「今のは······、」
「見事な舞だったぞ、公子殿! 花見酒なんて粋なことをする」
上機嫌になった
おそらく、あの声の主たちがやったのだ。宝玉の主たち。四神。どうやらあの声は、自分にしか聞こえていなかったらしい。
(なんで俺が? それに······待っていると言われても困る。俺はこの邸から出るだけでもひと苦労だっていうのに)
この
そもそも彼らの言う
ふと、
長い時間霊力を消耗した上に、笛を吹きながら長時間舞っていたというのに、
「出過ぎた真似をしたことを、お許しください」
予想もしていなかった言葉に、夫人は驚いた顔をしていた。いつもの言動からは考えられないほど謙虚で礼儀正しいその姿に、その場にいる親族の誰もが目を疑う。
「いえ······助かったわ。あなたがいなければ奉納祭自体が成り立たなかったわ」
「母上、こんな奴に礼など不要です。最初のあの姿で十分恥を晒しました。望み通りに罰を受けさせるべきです!」
「母上、それはおかしいです。あいつはちゃんと舞を舞って、四神の宝玉も浄化されました。それよりも
兄の滅茶苦茶な言いがかりを見ていられなくなった
「とにかく、すべては奉納祭が終わってからだ。あとで使いの者を送るから、それまでは邸で控えているように」
わかりました、と
賑やかしい広間を抜けて渡り廊下の方を歩いていた時、ひとりの従者が駆け寄ってきた。それはいつも邸に膳を運んできたり、周りの世話をしてくれている若い従者だった。騒動の際、広間の入り口で
いつもの彼は、奇妙なものでも見るような目で極力関わらないようにしていた気がするが····見間違いだろうか。今の彼の瞳はキラキラと輝いているように思える。
「すごいです、
「いつものあれってなんのこと? 明日も俺の歌を楽しみにしててねっ」
くるっと大きく手を広げて回り、あはは~と笑いながらいつもの調子で通り過ぎる。それを目の当たりにして、彼は幻でも見たような顔をしていた。
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邸に戻ると、すぐに
(··········疲れた、)
けれどもこれからが本番なのだ。宗主の前ですべてを吐かせる。あの場に跪いた時、親族の席でひとりだけ青ざめた顔をしている者がいた。しかしそれを証明するための証拠などどこにもない。
ならばどうすればいいか。
無明の中で答えはすでに決まっていた。
緊張の糸が解けたのか、息が少し乱れ始める。唇に塗ったあの紅の毒が、今頃効いてきたようだ。
(カマをかけるためとはいえ、やりすぎたかも)
あの時、
けれども。
あのひとだけはそれを見て驚いていた。
(でも········これで、)
そのまま
「········無茶をする」
真っ赤な毒の紅が塗られた唇を衣の裾で丁寧に拭い、
「やはり、君だったんだな」
愛しいものでも見るような眼差しで、
その意味を知る者は誰もいない。
遠い昔に交わした約束。誓い。
――――あの日からずっと、君を待っていた。