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第8話 剣を使わない剣士の話~最強の証明~

 Bクラスの奴らを駆逐し続けて40分弱。


 備品争奪戦争もいよいよ終盤。


 そろそろBクラス委員長を仕留めに行こうと森の中を駆けまわっていたら、一体どこに潜んでいたのか岩トカゲが俺のエルさんに攻撃しようとしていたので、さぁ大変!


 彼女のたまのお肌を傷つけるなど万死に値する悪行に、つい堪忍袋の緒が切れて蹴り飛ばしてしまったが……良かったのだろうか?




「おいナッパァ! 一応確認なんだが、あのトカゲはぶっ倒していいのか?」

「誰がナッパだ!? アタシにはロップ・ホップっていう最高に可愛い名前が――いや、そんな事よりも! 倒せるの、アレ!?」




 エルさんを抱えたまま一向に森の中へと走って逃げないBクラス委員長に声をかける。


 委員長は『アンタ正気なの!?』みたいな目で俺を見てくるばかりで、1ミリも俺の質問に答える素振りを見せない。


 ったく、どっちなんだよ?


 はやく答えろや?


 岩トカゲが俺を脅威と認識したのか「GAAAAAAAAAAA――ッ!」と雄叫びをあげながら、その巨体を俺にぶつけようと突進してくる。




「倒せるから聞いてんだろうか。それで? 倒していいの? ダメなの? どっち?」

「いいっ! 倒していいっ! むしろ倒せるモノなら倒しなさい!」

「あいよっ!」




 言質は取った。


 これで何かあっても責任は全てBクラス委員長に擦り付ける事が出来る。


 あとは――




「テメェをぶっ倒すだけだな!」




 そう言って俺は突進してきた岩トカゲの眉間に飛び蹴りをお見舞いした。


 途端に「GAAAAAAAAAAA――ッ!?」と悲鳴染みた声をあげながら立ち止まる岩トカゲ。


 その一瞬の隙を縫うように、素早く岩トカゲの頭上へと飛び上がると、そのまま首筋めがけてかかと落としを放り込んだ。


 轟音と共に首筋を覆っていた岩石が砕け散り、柔らかそうな素肌が露出した。


 チッ、固ぇな。




「す……すっご」

「ロックドラゴンを1人で相手取っているよ、アイツ……」

「な、なんなのアイツ? ホントにEクラスなの……?」

「ねぇ~? アシト凄いよねぇ~? ウチ、ドラゴンを相手に生身で応戦する人、初めて見たわぁ~」




 Bクラスの奴らのどうでもいい声に混じって、エルさんの「おぉ~」と感心した声音が耳朶を叩く。


 え、エルさんが俺を褒めてくれている!? 嬉しいっ!?


 もうそれだけで無限に力が湧いてくるようだ!




「見ていてくださいエルさんっ! この一撃をアナタに捧げますっ!」




 燃えよ、我が恋心よ!


 俺は迸るパッションに導かれるまま、再び岩トカゲに接近する。


 ソレを嫌ったトカゲがグルンッ! と身体を真横に一回転させ、男根のように硬く膨らんだシッポで俺を薙ぎ払おうとしてくる。


 しゃらくせぇっ!




「こんなモンで行く道退いてられっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




 戦斧のように迫り来る岩トカゲの一撃を、左足で真正面から蹴り返す。


 途端にバギンッ! という轟音と共に、岩石の鱗で覆われたシッポが砕け散った。


 同時に悲鳴でもあげるかのように「GAAAAAAAAAAA――ッ!?」と声を荒げる岩トカゲ。




「クソっ! ぶった切る気で蹴ったのに、やっぱ硬ぇな」




 並の魔物ならもう既に倒れている頃なのに、やっぱりトカゲ共は他の奴らと違ってタフネスだな。




「仕方がねぇ。【アレ】をやるか」




 俺は心の中でスイッチをもう一段回入れ替える。


 せっかくエルさんが見てくれているのだ。


 ダセェ所をお見せするワケにはいかない!




「GAAAAAAAAAAA――ッ!」

「そう思うよな、お前もぉぉぉぉっ!?」




 その巨大なアギトで噛み殺そうとしてくる岩トカゲを飛んでかわす。




「ちょっ!? なんだアイツの跳躍力ッ!? 鳥か!?」

「に、人間じゃねぇっ!? 人間じゃねぇよ!?」




 Bクラスの野郎2人が何かわめいていた気がするが、構わず狙いを岩トカゲの後頭部へと定める。


 そのまま空中で1回転しながら、落下の勢いと遠心力を付け加えた必殺の一撃かかと落としを放つ体勢へと入る。


 どんな固いうろこに覆われようが関係ねぇ!


