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第5話 宣戦布告~完全実力主義の真実~

「――う~ん? なんかダメだったわぁ~」

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




 ホームルームが終わり、あとは帰るだけとなった放課後のお昼時。


 Sクラスに宣戦布告をしに行っていたエルさんが帰ってきて、最初に言った台詞がコレだった。




「『ダメだった』って……もしかして備品争奪を拒否されたんですか?」

「うん、拒否されたぁ~。残念……」

「シャオルァッ! ダーシャオラァァァッ!」




 FOOOOO~♪ と歓喜の雄叫びをあげながら、教室のど真ん中で下手くそなブレイキングダンスを披露するクリリン。


 その顔は実に清々しいほどの満面の笑みで……なんかムカつくなコイツ?




「おい、クリリン? どういことだ? 備品戦争っていうのは拒否することが出来るのか?」

「先生をつけろ、クソガキ禿はげゴルァ? 校則読んでねぇのか、テメェ?」




 クリリンは実にムカつく表情で地面に頭部を擦りつけながら、高速でヘッドスピンをし始めた。


 どうでもいいけど運動神経いいな、この担任?




「備品争奪戦争は原則、上のクラスから下のクラスへの宣戦布告は絶対に受け入れないといけないが、下のクラスから上のクラスに宣戦布告をする時に限り、上のクラスは戦争を拒否することが出来るのSA~♪」

「なんだよ、ソレ? 不公平だろ?」

「不公平じゃありません~っ! その足りない頭でよく考えろ、チ●カス。誰が好き好んで下のクラスのしょっぺぇ備品を交換したがる?」

「生徒をチ●カス呼ばわりしやがったよ、この担任……。それじゃ俺達Eクラスの宣戦布告は全部断られるって事かよ!? ふざけんな!? なんだよ、その欠陥校則は!?」

「ケケケケケッ! 最初に言っただろう? ウチは超実力至上主義のアカデミーだって! つまり弱者には選択肢なんて最初はなから無いんだよ!」




 弱者は常に強者に搾取される、それが運命だ!


 と教師にあるまじき悪魔じみた笑みを浮かべて「ケケケケケケッ!」と汚く笑うクリリン。


 はっ倒してぇ~!


 超はっ倒してぇ~!?




「いいか、教えてやろう? この備品戦争の目的は『備品の入れ替え』じゃない。もっと根本的な別の本質があるんだよ」

「別の本質、だと?」

「なになにぃ~? 教えてクリリンせんせぇ~?」

「いいだろう、よく聞けバカ共? それは仲間だ」

「「仲間?」」




 揃って小首を傾げる俺達に、クリリンは「そうだ!」と力強く頷いた。




「この競争環境においてクラスメイトはライバルだ。出し抜き、蹴落けおとし、時には罠にハメ、そうやってクソガキたちは上を目指していく。だがな? そればっかりだと息が詰まって、逆に効率が落ちるんだ。だからこその備品戦争。だからこそのこの校則だ!」




 人間というのは弱いモノをいたぶっている時が何よりも幸せを感じる生き物だ。


 弱者をイジメるためなら、例えそれまで出し抜き合っていたライバルたちでも協力し合う。


 結果、クラスの中で団結が生まれ絆が発生する。


 それにより何が生まれるか?




「それは仲間だ。そうやってかけがえのない仲間を作っていくのが、この備品戦争の真の目的なのさ」

「なんか綺麗な感じでまとめようとしているけど、やっている事は学校ぐるみのイジメじゃねぇか」

「むぅ~っ! それだとウチらは他のクラスのストレス発散用のサンドバックになっちゃうやんけぇ~?」

有体ありていに言えば、その通りだ!」




 エルさんの言葉に力強く頷くクリリン。


 最低だ……なんて最低な学校なんだ、ここは?


 エルさんが居なければ、今頃自主退学している所で……あっ!?


 だから【追い出し部屋】なのか!?


 転入して3時間でようやく腑に落ちたわ!




「まぁそうガッカリすんな! どうせSクラスに挑戦しても負けは目に見えていたんだから! むしろ相手にされなくてラッキーだと思っとけ!」




 ガッハッハッハッハ! とプリティーに笑うクリリン。


 そのあまりのプリティーさに、首だけ全力で抱きしめてやろうかと思った。




「はいはいっ! それじゃ今日は解散な! 明日からは他のクラスに迷惑をかけないように、ゆる~く頑張って――」




 いきましょい♪ と可愛くウィンクをしようとしたクリリンの言動を遮るように、


 ――バンッ!


 と勢いよくEクラスの教室のドアが開いた。


 なんだ? なんだ? 何事だ?


 俺とエルさんはクリリンから視線を切り、ドアの方へと意識を向けると、そこには茶髪のツインテールの女子生徒と数人の男たちが「ふんっ!」と鼻を鳴らして立っていた。




「よかった、まだ帰ってはなかったみたいね?」

「誰だ、お前?」

「あっ、ロップちゃんやぁ~」




 エルさんが先頭に立つ女子生徒を見て、ぽわっ♪ と嬉しそうに顔を砕顔はがんさせた。


 んっ? エルさんの知り合いか?


 ヤッベ、失礼な口を聞いちゃったよ!?


