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第9話 決着~『勝負』に勝って『試合』に負けました~

 無事に岩トカゲの背中から聖剣を蹴り抜くことに成功した5分後の森の中にて。


 岩トカゲとエルさんがイチャイチャ❤ している場面に若干のジェラシーを覚えていると、背後から電撃の炸裂音のようなモノが森の中に木霊した。




「うわぁっ!? ビックリしたぁ~……」




 なんや、なんや? と驚き振り返るエルさん。


 いや、今のは本当にビックリしたなぁ。心臓が止まるかと思ったわ。エルさんのあまりに可愛さに、ね?


 もう何なのこの人? 地上に舞い降りたエンジェルなの? 好き❤




「わわわっ!? あ、アシト、アシト!?」

「結婚したい――間違えた、どうかしましたかエルさん?」

「アレ見て、アレ!?」




 アレッ! アレッ!? とその愛らしい指先で俺の背後を示すマイ☆エンジェル。


 その驚いた顔も実にキュートだ。




「はい、見てます。ずっと見てます。エルさんの宝石のような瞳は、あの頃から変わらず美しいですね? もういつまでも見ていられますよ」

「う、ウチじゃなくて後ろっ! 後ろっ!」




 後ろを見ろ! と慌てた様子でそう口をひらく、俺のマイ☆エンジェル。


 本当はずっとエルさんだけを見つめていたかったが、我が天使がそう言うのなら仕方がない。


 俺は名残惜しくもエルさんの愛らしい顔から無理やり視線を引き離し、しぶしぶ背後へと振り返った。


 そこには――




「アバババババババッ!? だ、誰か助けデデデデデデデデデッ!?」




 そこには――不用意に聖剣に触った前髪パッツンのバカBクラス男子が、感電したように身体を震わせ、熱いビートを刻んでいた。




「に、ニコラスッ!?」

「もしかしてアレ、聖剣っ!? 嘘でしょ!? なんでこんな所に!?」




 バリバリバリバリバリッ! と高速でビートを刻む前髪パッツンに、困惑した顔を浮かべるBクラスの面々。


 そんな仲間達のことなど知らんっ! とでも言いたげに、ニコラスと呼ばれた前髪パッツンは高速でダンス・ダンス・ダンスッ!


 ぬるい人生なんかお呼びじゃねぇ、ハードに生きてこそオレ様さ!


 そう言わんばかりのハード&ロックなダンスだ。


 ほほぅ? 中々に味のあるダンスをするじゃねぇか、アイツ?


 ちょっと見直したぜ。




「だ、大丈夫かニコラス!? 今助けるぞ!」

「あっ、バカ!? 不用意に触っちゃ!?」




 Bクラス委員長の制止を無視して、相方と思われる野郎1人がパッツン前髪へと近づいた。


 そのまま聖剣と前髪パッツンの身体を引き離さそうと、肩に手を置き――




「「アババババババババッ!?」」




 ――2人仲良くハードダンスタイムへと突入した。


 踊れ、踊れ!


 ファンキーに踊れ!


 世界の中心は俺達だ! 


 そんな魂の声が聞こえてくるかのようなテクニカル・ハイスピード・ダンス。


 ホットに生きてクールに死ぬ、それが俺達の生き様さ! と身体から溢れるソウルに身を任せ、魂の輝きを全身で表現する2人。


 間違いなく、この瞬間だけは世界の中心はあの2人だった。




「おぉ~っ! 中々にワイルド&ファンキーなダンスですね。ねっ、エルさん?」

「おい、そこのEクラスのバカ! 感心してないで2人をどうにかしなさい!? このままじゃ死ぬわよ、アイツら!?」

「どうにかしろって、どうやって? アイツらの身体に触れたらOUTな時点で、もう詰んでんだろうコレ?」




 エルさんの為ならともかく、どうして俺が見ず知らずの野郎2人のために命を張らなきゃならんのだ?


 とBクラス委員長に向かって軽く肩を竦めてやると、何故か烈火の如く怒りだした。




「考えろ! 聖剣さえ引き離すことが出来れば助かるんだから! 何かアイツらの手から聖剣を引き離す方法を考えるのよ! はやくっ!」

「なんで他所よそのクラスの尻拭いを俺らEクラスがせにゃならんのだ。ねぇ、エルさん? ……あれ? エルさん?」




 マイ☆エンジェルに同意を得ようと俺の背後に居るハズのエルさんの方へ振り返るが、そこには誰も居なかった。


 あ、あれ?


 エルさん、どこ行ったの?


 と、俺が辺りへと視線をキョロキョロさせ、




「大丈夫か、2人とも!? 今、助けるで!」




 感電中のバカ2人のもとへと駆け寄るエルさんを発見した……ってぇ!?




