「······良かった、楽になったみたい」
「毒が抜ければ楽になる。だが、今日の奉納舞は諦めた方がいい」
道中の会話で、奉納舞を踊るのが自分の母親だと言っていたのを聞いていた。
昨日の夕方に届けられた新しい衣裳は、そのまま綺麗に畳んで置いてあった。つまり衣裳に仕込まれた毒ではない。状況を見るに、
鏡台の前で倒れていたから間違いないだろう。
違和感はそこにある。
「母上はゆっくり眠ってて。後のことは俺がなんとかしてみせるから、」
頬に触れ、安心させるように笑って見せる。眠っているため返答はないが、こうなることを予測していなかったわけではない。ただ今回の件はあまりにも悪質すぎる。今まで様々な嫌がらせは受けてきたが、これは到底赦されるようなことではない。
(けど衣裳まで新調させて、今日の奉納祭を成功させようと、あんなに力を入れていた
口元に眼がいった。ずっと違和感があると思っていたが、改めて
(この紅になにか····?)
それを自分の口元に運ぼうとした時、やめなさい、と突然手首を握られ止められる。同じことを思ったのか、部屋を物色し鏡台の上にあった紅を手にした
「思っている通り、これが原因だろう」
うん、と
夕方の記憶を辿る。
いずれにせよ、こんなことが赦されるわけがない。たとえ謝られたとしても、赦すわけがない。
「······公子様、頼みがあるんだけど、」
それがどんな頼みであっても、目の前の青年は頷いてくれるだろうと
「わかった」
と言って、なにも聞かずに
奉納祭まであと
四神の宝玉を浄化するための舞は、霊力を使いながら半刻ほど舞い続ける必要があった。今の最弱霊力ではまず無理だ。それを解決するには、この仮面を宗主に外してもらう他ない。
しかし本邸には入れない
ここに本邸の従者が迎えにやって来るのは、奉納祭が始まる直前だ。普段の
「――――という計画なんだけど、」
短時間で考えに考え抜いたその計画を伝え、理解したと
絶対に、赦さない。
母にこんな苦痛を与えた者を。
仮面の奥に、いつもの無邪気さはなかった。
そして、図らずも幕は上がる――――。