 と内心焦る俺を無視して、ロップちゃんとやらエルさんへと視線を移して……心底嫌そうな顔を浮かべた。




「相変わらず間の抜けた顔をしているわね、エル・エル? そんなんだからEクラスへと落とされるのよ?」

「んぁ? なんだぁ、テメェ? エルさんに喧嘩を売ってんのかぁ?」




 その敵意剥き出しの言動に、つい身体が勝手に反応してしまう。


 気がつくと俺は席を立ち、女子生徒の前へと移動して彼女を睨みつけていた。


 ロップちゃんなる不届き者は、頬をヒクッ!? と痙攣させながら、強気な態度を崩すことなく震える声で俺を睨み上げてきた。




「だ、誰よアンタは?」

「人に名前を尋ねる時は、まずはテメェから名乗れやクソアマ。常識だろ、あぁん!?」

「や、やけにオラついてるわね、コイツ? ……アタシは2年Bクラス学級委員長のロップ・ホップよ」

「Bクラスの学級委員長ぉ~? そんな奴がEクラスウチに何の用だ、ゴルァ!?」

「いや、その前にアンタ誰よ? というか、その……『ゴルァ!?』とか言わないでよ、怖いでしょうが!」




 何故か涙目で若干腰が引けているロップ委員長。


 強気な姿勢はそのままだが、腰は完全に逃げていた。


 意外と打たれ弱い奴なのかもしれない。


 なんて事を考えていると、我が心の大天使エルさんが俺達の間に割って入ってきた。




「ロップちゃん。この男の子はなぁ、編入生なんよぉ~。名前はアシト。ほらアシト、挨拶や」

「はい、エルさん! ……アシト・アカアシだ、夜露死苦よろしくッ!」

「いや、全然『よろしく』する気が無いわよね? こんなドスの利いた『よろしく』初めて聞いたんだけど? というか、その……が、ガンを飛ばさないで!? 怖いのよ、さっきから!」

「ところでロップちゃん? なんでEクラスに来たん? もしかしてウチに遭いに来てくれたんかぁ~?」




 Bクラスの委員長はエルさんの言葉に『そうだった!?』と言わんばかりにハッ!? とした表情を浮かべた。


 そしてすぐさま例の強気な態度で「ふふんっ!」と鼻を鳴らし、




「そんなワケないでしょ? 今日は身の程知らすなアンタたちに【お仕置き】をしに来たのよ!」




 と言った。


 ……んっ?




「おしおきぃ~? 月に代わって?」

「おしおきだべ~♪」

「コラそこ、ふざけんな! 真面目な話をしてんだよ、コッチは!? ったく、だから嫌いなのよ、アンタは!」




 ジロリッ! とエルさんを睨みながら、ヒステリックに声を荒げるBクラスの委員長。


 まったく、余裕がない女である。


 エルさんの爪の垢を煎じて飲ませた――いなっ! それは俺が飲みたいっ!


 もしかしたら俺はとんでもない神ドリンクを想像してしまったのかもしれないと、1人自分の発想力に身体を震わせていると、例のBクラス委員長が喧嘩腰でエルさんに声をかけた。




「始業式早々にSクラスに喧嘩を売って第2学年の風紀を著しく乱したEクラスの諸君!」

「別に喧嘩は売ってねぇよ」

「なぁ~? 宣戦布告しただけやでぇ~?」

「うるさいっ! ソレがダメなの! 普通、他のクラスに宣戦布告するにしても、もう少し実力を磨いてからやるでしょ!? クラス分け直後はクラスのランクがそのまんま個人の実力になるんだから!」

「そーだ、そーだ!」

「クリリン、うるさい」




 Bクラス委員長の背中を押すように、俺達のやり取りを傍観していた担任が茶々を入れてくる。うぜぇ……。


 思わず中指が勃起しそうだ。




「ソレが分からないおバカさんには、Sクラスに代わってBクラスが【お仕置き】してあげる!」

「なんや、なんや? ロップちゃん、ウチと遊びたいんかぁ~? でも、ごめんなぁ~? ウチ、今日は忙しいねん。今度の休みなら空いとるさかい、その時は2人で町までお出かけしよか?」

「遊びに誘っているワケじゃない!【お仕置き】って言ってんだろうが! 相変わらず人の話を利かない女ね、アンタは!?」

「え、エルさん! その今度の休み、ぜひ俺とも一緒にお出かけを!?」

「アンタはアンタでナニを発情してんだ!? ちょっ、股間がモッコリしていてヤバいから!? 隠してっ! はやく隠して!?」




 サッ! と俺から目を逸らすツインテール。


 さっきから五月蠅いな、このメスガキは?


 今は俺がエルさんをデートに誘っている途中でしょうが?


 いいから黙ってろや?


 そのツインテール、引き千切るぞ?




「ピーチクパーチクうるせぇなぁ!? つまり何が言いてぇんだよ、ロボ・コップ?」

「ロップ・ホップだ!? ……ゴホンッ! つまりアタシが、いやアタシ達が言いたいことはただ1つ!」




 そう言ってロップ・ホップは不躾にも俺達を指さして、ハッキリとこう宣言した。




「――2年Bクラスは2年Eクラスに備品争奪戦争を申し込む!」

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