夕方になった頃、頬に触れられた冷たい手に気付いて目が覚める。
「········母上、もう起きても平気なの?」
困ったような顔で
「ええ。でも今度はあなたがそんな状態だったから、驚いてしまったわ」
自分の寝台の下で倒れていた
「まだ起き上がらない方がいいわ、」
無理に起き上がろうとしている
「大丈夫。さっきよりはずっと楽····って、あれ?」
なんとか身体に力を入れて起き上がろうとしたその時、身体に掛けられていたのだろう薄青の衣が、膝の上にはらりと落ちた。毒が回っていたはずの身体がかなり楽になっている。薄青の衣を軽く握って、
(目が覚めるまで、ここにいてくれれば良かったのに。奉納祭の御礼もまだ言ってない····)
外の様子を見れば夕方になっていた。どうやらあれからかなりの時間、ここで眠っていたようだ。
「母上、父上からの使いはまだ来ていないよね?」
「なにかあるの?」
こく、と頷き、
「では、あの方がこんな企みを? いったい何のために、こんな、」
正直、あまり関わりのない人物の名前が出たことに、
「それはもちろん、本人の口から、宗主の前できちんと話してもらうよ」
どんな言い訳をしようが、絶対に言い逃れができないようにする。そして正当な罰を下してもらうことが、今回の件のけじめなのだ。
「母上の方こそ、まだ身体を休めていた方がいい。俺は大丈夫だから、」
ね、といつもの無邪気な笑みを浮かべ寝台に促す。仕方なく、
「失礼します。宗主より公子様にお呼びがかかりました。準備が出来ましたら、お声掛けください」
外から聞こえてくる声に、うん、わかった! と
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい。でも、無理はだめよ、」
生まれた時に見たその瞳は、それ以来仮面の奥に隠れてよく見えなかった。けれども今はすぐ目の前にあって、なんだか懐かしい気持ちになった。手を伸ばしてもう一度頬に触れる。こんな風にしっかり触れてやることも、ずっとできなかったから。
「母上の手は、冷たくて気持ちいいね」
ふっと目元を細め、どこまでも甘えるように笑って、
その細身の後ろ姿を見送って、静かに祈る。なんだか
気のせいであればいい、と瞼を閉じ、