「なんじゃこのバカデカい教室は?」
入学式も終わり、俺は今日から通うことになる2年Eクラスへと向かうべく、4階の階段を上り……度肝を抜かれていた。
階段を上がりきると、普通の教室の10倍はあろうかという広さの教室が目に飛び込んできたのだ。
「もしやコレが噂のSクラスか?」
確認するように教室の前のプレートを見上げる。
そこには金の刺繍で【2年Sクラス】と書かれていた。
「お高くとまりやがって……どうせ見た目がスゲェだけで中身はペラペラなんだろ? ……うぇっ!?」
興味本位でチラッ! と教室のドアから中を確認して、再び度肝を抜かれる。
そこには『チキュー』と呼ばれる異世界の知識で作り上げられた最先端の生活があった。
黒板は壁全体を覆うほど大きく、プラズマディスプレイという『チキュー』の勇者たちが持ち込んだテクノロジーで構成されていた。
それだけではなく、リクライニングシートに個人用冷蔵庫、小型ノートパソコンに電子レンジ等々と、もうここだけで生活できるレベルで最先端の技術がこれでもかと詰め込まれていた。
す、すげぇっ!?
王族や大貴族さまでも喉から手が出るほど欲しい代物が、こんなたくさん!?
「い、一体どんな奴らがこの場所を使うんだ!?」
まるで高級ホテルのロビーのような教室の中で、気持ち良さそうにリクライニングシートに腰を埋める生徒の数は……6人。
そんな6人の視線を集めるように、教壇の前では中肉中背の黒髪短髪で毒にも薬にもならなさそうな男子生徒が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「去年に引き続きSクラスの学級委員長になりました、ユウト・タカナシです。みんなよろしくっ! ……って、去年から顔ぶれが変わっていないし、そんな説明はしなくてもいいか」
何が面白いのかドッ! と楽し気に教室が沸き上がる。
そんなSクラスの教室を眺めながら、俺は1人驚き
アレが伝説の大陸一番の剣術の使い手【剣聖】の孫か。
噂はかねがね聞いている。
なんでもかつて勇者たちが魔王と戦う際に使っていた聖剣に選ばれた、現代に蘇った勇者だとか。
「生まれながらのエリートか……俺とは真逆だな」
何の才能にも恵まれなかった俺からしたら、羨ましい限りである。
きっと人生イージーモードなのだろう。
「――っと、いけない。イイ男は他人に嫉妬しないもんだ」
俺は荒れそうになる心を沈めながら、再びSクラスへと視線をよこした。
確かこの学校の委員長って、そのクラスで一番優秀な成績を収めた者がなるんだよな?
ということは、だ。
あの剣聖の孫は昨年、この教室の誰よりも優秀な成績を収めたということだ。
そう、それはつまり学年で最高の成績を誇るSクラスのトップということは実質第2学年のトップはあの男という事になり……マジでスゲェな、アイツ?
「もう皆も知っているとは思うが、学習教材はもちろん冷蔵庫の中身や実技訓練の準備、練習着や練習用の木剣など、全てがアカデミーから支給される。他にも何か必要なモノがあれば委員長であるオレに言ってくれ! あとSクラスの特典として放課後の修練場の使用優先度が最高だったり、学食全品無料だったり、他には――」
「おっと。こんな所で油を売っている場合じゃないな。俺も自分の教室へ急がねぇと」
名残惜しいが視線を切り、再び廊下を歩き出す。
果たして俺が1年間通う事になる2年Eクラスは一体どんなクラスなのだろうか?
俺は期待半分わくわく半分の軽い足取りで、2年Eクラスの教室へと急いだ。