 喰らえ、これが俺の――




「【アカアシ流足刀術そくとうじゅつさんノ型『落じ――』」

「ストォォォォ――ップ! アシト、ストォォォォ――ップ!」




 ――瞬間、エルさんの絶叫が俺の全身を大音量で駆け抜けた。


 彼女の命令は俺にとっては『勅命ちょくめい』そのものであり、俺は慌てて攻撃を中断し、そのままスタっ! と地面へ降り立った。


 その一瞬の隙を突くように、岩トカゲが体当たりで俺を吹き飛ばす。


 途端に俺の身体は弧を描くようにエルさん達のもとまでキリモミ飛行で吹っ飛んでいった。


 そんな俺の身体をBクラス委員長が慌てた様子で抱きかかえ上げる。




「ちょっ!? 大丈夫、アンタ!?」

「ゴホッ!? これが大丈夫に見えるのか、テメェ……?」




 口から血を吐きながら、湿った視線をBクラス委員長に送る。




「お、俺は全能力を攻撃と回避に特化させているから、鬼のように打たれ弱いんだよ……ゴハァッ!?」

「ちょっ、死ぬ死ぬっ!? このままだとコイツ死ぬわよ!?」

「おい、Eクラス委員長ッ! なんで攻撃を中断させたんだ!?」

「そ、そうだよ! あのままやっていたらコイツ勝ってたぞ、絶対!?」

「ご、ごめんなさいぃぃ~っ!?」




 Bクラスの野郎2人に責められて、半泣きになるエルさん。


 おいコラ、パッツン前髪にかりんとう眉毛?


 エルさんを泣かせるんじゃねぇよ、コロスゾ?




「で、でもなぁ? あのロックドラゴンがなぁ、『背中にナニカ刺さって痛い』って。『取って、取って!』って、ずっと泣いてんねん」

「せ、背中ですか……?」




 ハァ? なに言ってんだ、このロリ巨乳は? と怪訝けげんそうに眉根をしかめる野郎2人を無視して、俺は先ほど飛び上がった時の光景を思い出す。




「そう言えば、何か剣みたいなモノが背中に突き刺さっていたような?」

「それやっ! 多分あのロックドラゴンはソレが痛くて暴れとるんや!」

「いや、だからなんだよ!? 何が言いたいんだよ、テメェ!?」




 俺とエルさんの心温まるコミュニケーションに無断でカットインしてくるパッツン前髪。


 おい、前髪?


 お前いい加減にしろよ?




「さっきからエルさんに何て口を利いてんだ、このパッツン前髪は? 坊主にするぞ、テメェ?」

「な、なんでお前が怒るんだよ?」

「うるせぇっ! エルさんが喋っている途中だろうがっ! 黙って聞け!」




 舌を引っこ抜くぞ、クソガキ!? と前髪パッツンを無理やり黙らせ、エルさんに『続きをどうぞ』と促す。


 エルさんはコクンと頷くと、どこか縋るように俺を見つめながら、




「アシト。その背中に突き刺さっとる剣、抜いてあげる事は出来へんかな? あのまま放置しとくのは可哀そうや」

「分かりました。やりましょう」

「即決!? マジか、お前マジか!?」




 驚くBクラス委員長を押し退け、俺は痛む身体にかつを入れ立ち上がる。




「惚れた女が『お願い』してんだ。男だったら『やる』以外の選択肢なんかねぇよ」

「アシト……ありが――えっ? 惚れ、えっ?」

「マジか!? お前マジか!?」




 キョトンとした顔を浮かべるエルさん(可愛い♪)と、「このタイミングで言うか、普通!?」と何故か驚きおののいているBクラス委員長。


 そんな2人をその場に残して、俺は岩トカゲに向かって身体を加速させた。


 きしむ身体が労働基準法違反を感知し、激痛という名の抗議を俺に送ってきたが、意思の力でソレをねじ伏せる。


 泣きごとなんか今はいらない。


 いいからもっと力を寄越せ、俺の身体ッ!




「GAAAAAAAAAAA――ッ!」




 咆哮ほうこうと共にボボボボッ! と無数の岩石が岩トカゲの口から放たれる。


 危ねぇな?




「エルさんに当たるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 飛んできた岩石を全て蹴り落としながら、岩トカゲへと接近する。


 そのまま前足で俺の身体を踏み潰そうとしてくる奴の一撃を躱しながら、素早く飛び上がって背中へ着地。


 流れるように視線を岩トカゲの背中の中心部へと移し、




「あった! 剣っ!」




 刀身が真っ黒の禍々しい剣を発見した。


 アレを抜けばいいのね、了解!


 俺は振り落とされないように気を付けつつ、背中に突き刺さっている真っ黒な剣へと近づく。


 あとはコレを引き抜くだけだ!




「ちょっと待ってな、今抜いてやるから!」




 俺は禍々しいまでに真っ黒な刀身をした剣の柄へと手を伸ばし、


 ――バッチィィィィィッ!




ったぁ!?」




 謎の力により弾かれた。


 な、なんだ今のは!?


 俺はもう1度トライするべく、剣の柄へと指先を這わせ、



 ――バッチィィィィィンッ!



 また思いっきり弾かれた。




「うぎぎっ!? 超痛ぇ……指先もげるかと思った」




 若干涙目になりつつ、痛みを誤魔化すように指先を軽く振るう。


 ダメだ、不思議な力に拒まれて手に持てねぇ。


 なんだこの剣?


