夫人の顔色がさあっと青ざめる。
「誰だ、あの仮面の少女? 少年? は」
「仮面といえば、ほら、例の
「だがあの衣裳、女物では····
その姿に対して、その場に騒めきが広がり始めた。そんなことなどまったく気にもとめずに、美しいひらひらとした女性用の舞の衣裳を纏い、真っ赤な口紅を塗った仮面の少年が颯爽と舞台の真ん中に舞い降りた。
白を基調とした薄い衣の裾は赤い金魚の尾のように美しい色合いで、中に纏う朱色の下裳がよく映えた。髪の毛は左右ひと房ずつ赤い紐と一緒に編み込まれ、後ろで軽く括られている。
しかし仮面というたったひとつの特徴だけで、全一族が同時に脳裏に浮かべたのは、
「お願いですから、こっちに戻ってきてください
若い従者は広間の入り口から先には入ってこれないようで、だいぶ憤っていた。
やがて広間がその中心にいる仮面の少年に注目し始めた頃、夫人がなんとか感情を落ち着かせ抑えた声で訊ねた。
「
夫人は、なぜその衣裳を纏ってここに立っているのかとは問わなかった。逆に宗主は彼女になにかあったのだと確信する。
「母上が
くるっと回ってみせると、ふわりと軽い衣が円を描くように一緒に舞い上がる。
(やはり、なにかあったのか······だがこれはどういう考えで動いている?)
今は見極めるのが先決と、宗主はその場から動かず、舞台の上に立つ
(あいつ····あんな格好でなにをしてるんだ?)
呆然と、
「だれか、その子を舞台から降ろしてちょうだい。早く
来客の前だからだろう、いつもの三倍は大人しく引きつった作り笑顔で夫人は言った。
「お騒がせして申し訳ございません。皆様はしばしご歓談を」
愛想笑いを浮かべたのも束の間、すぐさま宗主の方を振り向いて小声で助けを求める。
「宗主、あの子をどうにかしてくださいませ!」
「まずは話を聞くべきでは? 君も聞いたであろう?
宗主はふうと息を吐いて、とにかく座りなさいと促す。
「父上、あの
「あんな格好? これは夫人が今日のために新しく用意してくれた衣裳なのに、頭がおかしいなんてひどいよ〜!」
聞こえていたのか、わざとらしく頬を膨らませて、
「屁理屈を言うな! そもそもそれは、お前の衣裳じゃないだろう!」
そんな中、宗主が口を開く。
「
夫人には歓談していろとは言われたが他の一族たちは皆、舞台の上の者に興味を奪われてしまったようで、その様子を各々見物していた。
「母が倒れました。ここへは来れません。舞も舞えません。この場で唯一四神奉納舞が舞えるのは、母と同じ血を引く俺だけです。どうか代わりに舞を舞うことをお許しください」
その切り替えは流石で、宗主は厳格な面持ちのまま跪く
経緯は解らないが
「少し、よろしいでしょうか?」
そんな中、唐突に違う場所から上がった声に対して、皆が同時に視線を移して注目した。