「え、エルさん!? ダメです、触っちゃ!?」

「え、エル!? バカ、やめろ!? そいつらに触れたら――ッ!?」




 瞬間、慌ててエルさんの方へと駆け寄る俺とBクラス委員長。


 エルさんの身体であの聖剣の放つ電撃に耐えられるとは思えない。


 彼女のためにも絶対に阻止しなくてはならない!


 だが、この距離は……間に合わない!?




「もう大丈夫やで? 今、助けるさかい」




 そう言ってエルさんは聖剣へと手を伸ばした。


 あぁっ!? もう駄目だ!?




「エルさんっ!?」

「エルッ!?」




 俺はエルさんの苦しむ姿を見たくなくて、情けなくもキュッ! とまぶたを閉じた。


 ……のだが、何故か聖剣からの炸裂音がしない。




「??? あれ?」

「う、嘘でしょ……?」




 困惑したBクラス委員長の声が鼓膜を撫でる。


 その声音はどこか驚きに溢れていて……一体ナニを見たんだ、コイツは?


 俺は覚悟を決めて片目をチラッ! と開けた。


 そこには――




「はい、これで大丈夫やで。よぉ頑張ったなぁ、2人共」




 聖剣を片手に、白目を剥いて気を失っている2人を地面へと横たえるエルさんの姿があった。


 えっ、なにこれ?


 エルさんが勇者にしてか持てない聖剣を平然と持っているんだけど?


 平気な顔で。


 意味が分からずその場でフリーズする俺を横目に、Bクラス委員長が慌ててエルさんに駆け寄った。




「だ、大丈夫なのエル?」

「??? なにがぁ?」

「いや……普通に聖剣に触っているけど……?」

「あぁ、コレ?」




 そう言ってエルさんは漆黒の刀身をした聖剣を軽く掲げて見せた。




「ロップちゃん、これなぁ多分【聖剣】とちゃうでぇ?」

「せ、聖剣じゃない? ど、どういうこと?」

「あんなぁ? 上手く説明できんのやけどなぁ、この剣、すんごい魔力が込められてんねん」

「魔力? なんですかエルさん、ソレ?」




 ようやく現状を受け入れる事に成功した俺が、エルさんに近づきながら彼女に声をかける。


 が、何故か反応したのはBクラス委員長だった。




「ハッ!? や、ヤバッ!?」

「魔力って言うのは――モガモガ」

「う、ウチのアカデミーで流行っている俗語ぞくごよ、俗語っ!」

「俗語?」

「そう俗語! 意味は『ヤバイ!』とか、そういう感じで使うの! いやぁ、さっきのは超魔力だったぁ! みたいな感じ? アッハッハッハ!」




 Bクラス委員長は「アッハッハッハ!」とバカみたいに笑みを頬にたたえると、慌ててエルさんの口元を片手で覆い、俺から距離をとった。


 そのままエルさんの可愛らしい小さなお耳へと口元を持っていき、ボソボソと何かを喋り始める。




(ちょっとエル!? 彼、アンタの【秘密】を知ってんの?)

(ううん、知らない。知ってるのはロップちゃんだけやで?)

(バッカ!? ならそう簡単に魔力の話をするんじゃないわよ! 正体がバレるでしょうが!?)

(あっ、そっかぁ……)




 何故か『しゅんっ……』と肩を落とすエルさん。


 あのクソ女、俺のエルさんに何を吹き込んでいやがる?


 変な事だったら承知しねぇぞ?




(どうしよう、ロップちゃん? アシト、変に思ったかなぁ?)

(……いや、大丈夫。あのアホづらは何も勘づいていない顔だわ)


「なんだよ? なにコッチ見てんだ、おぉ?」




『いや、チンピラかよ?』とツッコミを入れたそうな瞳で俺をチラチラと見てくるBクラス委員長。


 お前、さっきから妙にエルさんと仲が良いけど……なんだ?


 エルさんを狙っているのか?


 この俺を差し置いて、エルさんの相棒の地位を狙っているのか?


 なんていやしい女なんだ!?


 俺の中でBクラス委員長の警戒レベルが5上がった。




「まぁいいや。どうせ俺にボコられる運命なんだ、少しは大目にみてやるよ」




 そう言って俺は身体のスイッチを殺戮さつりくモードへと切り替える。


 途端に俺の発するオーラに気圧されたのか、ヒソヒソ話をしていた2人の身体がビクッ!? と強張った。




「あ、アシト?」

「な、ナニよ? そんな怖い顔して?」

「エルさん、その女から離れてください。備品争奪戦争……再開です」




 俺がそう口にした瞬間、Bクラス委員長の顔が絶望に染まった。


 どうやらコチラとの戦力差を正しく理解できているらしい。


 やっぱりこの女、あなどれない。


 ここで完膚なきまでに潰しておくべきだ。




「事故とは言え、取り巻きの野郎2人がこれで戦闘不能。残りのBクラス共は全部片づけた。……あとはテメェの首だけだ、Bクラス委員長ッ!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!?」

「待たない。さぁ、神への祈りを済ませろ?」




 俺が1歩距離を詰めると、同じく1歩後ろへ下がるBクラス委員長。


 その腰は完全に逃げ切っていて……おいおい?


