目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話 底辺の再会~そして運命は廻りはじめる~ 

【2年Eクラス】とかすれた文字で書かれたボロボロのプレートを見上げながら、俺は戸惑いに頬をひくひくっ!? と痙攣させた。




「な、なにここ? 本当に教室なの?」




 俺の視線の先、そこには廃墟としか思えないボロボロの教室が広がっていた。


 ガタガタの黒板、ひび割れた窓ガラス、段ボールの机に申し訳程度のござ。


 先ほどのSクラスの教育環境とは雲泥の差である。




「な、なるほど。これがヤギチンの言っていた【追い出し部屋】ね。楽しくなってきやがった」




 俺は自分を奮い立たせるように魔法の呪文を口にしながら、教室へと1歩足を踏み入れて


 ――瞬間、教室のど真ん中で小柄な女性の死体を発見した。




「えぇぇぇぇぇ~~っ!? ちょっ、大丈夫ですかぁぁぁぁぁっ!?」




 入室したら1秒で殺人現場に、流石にちまたで『クールな男』と呼ばれている俺も動揺を隠せない。


 一体この教室で何かあったんだ!?




「うわっ!? 鼻血で血だまりが出来てる!? 死因は出血多量か!?」

「うぅ~ん? ……あれ? もう朝ぁ~?」




 俺は先生を呼びに行くべきか迷っていると、血の海に沈んでいた死体がパチリッ! と目を覚ました。ってうぉ!?


 ボサボサの桃色の髪をした死体は、目の下のクマを指先でゴシゴシ擦りながらキョロキョロと辺りを見渡し……俺と目が合った。


 瞬間、死体の少女はニヘラ♪ と笑みを浮かべた。


 ――刹那、俺の身体に電流が走った。


 その笑顔、見間違えるハズがなかった。


 何度夢で見たことだろうか。


 あの頃と変わらない屈託くったくのない笑顔。


 間違いない、間違えるハズがない。


 この子は……いや、彼女は――ッ!?




「あっ、おはようございまーす」

「好きです。結婚してください」

「えぇっ!?」




 突然のプロポーズにギョッ!? と目を見開く彼女。


 あぁ、鼻血を出していても可愛いなぁ……天使かよ?


 天使だったわ。


 俺だけの、ね♪




「えっと、そのぅ……ごめんなぁ~? 初対面の人とは流石に結婚できんわぁ~。お友達から始めるのはどうやぁ~?」




 困った表情を浮かべながら、どこかクセのあるなまりの方言を口にする彼女。


 その姿が過去の彼女と重なり、ますますあの頃の気持ちが燃え上がる。


 あぁ……困っている顔も実にキュートだ。


 愛らしい……。


 と1人うっとり♪ していると、彼女の瞳がどことなく怯えている事に気が付いた。


 ハッ!? そうだった。


 この様子だと俺の正体にも気づいていないっぽいし、はやく自己紹介をしないと!


 俺は彼女を安心させるべく、なるべく穏やかな口調で唇を震わせた。




「エルさんですよね? カカポ村のエル・エルさん。俺です、俺! 小さい頃、近所のいじめられっ子に泣かされていた所をエルさんに助けていただいた――」

「……あぁ~っ!? もしかしてアシトかぁ~? 久しぶりだなぁ~っ!」




 大きくなったなぁ~っ! と久しぶりの再会を喜ぶように満面の笑みを浮かべるエルさん。


 そう彼女は俺の大恩人にして、もし再開する事があれば我が生涯を全て捧げると誓った初恋の女の子、カカポ村のエル・エルさんである!


 まさかこんな廃墟も同然の教室で再会するとは、神様も粋な事をしてくれるもんだ。




「何年ぶりだぁ~? ウチが引っ越したのが、え~と……?」

「実に7年ぶりです。いやぁ、エルさんがあの頃と変わっていなくて嬉しいですっ!」




 目の下にクマがあることや、ボサボサの桃色の髪、そしてヨレヨレの女子制服とあの頃から大分変った部分もあるが、それでも彼女は変わっていなかった。


 昔のまま、あの頃の素敵な笑顔のまま、俺の予想通り立派なレディーになっていた。


 それがたまらなく嬉しいのだ!




