母校が炎上して2週間。
季節は巡り、春
俺アシト・アカアシは人生で2度目となる高等アカデミーの入学式に参加していた。
『おはよう諸君。私が王立セントラル中央剣術高等アカデミーの学長、ホーク・ミホークである。諸君らの入学と編入を心から歓迎しよう』
「まさか去年に続き、2度も入学式をやるハメになるとは……」
「おーい、アシト? 静かにしないと怒られるで?」
無駄にバカでかい
「まさか本当に母校が焼失するとはなぁ……」
「悲しい?」
「いや? むしろあんなむさ苦しいだけの男子校など消滅してくれて感謝すらしているわ」
「確かに。おかげで共学の、しかも名門と名高い中央アカデミーへ編入する事が出来たしのぅ」
あの【悲惨】という文字が死ぬ程似合う男だらけのアカデミーから無事に脱出できた喜びのせいか、俺の隣に座るヤギチンは終始ニコニコしていた。
「これからワシらの華のキャンパスライフが幕を開けるかと思うと、期待で胸と股間がパンパンにはち切れそうやで!」
「どうした、性病か?」
だからナニを触るときはキチンと手を洗えとあれほど言ったのに。
と俺が口を開くよりもはやく、学長が少々気になることを口にし始めた。
『ご存じかもしれないが、本校は他のアカデミーとは違い【完全実力主義】をモットーとしている。授業は試験についてこられない者は容赦なく切り捨てていくので、入学したからと言っても気を抜かないようにっ!』
「あぁ、そう言えば編入テストの前にそんな事を説明されたな」
ドスの利いた声で新入生たちを脅すように厳つい視線で圧をかける学長。
その厳つい風貌と筋骨隆々な肉体といい、聖職者というより『ヤ』のつく自由業の方にしか見えない。
もしかしたら編入するアカデミーを間違えたか?
「確か入学・編入試験のテスト結果によってSからEクラスに振り分けるんだよな?」
「せやで。頭もよくて実力もある奴から順にSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクに振り分けられるそうや。しかもソレに応じて教室も教える教員もグレードが変わるらしくてのぅ。Sランクはもはや王族・貴族様が受けるロイヤルな教室でグレートな教職員たちから授業を受けることが出来るそうやで」
「へぇ~。ちなみにヤギチンは何クラスよ?」
3日ほど前に編入試験のテストの結果と所属クラスが記された手紙が届いてるハズなので、何となしに尋ねてみた。
するとヤギチンはどこか自慢げに「ふふんっ!」と鼻を鳴らすと、俺に向かってピースサインを浮かべて、
「聞いて驚け、Aクラスや!」
「うぉっ!? マジか!? 頭から2番目に良いクラスじゃん!」
「まぁ日頃の努力の賜物っちゅうヤツや。アシトはどうや? Bか? Cか?」
「いや、俺はEクラスだったわ」
俺がそう口にした瞬間、ヤギチンは「ご愁傷様……」とでも言いたげな微妙な表情を浮かべてみせた。
な、なんだよ?
「ま、マジでかアシト……?【追い出し部屋】へ編入させられたんか……?」
「追い出し部屋? ナニソレ?」
「Eクラスの別名や。成績不振や劣等生を劣悪な環境へ追いやり自主退学させるクラス、それがEクラス。またの名を【
「マジかよ? なんでそんなクラスを作っちゃったんだよ? 誰だよ、作ったヤツ?」
「あそこで偉そうに演説しとる学長やな。なんでも上の者は『
ヤギチンと2人してペラペラと意識の高そうな事を口にし続けるホーク学長を見やる。
なんというか、言葉の節々から性格の悪さが滲み出ているのを感じて仕方がない。
「大丈夫か、アシト? アソコへ入った送られたヤツは皆、1週間と経たずに自主退学しとるって噂やけど……?」
「噂だろ? そうビビる事はねぇよ。ドブ川だろうが清流だろうが、前へ泳げば魚は成長するもんだ」
むしろハードルが高ければ高いほど潜りやすくなるってもんよ。
「それに俺には絶対大丈夫な呪文があるからな」
「呪文って……あぁっ、アレか? アシトがピンチになるといつも言っとる」
「おうよ。絶対の呪文だ」
「確か小っこい頃、村に居た初恋の女の子に教えて貰ったんやっけか?」
「あぁ……結局告白する前にどっか行っちゃったけどさ」
幼少期の頃、村のいじめっ子の女の子に泣かされていた俺の前に颯爽と現れて、いつも助けてくれた大恩人の女の子。
凄く優しくて良い匂いがした、俺の中の正義の象徴。スーパーヒーロー。
そんな彼女が俺に教えてくれた魔法の言葉を、俺はこの7年間胸に刻み続けて生きてきた。
――ピンチの時ほど『楽しくなってきやがった!』って呟いてごらん? そしたら不安な気持ちなんて一瞬で吹き飛ぶから!
あの言葉があったからこそ、俺はイジメに
まさに彼女は俺の人生の、いや命の恩人である。
「きっと今頃は素敵なレディーになっているんだろうなぁ……。負けてらんねぇ! 俺も彼女に恥じないように【イイ男】を目指さなくてはっ!」
「おーい、アシトぉ~? 自分の世界に浸るのはいいが、今は入学式の真っ最中やで?」
戻ってこーい、と俺の肩を揺するヤギチンを無視して彼女との思い出に浸り続けた。