 仮にもBクラスの大将だろうが、お前?


 大将なら腹ぁくくれや?




「ちゅ、中止よ、中止っ! 予期せぬトラブルが起こったんだから、この戦争は中止よ!」

「それでまた仕切り直しをしろと? ふざけんな? 目の前に勝利が転がっているのに、みすみす逃すバカがどこに居る?」




 Bクラス委員長の顔から血の気が完全に消える。


 その表情は『ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!?』と雄弁に語っていた。


 どうやらこの状況を打開する【奥の手】はないらしい。


 よかった。


 これで安心して刈り取ることが出来る。




「おいてけよ、大将首? なぁ!?」

「ひぃぃぃぃっ!?」




 もう完全に半泣きの状態でドチャッ!? とその場で尻もちをつくBクラス委員長。


 どうやら腰が抜けたらしい。


 ちょうどいい、これで確実に仕留めることが出来る。




「寄こせや、その大将首ィィィィィッ!」

「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!? 怖いぃぃぃぃ~~っ!? 誰か助けてぇぇぇぇぇ~~っ!?」

「あ、アシトすとっぷぅぅぅぅぅ~~っ!?」




 俺がBクラス大将の顔面を蹴り飛ばすべく身体を加速させると同時に、Bクラス委員長の傍に控えていたエルさんが慌てた様子で俺の方へと駆け寄って来た。


「止まって、止まってぇぇぇ~っ!?」と言いながら俺とBクラスの大将の間に身を滑り込ませるエルさん。


 すみません、エルさん。


 いくらエルさんの頼みでも、こればっかりは譲れないです。


 俺は彼女の身体を受け止める体勢を作りつつ、さらに身体を加速させた。


 エルさんを抱きしめつつ、Bクラス大将の首をる!




「安心してください、エルさん! もう2度とエルさんに逆らえないように完膚なきまでに叩き潰してみせますから!」

「安心できへんよぉ!? お願いやから一旦止まって――あっ!?」

「「へっ?」」




 どこまでもクレバーにエルさんを抱きしめようとした、その瞬間。


 ――ツルッ!


 と聖剣を抜く時に飛び散った岩トカゲの体液に滑って、エルさんの足が空を切った。


 そのまま『くたばる時は前のめりや!』と言わんばかりに、物凄い勢いで頭から地面へと突っ込んでいく。


 その突っ込む先には、岩トカゲが吐き出した小さな岩石があり……あっ。




「バルスッ!?」




 ――ガツンッ!


 エルさんの額が思いっきり岩石にぶつかった。




「え、エルさんっ!?」

「ちょっ!? 大丈夫、エル!?」




 慌てて俺とBクラス大将がエルさんへと近づく。


 エルさんは見事に鼻血を拭き出しながら「きゅぅぅ~……」と白目を剥いてノビていた。




「……気を失っているわね?」

「だな。気を失っているな」

「「と、いうことは?」」




 乙女がしてはいけない顔を浮かべるエルさんから視線を切り、Bクラス委員長と顔を見合わせる。


 さて、ここで備品争奪戦争のルールを【おさらい】しておこう。


 ルールは至ってシンプルで、大将である相手のクラス委員長を、その時点で勝利が確定する。


 そして我らがEクラスの大将は……エルさんである。


 そのエルさんは今、白目を剥いて完全に意識を失っているワケで……もはや戦闘続行は困難と言えよう。


 つまり……?




「あぁ~、ゴホン……」

「おいおい、マジかよ? 嘘だろ、エル・エル?」




 俺達の様子を隠れて覗き見していたテッペンハゲ夫とクリリンが、気まずそうに茂みから出てくる。


 ハゲ夫は申し訳なさそうに俺を真っ直ぐ見つめながら、




「いや、お前の実力はよく分かった。よく分かったし、よくやったと言いたいが、その……すまんな?」




 これもルールなんだ、そう言ってテッペンハゲ夫は天に向かって空砲を打ち上げた。


 パァンッ! と乾いた音が大気を揺らす。


 それと同時にテッペンハゲ夫の野太い声が森の中へと木霊した。




只今ただいまをもって【Bクラス対Eクラス】の備品争奪戦争の終結を宣言する!」




 ハゲ夫はスタスタとBクラス委員長の傍まで近づくと、彼女の手首を握り、天高く掲げてみせた。




「Eクラス委員長エル・エルの戦闘不能により、2年Bクラスの勝利ッ!」




 ――こうして俺達Eクラスの記念すべき備品争奪戦争一戦目は、勝負に勝って試合に負けるという、なんとも納得がいかない形で決着したのであった。


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