「······消えちゃった?」
本当ならあの少年を捕まえて、事の次第を知る必要があった。それに、なぜあの少年はわざわざ自分の目的を話したのか。宝玉を狙っていることを口にすれば、それ以降手に入れるのが難しくなるだろう。それでも奪えるとという自信があるのか、それとも他になにか理由があるのか。
「君のおかげで助かった」
いつの間にか傍らに控えていた
「公子様も格好良かったよ?」
「君の方がすごい」
「う、うん、ありがと。それにしても、あっさり逃げていったのが気になるよね····」
結局、あの少年がなぜ玄武の宝玉を狙っていたのか。村の人たちをあんな目に遭わせたのか、なにひとつわからないままだ。
「あの子は、何者だったんだろう」
「宝玉を狙うなら、いずれまた会うことになる」
「君は罪を犯したけど、あの子が操らなければ静かに暮らしていたんでしょう?
このまま洞窟を出てみんなと合流すれば疑われることはないはず。何年、何十年、もしかしたら何百年と人を襲わずに生きてきたかもしれない妖獣が、操られることでその力を使われ、利用されるなんてなんだか可哀想だし理不尽だと思った。
もちろんその手にかかってしまった人たちのことを想えば、それこそ理不尽であったと言わざるを得ないが。
「君の想うままに、」
鬼蜘蛛はふたりに頭を下げ、そのまま洞窟のさらに暗い奥の方へと消えていった。それを確かめてから、
「夜が明ける前に、ここを出よう」
「うん。そうだね、早くみんなの所に戻ろう」
朝になれば自分たちを皆が捜し回るだろう。そうなれば色々と言い訳を考えるのが面倒になる。
「足元に気を付けて」
手を握ったまま、
少しずつ明るくなってくる道の先は、白い光で反射してその先がよく見えない。洞窟からやっと抜け出し細めていた瞼をゆっくり開けると、薄墨色の空に橙色と藍色が混ざって光がその隙間から射し込んで眩しかった。
「朝だね、」
ぐっと伸びをすると、
「公子様、見て! 村がっ」
「
その表情はどこまでも冷静で、繋いだ手から感じる温度も変わらない。それに安堵して
「しっかり掴まって、」
抱きかかえられ、答える間もなく
しっかりと薄青の衣にしがみついて、
(
どうか、何事もなくいつもの調子で叱って欲しい。そう心の中で祈りながら、