「あぁ~、身長なぁ~。何故か10歳で止まってんねんなぁ、ウチ。悲しいわぁ……。女らしくのぅて、ごめんなぁ? ガッカリしたかぁ~?」

「そんな全然っ!? むしろ女らしく成長してますよ!」




 ほんと、あの頃と違ってエルさん、お胸とお尻が凄く成長していらっしゃる。


 身長はあの頃と同じ小さいままなのに、身体だけ女性らしくボンッ! キュッ! ボンッ! とナイスバディ―に成長していて……正直性癖が狂いそうですっ!


 な、なんてマニアックな体形へと成長している事か……流石はエルさんですっ!


 俺の新しい性癖の扉が音を立てて開かれていく中、エルさんが「ほぇ~」と俺をほうけた顔で俺を見上げて、感心したような声をあげた。




「あんなに小さかったアシトがこんなに大きく……大巨人じゃないかぁ~。身長何センチだぁ?」

「185センチですっ!」

「おぉ~っ! 140センチしかないウチとはえらい違いやぁ~。ええなぁ~。ウチも身長ほしいわぁ~」

「エルさんは今のままでも充分可愛いですよ!?」

「ほんまぁ~? ありがと~。でもウチ、背の高い大人な女の人になりたいねんなぁ……」




 しょぼんちゅ……と、分かりやすく肩を落とすエルさん。


 い、いけない!?


 彼女が悲しんでいる!?


 はやく話題を変えるんだ、俺っ!




「と、ところでエルさん? どうして教室のど真ん中で鼻血を吹いて倒れていたんですか?」

「あぁ~、ソレなぁ? 段ボールにつまずいてなぁ、顔から床に落ちたからやねん。ビックリさせてゴメンなぁ?」




 ほわほわと間延びした声音でニッコリと微笑むエルさん。


 どうやら不幸体質はあの頃から変わっていないらしい。


 お、俺が守護らなければっ!


 と1人覚悟を完了させている間にも、エルさんの可愛らしい小さなお花から赤い雫がタラリッ! と零れ落ちる。


 瞬間、俺は間髪入れずに持って来ていたポケットティッシュを取り出して彼女の鼻血を丁寧に拭いてあげた。


 途端にエルさんは俺を幸せにしてくれる笑みを頬にたたええて、




「ありがとぉ~。アシトは相変わらず準備がええなぁ。助かるわぁ~」

「いえ、紳士として当然の事をしたまでですよ」




 俺は満面の笑みを浮かべながら、エルさんの鼻血つきティッシュをゴミ箱へ捨てる……フリをしながらこっそりポケットの中へと仕舞いこむ。


 今日からコレ鼻血ティッシュを我が家の家宝にしよう。


 朝晩毎日2回、ご神体として拝礼しつつ、この世界に彼女を生んでくれた神に感謝の念を送ろう。


 ありがとう神様、エルさんをこの世界に生んでくれて!




「でもそっかぁ~。今日からアシトがクラスメイトかぁ~。なんか感慨深いなぁ~。よろしくなぁ?」

「はい、よろしくお願いしますっ! ……ところで、担任と他のクラスメイト達はまだ来ないんですかね? もうどこのクラスもホームルームを始めているのに。遅刻でしょうか?」

「いややわぁ、アシト。クラスメイトなら全員揃っとるや~ん」

「えっ?」

「このEクラスはなぁ、ウチとアシトの2人だけやでぇ」

「……えっ? えっ!? お、俺とエルさんだけ!?」




 エルさんは「そうやでぇ」とコクリと頷きながら、




「他の皆はなぁ~、Eクラスへ割り振られた時点で自主退学したんよぉ~」

「つ、つまりこの教室は俺とエルさんだけのパラダイス――失礼、教室だという事ですか?」

「そういう事になるなぁ。えへへ……なんや学校に秘密基地が出来たみたいでワクワクするなぁ?」




 ほわっ♪ と能天気にそんな事を口にするエルさん。可愛い。


 そんな可愛いエルさんと1年間ずっと2人きりだなんて、最高かよ?


