「叔父上、どうされたのですか?」
「は、早くそれを拭って!」
必死の形相で止めたのは
「ふーん······あなたは父上や夫人、他の者たちが紅を付けても止めなかったくせに、
「どういう意味だ? この紅はなんなんだ?」
塗ってから急に不穏なことを言われて、
「別に何の変哲もないただの紅だよ。
「
その表情や声には憎しみと恨みと、事が明るみに出てしまったことへの落胆が入り混じっていた。
「こうも簡単に引っかかるなんて、こっちがむしろ驚いてるよ。本物かどうかなんて、正直な話、五分五分だったでしょ?」
「こんな茶番に何の意味があるというの?」
夫人はいい加減呆れて、肩を竦める。
「母上はこの紅が原因で、倒れたんだよ」
懐から本物の毒入りの紅の入った小物入れを取り出して、夫人の前に差し出した。その場にいた全員が真っ青になり、慌てて自分の唇と指に付いた紅を一斉に拭う。
「倒れただって? いったいどういう紅なんだ ?」
「あ、さっきも言ったけど、みんなに塗ってもらったのは普通の紅だから、大丈夫だよ?」
黙れ!と忌々し気に
「だって先に言っちゃったら、意味ないでしょ?」
「お前、いい加減に····っ」
「それが毒かどうかなど、誰が解るというんだっ! お前が適当に言っているだけだろう? そもそも私がそれを用意したという証拠はどこにもない」
「自分で試したから実証済みだよ。あの毒紅はひとによって時間差はあるけど、まあまあ即効性があるよね。そして放っておけば重症になりかねない、とても危険なものだった」
「だから、それで私が用意したという証拠にはならない」
「そもそもお前は自分で実証したというが、どう見ても毒に侵された様には見えないが? お前の方こそ嘘を付いているのでは? 紅に毒が盛られていたと嘘を付き、
ふっと
「ねえ、さっきから自分が何を言っているかわかってる? ほら、周りの人たちをよく見てみなよ。俺が母上が倒れたって言った時より、ずっとびっくりした顔してるよ?」
しん、と静まり返った部屋の中で、ひとりだけその過ちに気付いていない者がいた。宗主を含め皆が押し黙り、
「俺は、この紅が原因で母上が倒れたとは言ったけど、それが毒だとはひと言も言っていない。連想はしたかもしれないけど、そこの
そしてそこに毒という言葉を
「······もういい。よく解った」