだ朝早いが、いつもなら
「母上?」
声をかけながら奥へ進む。しん、とした邸の中を歩くのは久しぶりで、不安が過った。後ろをついて来る
自分たち以外の物音はしない。
「母上、入るよ?」
「母上っ」
駆け寄って、うつ伏せになって倒れている母の身体を仰向けにする。思わず揺さぶろうとした手を
「動かさない方がいい」
言って、ゆっくりと抱き上げ寝台の方へと連れて行き丁寧に降ろす。顔色が悪いのもそうだがなによりもどこか違和感があった。
「母上、聞こえる?」
声をかけると、瞼が少し震え半分だけだがゆっくりと開かれる。失礼、と
「夫人、起きてから倒れるまでになにか口にしましたか?」
いいえ、と弱々しく細い声で答える
「母上には奉納舞が終わるまでは、自分が用意したもの以外は口にしないようにって、言ってたから」
「·····これは、毒の症状だ」
「毒!?」
「鍼をうって気を正せば、毒の巡りも少し抑えられる。