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第15話 廃都激戦

 マギラの咆哮に、怪獣の叫声が応じて響く。廃墟を音が走り抜け、空気の津波が遺構を揺らした。


 マギラの双眸と怪獣の単眼。視線が互いを射抜き合い、猛る敵意が前進を促す。


 双方、重心が前へ。

 遅く見えた初動は、すぐにその速さを増した。慣性に乗ったマギラの超重突進が、背面スラスターでさらに加速する……!


 ――激突!


 大質量同士の衝突エネルギーに、空気がひずんだ。


「ぐっ!」


 操縦席ではミフ粒子がバチバチとスパークし、衝撃吸収機構ショックアブソーバーでも消し切れない反動がマナを揺さぶる。


 だが、よろめいたのは怪獣の方だ。三万トンの突進は、怪獣と言えど容易には受け切れない。マギラは怪獣と組み合ったまま、凄まじいパワーで押し進む……!


 街に突入した二体の足元は、まさに破壊の地獄絵図。石の家屋が積み木のように砕け散り、通りが瓦礫の山と化す。


 抵抗し、暴れる怪獣がマギラを引っ掻く。金属との摩擦が不快なノイズを撒き散らし、爪のエッジを毒液が伝う。だが、マナの意志が宿った灰銀の装甲は爪の斬撃を跳ね除け、致命の毒も通さない。


「せぇいっ!」


 ベアハッグした怪獣を、マギラが力任せに投げ飛ばした。下敷きになった建造物が全壊し、飛び散る石材が迫撃砲弾のごとく周囲に降る。


 土煙の中もがく影に向け、マギラは両腕を構えた。目標は曖昧な頭部の輪郭……その中心の単眼だ。両腕部、二基四門の加速砲が火を吹いた!

 ……が。


「……くっ!」


 着弾衝撃に土煙が晴れ、マナは歯噛みした。

 単眼を、分厚い瞬膜が覆っていた。150ミリ侵徹弾すら貫き通せぬ防壁だ。鱗に覆われた身体はもちろん、眼球すらも守りは硬い。


 砲撃を弾いた怪獣は起き上がり、四足歩行の低い姿勢で距離を保つ。

 ――威嚇の唸り。

 血走るまなこが、敵意と殺意をたぎらせる。


 マナは息を吐き、相手の出方をうかがう。牽制は互いに通じない。どちらが先に、有効打を決めるかの勝負だ。


 ――。


 ……ずしん。

 マギラが一歩踏み出した瞬間、怪獣の喉が膨らんだ。脳裏に警鐘!


「回避!」


 マギラは真横へスライド移動。サイドスラスターのプラズマをかすめ、何かが背後に着弾した。背面モニターに映る建物が、煙を噴き上げ溶けていく。怪獣が生成した、強力な酸だ!


 続けざま膨らむ喉に、マナは身構える。だが怪獣が吐いたのは酸ではなく、濁流の如き大量の瘴気だった。それも辺りに漂うものより、遥かに濃い。


「煙幕か……」


 単眼が、瘴気の靄におぼろと消えた。あの巨体で一体どう移動しているのか、足音すらも聞こえない。


 不気味な静寂の中、マナの頬を一筋、汗が伝う。その目は、ディスプレイをじっと見つめるのみ。


 ――。

 ――……。


 マギラの背後に音も無く、単眼の暗殺者が現れた。口内の赤も鮮烈に、毒牙を首に突き立てんとマギラに飛びかかる……!


 だがその瞬間、マギラの頭部が180度回転した。回避不能な距離で、口内が輝く!


「発射!」


 二条の光が迸り、絡み合うビームの螺旋が赤い粘膜に突き刺さる。エネルギーの滞留は、爆発となって怪獣の顎を吹き飛ばした!


 もんどり打って倒れた巨体が、教会らしき建物を粉砕した。落下した尖塔が粉々に砕け散る。遅れて吹き飛んだ牙の一本が、無事だった礼拝堂の屋根を貫いた。


 マナはディスプレイを見つめ、操縦桿を握り直した。

 動体センサーによる、予測射撃のカウンターだった。マナは確かな手応えを感じつつ、マギラのボディを転回させる。

 それが、一瞬の隙を生んだ。


 ごがんっ!


「ぅぐっ!?」


 突然の衝撃に、操縦席が揺れる。火花のシャワーの中、マナはディスプレイの端に動くものを見た。


 それは、尻尾。

 敵は倒れたまま、その尾でマギラを打ち据えたのだ……!


 数十メートルもの長さを誇り、ムチのようにしなる尻尾の一撃。マギラの巨体をも揺るがすこの攻撃こそ、あの老人の証言した突風の正体だった。高速で振り抜く尻尾の残像は、家屋を消し飛ばし、余波ですら周囲を更地と変える、恐るべき破壊の軌跡に他ならない!


「ぐ、ううぅっ!」


 踏みとどまったマギラを、続けざまの尻尾攻撃が襲う。


 どがんっ!


「っ!」


 マナはマギラを懸命に制御し、耐える。さらなる追撃が来る直前、マナの脳裏に選択肢が浮かんだ。


 防御?

 回避?

 それとも反撃?


 どがっ!


 マナは第四の選択肢を選んだ。

 尻尾の横薙ぎを、受けたのだ。だが、ただ受けたのではない。


「捕まえた……」


 マギラの腕が、尻尾を抱え込んでいた。暴れるそれを両手で掴む。関節の駆動装置アクチュエータが唸りを上げ、フルパワーの握力が鱗をへし砕いた!


 怪獣の悲鳴に、ゴボゴボという音が混ざっていた。瓦礫を振り飛ばし暴れながら、えぐれた喉から体液を撒き散らす。悍ましい光景にもマナは動じず、さらなる攻勢に出る!


「ふっ!」


 異様な敏捷性で、マギラが体を返した。尻尾を肩に乗せたその姿勢は、背負い投げの構えだ!


「せやぁっ!」


 テコの原理が、完璧なタイミングで重心を跳ね上げた。

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