 もう神様に一生ついていくわ。




「2人きりやけど、これからよろしくなぁ~?」

「こちらこそっ! よろしくお願いします、エルさん!」

「おーいそこぉ? 青春している所悪いが席に座れ~?」




 俺とエルさんのスクールラブ・ストーリーが走り出す直前、覇気の欠片もない声音が俺達の仲を引き裂くように教室に木霊した。


 むっ? 誰だ?


 俺とエルさんのスィート ❤ LОVEタイムを邪魔する愚か者は?


 俺は威圧の意味もこめて声のした方向を睨みつけると、そこにはヨレヨレの芋ジャージを着た20代後半くらいの冴えない兄ちゃんが居た。




「誰だ、アンタ?」

「担任に向かって『誰だ』はねぇだろ、クソガキ?」

「あっ、クリリンせんせぇ~っ! おはようございまーすぅ」




 パッ! と顔に笑顔の大輪を咲かせたエルさんが、ペコリと兄ちゃんに頭を下げる。


 んなっ!? この男……俺のエルさんにあんな素敵な笑みを向けられるとは、マジで何者だ!?


 嫉妬で狂いそうになる細胞を何とか統率し、俺は大人の礼儀としてクリリン先生とやらに挨拶をかえした。




「担任でしたが、これは失礼しました。おはようございます、先生。今日からご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」

「お、おう……。なんで目から血ぃ流してんの、お前?」




 まぁいいや、と俺の肩を軽く押し退けながらボロボロの教壇の前へと移動するクリリン。


 そんな担任を尻目に、「座ろっか、アシト?」と俺の手を引いて段ボールで出来た机へと移動するエルさん。小動物みたいで可愛い♪


 俺はエルさんの隣の席へと腰を下ろしながら、彼女を生んでくれた神様に改めて感謝した。




「よーし、全員席に着いたな? そんじゃま、ホームルームがてら簡単な自己紹介から始めるか。オレの名前はクリ・リント。一応この2年Eクラス担当の教師で、おまえらの担任だ」




 クリリン先生ことクリ・リント教諭は黒板に名前を書こうとして……面倒くさくなったのかやめた。


 なんだ、このヤル気のない先生は?




「あぁ~……めんどくせぇけど編入生が居るから、キチンと説明しとくか」

「今ハッキリと『めんどくせぇ』って言ったぞ、コイツ? 本当に教職員か?」

「クリリンせんせぇ~は、自分に素直な人なんだよぉ~」

「うるせぇぞ、お前ら? いいか? エルはもう知っているとは思うが、ウチのカリキュラムは基本的に午前中は座学、午後は修練場で実技訓練を毎日行う。が午前の座学はともかく、午後の修練は強制じゃない。めんどくさかったら帰ってもいい。ただし、その分期末テストが大変になるがな」




 オレ個人としてはお前らに帰って貰った方が楽できるから、ぜひとも帰ってほしい。


 と、教職員としてあるまじき発言を口にするクリリン。


 俺の中でこの教員の株価は大暴落である。


 この場にエルさんが居なければ修正パンチをお見舞いしている所だ。




「というか、こんな段ボールの机で座学を受けるのかよ? すげぇ嫌なんだけど?」

「文句の多いクソガキだなぁ。なら備品戦争でも何でもすればいいだろうが」

「備品戦争?」




 なにそれ? と俺が顔をしかめると「そんな事も知らないのぉ~?」とでも言いたげな顔でクリリンが鼻で笑ってきた。


 態度悪いな、この教諭?


 本当に教師か?




