その低く落ち着いた声の主は、
「
辺りが急にしん、と静まる。軽く礼をし、
「その方も公子のひとりとお見受けします。話を聞く限り、
「お、お言葉ですが、この子にはそんな技術も能力もありません。ましてや貴重な四神の宝玉を浄化するなど、あり得ないことです」
慌てて
「では、この事態をどう治めるんだ? 奉納祭を中断するなど聞いたことがないぞ」
「ではこうしてはいかがだろう? 公子殿の言う通り代理として舞い、もし失敗するようならば罰を与えては?」
「それはいいな。能がないのにしゃしゃり出て来て場を乱したのだから、それ相応の罰を与えるのが妥当だろう。この奉納祭が前代未聞の延期となれば、
口の端を釣り上げ皮肉そうに笑って、
「······その仮面を付けたまま舞うのですか? 顔を隠して舞を舞うなど、神聖な四神に失礼かと」
その低いがよく通る声の主に、大扇を広げて隣に座っていた
(
と、その場にいた者たちはほぼ同時に、同じ言葉を心の中で叫ぶ。
「ははっ! こりゃあ面白いものが見れたぞっ」
手を叩いて大笑いをする
「静粛に、」
(お前の思う通りになっていると?)
おかしいとは思っていた。その行動や言動に気を取られて、今の
(······霊力がほとんど感じられない)
何があったのかわからないが、それも関係があるのだろうか。仮面を外させるために誘導させている。そんな気がしてならない。
「父上、万が一失敗するようなことがあれば、俺はどんな罰でも受けます」
その言い方から察するに万が一にも失敗することはないのだろう。だがそれには大量の霊力が必要不可欠。しかし一度でも仮面を外せば、二度と元には戻せないし、その身がどうなるか予想もできない。
「
ずっと黙っていた
「········いいだろう。やってみるといい」
すっと立ち上がり、前へ出る。
歩を進めて舞台の上に立つ
宗主が仮面に手を翳し印を切った瞬間、薄っすらと光を帯びた仮面が上から下にひび割れて、そのまま真っ二つになって落ちた。静寂の中にカランという乾いた音だけが広間に響いた。
「なんと······、美しい」
誰が言ったのか。思わず声が出たのか。大勢の前で晒されたその顔は、誰もがその言葉の通りだと大きく頷く。
年齢よりは幼さの残る童顔だが、色白で美しく整った顔は
危惧していたようなことは何ひとつ起きなかった。宗主は頷き、
軽やかに立ち上がり、舞台の真ん中へ飛ぶと、笛を取り出し、口元に運ぶ。
その笛の音は、いつものでたらめな調子の音でもなければ適当な音程でもない、優しくも儚い音色だった。舞を舞いながら笛を吹き、舞台の上をくるくると回る。高い音が鳴り響いた瞬間から、誰もが言葉を失った。そして目が離せなくなる。
派手さはないが華やかで、しなやか。美しい笛の音とそこから溢れる霊力に、東西南北に置かれた宝玉が光を湛えて反応する。
あっという間に半刻が過ぎ、最後にくるりと回転して舞台の上にそのまま片膝を付いたその時、四色の光の柱が邸の天井に向かって同時に伸びていくのが見えた。
『――――我らが主に、拝礼する』
(······どういう、意味?)
『あなたが来てくださるのを、待っています』
『時を経て、再び契約を交わす時が来たのだ』
『待っておるぞ、
『我らはあなたと共に、』
立ち上がって光の柱を見回す。頭の中に響いていた声はやがて沈黙し、光の柱も薄れていった。
ひらり、はらり。
視界を過ぎった薄桃色の花びら、一枚。
ゆっくりと落ちて来た花びらを手のひらにのせ、ふと天井を見上げる。そこには色とりどりの花々が舞い散る美しい光景が広がっており、まるで舞台に立つ