 まるで持ち主を選ぶみたいに俺を拒絶してき……うん?


 持ち主を選ぶ……?




「あっ!? もしかしてコレ、聖剣か!?」




 聖剣、それは神が人類に与えた神秘の力を宿した剣。


 持ち主に超常の力を与え、その戦闘力は1本で一国を相手に出来るほどだと言われている。


 ただし聖剣には意思があり、聖剣に認められた『勇者』にしか扱うことが出来ない。


 つまり――




「勇者じゃない俺には抜くことはおろか、触ることすら出来ないってことか……」




『なんでこんな所に聖剣があるんだよ?』とか『なんで背中に聖剣が突き刺さっているんだよ?』とか色々と言いたいことはあるが、今はそんな雑音はどうでもいい。


 俺は思考の邪魔になるノイズを汗と共に外へ排出しながら、次の一手を考える。


 聖剣には触れない。


 なら、


 でもどうやって?




「……よし、【アレ】を使うか」




 バチンッ! と身体の中のスイッチを切り替え、岩トカゲの背中から飛び降りる。


 そのまま流れるように岩トカゲの懐へ飛び込み、聖剣が刺さっていた真下の位置へと移動した。




「GAAAAAAAAAAA――ッ!」

「大丈夫、痛くしねぇから」




 そもそも痛みすら感じねぇから、と前置きしつつ、右足に力をこめる。


 そんな俺に向かって岩トカゲが身体全体を使って押し潰そうと両足の力を抜いた。


 が、一瞬遅い。


 この距離なら、俺の方が速いっ!




「【アカアシ流足刀術】よんノ型……大蛇オロチッ!」




 熱い吐息と共にエネルギーの塊と化した俺の右足が岩トカゲの腹部へと突き刺さる。


 そのまま右足から放たれたエネルギーは岩トカゲの鱗を破壊――することなく、そのまま岩で固められた表皮を通過。


 内臓を傷つけることなく通り抜け、痛みすら感じることなく聖剣が突き刺さっている背中部分へと到達。


 瞬間、爆竹の如くエネルギーが爆ぜ、聖剣を押し返す力となり、




 ――スポンッ!




 擬音が聞こえてきそうなくらい綺麗に背中から聖剣が吹き飛んだ。


 途端にエルさんの「おぉ~っ!」と感嘆の声音が俺の地肌を撫でた。




「すごいぞ、アシトぉ~っ! 剣が抜けたぞぉ~っ! やったぁ~っ!」

「い、今何をしたんだアイツ……?」

「わ、分かんねぇ……。マジで何者なんだ、アイツ……?」

「今のはもしかして『鎧通し』ッ!? 剣を使わずにっ!? なんでそんな高等技術をEクラスがっ!?」




 俺の使った技に心当たりでもあるのか、Bクラス委員長の驚いた声音がエルさんの祝福と共に俺の身体へと降り注ぐ。


 あの女……1回見せただけで俺の【奥の手】の本質を見抜いたのか?


 案外あなどれない女なのかもしれない。


 俺がBクラス委員長の警戒レベルを1上げるのと同時に、クルクルとお空を舞っていた聖剣が、


 ――ザシュッ! 


 とエルさんの前へと落ちてくる。




「おぉ~? 危なかったなぁ、今? 危うく死ぬところやったわぁ、ウチぃ~」

「いや笑っている場合か!? エル・エルあんた、本当に緊張感ってモノがないわねぇ!?」

「すいません、エルさん!? 大丈夫でしたか!?」




 大丈夫やでぇ~っ! といつもの朗らかな笑みでコチラに手をふるマイ☆エンジェル、可愛い♪ 


 結婚したい。


 それが無理なら彼氏になりたい。


 と我が勝利の女神の微笑みに見惚れていると、




「GRUUUUU……」

「おっ?」




 俺をし潰そうとしていた岩トカゲの態度が一変。


 あれだけ暴れまわっていたのが嘘であるかのように大人しくなった。


 そのまま少しだけ俺から距離を取ると、その巨大な強面の顔を俺の身体に押し付けてきて……おっ? おっ? おっ?




「な、なんだ? なんだ、なんだ? まだヤル気か、お前?」

「GRUUUUU……」

「違うでアシトぉ~。その子はなぁ、アシトに『ありがとう』って言っとるんや」




 そう言って俺と岩トカゲのすぐ傍まで近寄って来ていたエルさんが、ペタペタと岩トカゲの顔を触った。


 途端に子猫のように喉を鳴らす岩トカゲ。


 どうやらエルさんを気に入ったらしい。


 コイツとは趣味が合いそうだ。




「元々大人しい子やったんやろなぁ。背中にあんなゴツイ剣が刺さって大変やったやろうに」

「あっ、そうだ剣! エルさん、実はあの剣――」




 と俺が岩トカゲの背中にぶっ刺さっていた聖剣について語ろうとした、その瞬間、


 ――バッチィィィィィンッ!


 と背後で炸裂音が木霊した。

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