「備品戦争、正確には【備品争奪戦争】だ。まぁ簡単に説明すれば、他のクラスに喧嘩を売って勝てば備品を交換して貰える制度の事だ」

「勝てば交換……マジで?」

「大マジだ。学園長のオッサンも言っていたろ? ウチは完全実力主義だって。つまり欲しい物は自分で奪い取れってことだ」




 まっ、下位のクラスが上のクラスに勝つ事なんてここ数年見たことがねぇけどな。


 と軽く肩を揺するクリリン。


 へぇ……面白そうな制度があるじゃねぇの。


 なるほど、欲しい物は実力で勝ち取れ……ね。


 実に俺好みの校風だ。




「そもそも実力がハッキリしたこの時期に争奪戦を挑むバカは居ねぇけどな」

「それもそうか」




 クラス分けが決まってまだ1週間も経っていないのだ。


 その在籍しているクラスそのものが今の自分の実力相当であることは、馬鹿でも分かる事実だ。


 喧嘩を売るにしても、まずは自分の実力を磨いてからだ。


 とくれば……最低でも3か月はこの段ボール机と共に生活しなければならないというワケだ。


 むぅ、3か月もエルさんに段ボール生活を送らせなければならないのか……。


 これは精神的にキツイな……。


 まるで甲斐性の無い旦那になった気分だ。って、おいおい!?


 誰がエルさんの旦那様だよ!?


 気が早いぞ、俺♪


 そりゃいつかは『そういう』事をしたいけどさ、今はまだ早いってぇ~♪




「……なんで急にクネクネしだしたんだ、コイツ? 気持ちわりぃ」

「どしたんやぁ、アシト? そんなに身体をクネクネさせてぇ~?」

「ハッ!? い、いえ! な、何でもないですっ! 気にしないでください、エルさん!」




 不思議そうに隣に座るエルさんの視線のおかげで我に返る。


 い、いけない、いけない。


 落ち着け、俺? 


 エルさんに変態だと思われるワケにはいかないんだ。


 いつもの知的でクールな俺を取り戻せ?


 俺は何故かドン引きした瞳でコチラを見てくるクリリンに、視線だけで『どうした? はやく続きを喋れよ?』と促した。




「今年のEクラスは変なヤツが集まったなぁ……まぁいいや。次は自己紹介な――って、なんか2人とも知り合いっぽいからいらねぇか」

「ねぇエルさん? この教師、なんかテキトーじゃない? ヤル気の『や』の字すら感じないんだけど?」

「クリリンせんせぇ~はねぇ、生徒の自主性を重んじているんやと思うよぉ~」




 いや絶対にそんな事は考えてないと思うよ、あの兄ちゃん?


 だって現に今も持ってきたポテチをバリバリ食べながら「はやくホームルーム終わんねぇかなぁ……」とか言ってるし。


 マジでなんなんだ、この教師は?


 仮にも名門剣術アカデミーなら、もっとマシな教師が居るだろうに。




「クリリンせんせぇ~? このクラスの学級委員長は誰になったのん?」

「おっ? 良い質問だぞ、エル。流石は2年Eクラスの学級委員長だ」

「おぉ~、ウチが学級委員長やったんかぁ~」




 緩い感じでEクラス最高成績者が発表される。


 そうか、エルさんがウチのクラスの最高成績者か。


 勉強も出来て可愛いだなんて、エルさんは凄いなぁ~❤




「よしエル、みんなに挨拶だ。教壇に上がれ」

「あい~。じゃあちょっと行ってくるなぁ~?」




 クリリンの言葉に素直に頷きながら、席を立つエルさん。


 我が天使の晴れ舞台だ、しっかり清聴しなくては!


 ……それにしてもあのクリリンとかいう担任、妙にエルさんに馴れ馴れしいよなぁ?


 担任じゃなければ今頃『なんだテメェ、その口の利き方は!?』と怒鳴って往復ビンタの刑に処している所だ。


 ふんっ、命拾いしたなクリリン?




「2年Eクラスの学級委員になりましたぁ、エル・エルと申しますぅ~。皆さん、これから1年間よろしくお願いしますなぁ~?」

「よろしくお願いしま――すっ!」

「うわっ!? 暑苦しっ!? 1人だけ熱量が違うヤツがいるじゃん……。なんだアイツ? ドルオタか?」




 クリリンが不愉快そうに眉根を寄せて俺を睨んできたが、構わずエルさんの素晴らしい演説に耳を傾ける。




「今年の2年Eクラスの目標は【打倒Sクラス】ですぅ~」

「んぁっ? そんな事、おれは聞いてないぞ?」

「流石はエルさん、志が高いぜ! そこに痺れる憧れるぅ~♪」




 何を言いだしたコイツ? と茶々を入れてくるクリリン担任。


 おい、今はエルさんが喋っている途中でしょうが?


 いいから黙って聞けや、シメるぞ?




「そんなワケでぇ~、今日はホームルームが終わった後にSクラスに備品争奪戦争を申し込んできまぁ~す」

「おう、そうか。がんば――んっ!?」




 エルさんのありがたいお言葉を不敬にも受け流そうとしたクリリンの顔がビクッ!? と強張る。


 どうしたのだろうか?




「ちょ、ちょっと待てエル? おまえ今、なんて言った?」

「??? なにがぁ~?」

「何をそんなに慌ててんだよ、クリリン?」

「先生をつけろクソガキ!? いや、そうじゃなくて!? エルお前、今Sクラスに戦争を申し込むって言ったか!?」

「言ったよぉ~」

「それはつまり、Sクラスに宣戦布告をするって事か!?」

「うん」




 そうやでぇ~、と天使の微笑みで頷くエルさん。


 可愛い。


 結婚したい。


 そんな大天使エルさんにうっとり♪ していると、あろうことが不良教師は「アホか!?」と声を荒げてエルさんを罵倒し始めた。




「オレの話を聞いてたか、おまえっ!? この時期は実力がハッキリと浮き出たばかりだから、上位のクラスに挑んでも勝ち目なんかないのっ! しかもSクラスに宣戦布告だとぉ~!? バカだ、バカだとは思ってはいたが、そこまでバカだったかお前!?」

「エルさんに何て口を利くんだ。コロスゾ、クリリン?」

「むぅ~っ! そんな事、やってみなければ分からないよぉ~」

「分かるのっ! 先生には分かるのっ! 頼むから無謀なことは止めてくれ!? お前らが負けたら、オレの給料が1割引かれる事になってんだよ!」




 バカなマネは止せ! と、全力でエルさんを引き留めにかかるクリリン。


 もちろん俺の知っているエルさんが、その程度の説得で引き下がるワケがない。


 エルさんはふんすっ! と鼻息を荒げながら、




「嫌や。やるったらやるんや!」




 と担任と真っ向から対立する事を選んだ。


 流石は俺の見込んだ女性、覚悟を決めた瞳が実に愛らしいぜ!




「バカバカ! もう1度言うぞ? バカバカ! Sクラスとやっても100%勝てねぇから!」

「例え100%無理やったとしても、ウチは残りの20%を全力で信じる!」

「残りはねぇんだよ、バカ!? 100%だって言ってんだろうが!?」

「エルさんはバカじゃねぇ! 訂正しろ、ハゲ!?」

「ハゲじゃねぇ、フサフサだ!? この頭部にしげる天然パーマが目に入らねぇのか!?」




 辺りにツバを吐き散らしながら、血走った瞳で俺とエルさんを睨みつけるクリリン。


 汚い……性格も汚ければ顔も汚い。


 なんでこんな男が俺達の担任なんだ?


 これも試練か?




「せんせぇーの言い分はよぉ分かった。なら多数決で決めよか」

「いいですね。多数決、最高だと思いますエルさん!」

「多数決ぅ~? ちょっと待て? この3人でか?」




 一体ナニが不満なのか、嫌そうに眉根をしかめるクリリン。


 そんなクリリンを無視して、エルさんはその果実のような愛らしい唇を震わせた。




「Sクラスに備品戦争を申し込みたい人! はいっ!」

「はいっ! エルさん、はいっ!」

「1、2っ! よし、決まりっ! それじゃさっそく宣戦布告してきまーす!」

「あっ、待て!? バカ待て!? 止まれぇぇぇぇぇぇぇっ!?」




 クリリンの制止を振り切って教室を飛び出していくエルさん。


 思い立ったら即行動、あの頃からちっとも変っていない。


 なんて素晴らしい行動力なんだ!


 俺も見習わなきゃ!




「お願い、待ってぇぇぇぇぇっ!? 給料が、オレの給料が……嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 膝から崩れ落ちるクリリンを眺めながら、俺は改めて凄い女性に惚れたんだなと、何だか誇らしい気持ちになった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?