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第12話 アシト・アカアシの秘密2~噂の大剣豪~

「まだ出会って2日目だが、俺、お前のこと嫌いだわ」

「奇遇ね。アタシもよ」




 バイト中のエルさんが厨房へと戻って10分後の食堂にて。


 俺が本日2個目となるエルさんお手製の日替わりランチをモソモソと咀嚼しながら、してやったり顔のBクラス委員長を睨みつけた。


 Bクラス委員長はふてぶてしい態度でお茶をすすりながら、「さて」と気を取り直すように俺に向き直った。




「約束通りコチラの質問に答えて貰うわよ、アカアシ」

「ウッハッハッハッハッ! してやられたのぅ、アシト!」

「うるせぇ、うるせぇ。……んで? 俺に質問って、なんだよ?」




 ヤギチンのしゃくさわる笑い声が酷く鬱陶うっとうしい。


 俺は不機嫌さを隠すことなく油でベチョベチョになった野菜炒めを頬張った。


 先ほど同じく美味しくないが、マズくもない。


 が、エルさんが俺のために作ってくれたというスパイスがこの野菜炒めを至高の領域へと押し上げていた。


 うっっっっま!?


 なんだこの野菜炒め、うっっっっっま!?


 国宝かよ?


 エルさんは料理も上手なんだなぁ♪


 可愛くて気立ても良くて、オマケに料理も出来るとか……おいおい?


 彼女は将来、一体どんな偉人になるというのだ?




「アタシの質問は至ってシンプルよ。……アカアシ、アンタなんで実力を隠してるの?」




 エルさんの無限の可能性ポテンシャルに身体を震わせていると、Bクラス委員長が真面目腐った顔でそんな事を言ってきた。


 今朝に続いてまた『この手』の質問かよ?


 めんどくせぇなぁ……。




「別に隠してねぇよ」

「そんなワケないでしょ! ロックドラゴンを単独で討伐できる実力があるクセに、落ちこぼれのEクラスに居るのがその証拠でしょうが! 一体なんで本当の実力を隠しているのよ!?」

「だから隠してねぇって」




 嘘だッ! と俺の話を一向に信じようとしないBクラス委員長。


 あぁ~、うるせぇなぁ?


 せっかくのエルさんお手製のランチなのに味わって食べられないじゃないか。




「本来ならAクラス……いやSクラス、もしかしたらあの【剣聖の孫】ユウト・タカナシに匹敵する実力があるクセに、なにが『実力を隠してない』よ! 本来の実力を見せないオレ、超カッコイイ♪ とか思ってるワケ!? クソダサいわよ!?」

「何も言ってないのにボロクソ言われるじゃん、俺?」

「いやぁ、ロップはん。流石にAクラスは言い過ぎやで? アシトの実力ならBクラスが妥当や」

「そんなワケないでしょ!? アンタAクラス委員長はコイツの実力を知らないからそんな事が言えるのよ!」

「いやいや? アシトの実力はワシが一番よぉ知っとるで?」




 そう言って烈火の如く詰め寄るBクラス委員長の視線をサラリと躱し、ヤギチンはエルさん特製野菜炒めを味わう俺へと視線をよこした。




「確かに実技だけならSクラスやろうけど、問題は筆記やなぁ」

「筆記?」

「なぁアシト? お前、編入試験での筆記テスト、何点やった?」

「筆記って、アレか? 250満点の?」




「そう、ソレや」と、頷くヤギチン。


 筆記、筆記ねぇ~……何点だったっけなぁ?


 俺は編入試験の記憶を漁るべく、海馬の海へとダイブした。


 え~と、確か……。




「筆記は140点だったと思う」

「140点!? 低っ!? バカなの?」

「あぁっ!? 半分以上は点取れてるだろうが!?」




 うそ……アンタの点数、低スギッ!? と言わんばかりに両手で口元を覆い驚くBクラス委員長。


 やっぱコイツ嫌いだわ。


 俺の心のメモ帳にある【絶対許さないリスト】の中にBクラス委員長を刻んでいると、ヤギチンは「おおむね予想通りやな」と大きく頷いてみせた。




「そんじゃま、ここでクラス分けの基準について話していこか? クラス分けは筆記250点、実技250点の計500点満点で振り分けられる」




 490点以上がSクラス。


 400点以上、489点以下がAクラス。


 350点以上、399点以下がBクラス。


 300点以上、349点以下がCクラス。


 250点以上、299点以下がDクラス。




「そして249点以下が【追い出し部屋】のEクラスや」

「へぇ~。そういう採点基準になってたんだ、あのテスト?」

「ちなみにアタシは398点だったわ!」

「いや、聞いてねぇし」




 ドヤァッ! と実にドヤドヤしい笑顔で自慢気に口角を歪めるBクラス委員長。


 心なしかその瞳は何らかのリアクションを求めているかのようで……。


 何だコイツ? 褒めて欲しいのか?


 Bクラス委員長は何のリアクションも返さない俺にムッ! とした表情を浮かべると、どこか子供っぽく頬を膨らませて、




「ちょっとぉ? これでもBクラストップの成績なんだから、少しは褒めなさいよ?」

「ふん、井の中の蛙め。Bクラストップ程度で喜びおってからに。ココにAクラストップの成績の奴がいるだろうが」

「どうもぉ~っ! Aクラストップのヤギ・クサナギでぇ~す♪ 編入テストは480点でしたぁ~☆」

「クッ!? エルなら『すご~い!』って褒めてくれるのに……」




 これだから男子は、と忌々し気に舌打ちを溢すBクラス委員長。


 ちょっとだけスッキリしたのはナイショだ。




「さて、話を戻すがアシトの筆記は140点。仮に実技が満点やったとしても合計390点。つまりBクラスが妥当。というか本来はBクラスに配属されるハズやったんやが……」




 と、そこまで言ってヤギチンが湿った視線を俺に送ってきた。


 な、なんだよ……?




「アシト、お前編入テストの実技は何点やった?」

「30点だけど?」

っく!? えっ!? 実技30っ!? 低っく!? 低すぎて逆に引くわ!?」

「はっ倒すぞ、このあま?」




 なんともムカつく表情でドン引きした顔をつくるBクラス委員長。


 思わず足が出そうになった。


 あぁ、今わかった……。


 この女、村に居たときに俺をイジめていたあのガキ大将に似ているんだ。


 通りで気に食わないと思ったワケだ。




「30点……なるほどのぅ。そういうワケかいな」




 俺が改めてBクラス委員長を『敵』認定していると、ヤギチンが至極納得いった様子で小さく頷いていた。


 この様子……まさかコイツ、気づいたのか?


 俺の直感が正しかったことを証明するかのように、ヤギチンは愚か者を見るようなジトッとした目つきで、




「アシト、お前……実技の編入試験で『剣』を使ったな?」

「……使った」

「カァァァァァァァァ~~ッ!? やっぱり!?」




 このおバカめ! とでも言いたげに、ぺちんっ! と自分の額を軽く叩くヤギチン。


 そんなヤギチンの言動が理解できないBクラス委員長は、頭の上に「???」を乱舞させながら『意味が分からん』とばかりに小首を傾げた。




「そりゃ剣術アカデミーの編入試験なんだから剣を使うでしょ、普通。ナニ言ってんの、アンタら? バカなの?」

「まぁ普通の剣士なら『剣』を使うやろなぁ。普通の剣士なら……なぁ?」

「な、なによ? その意味深な感じ……?」




 感じ悪いわね? とBクラス委員長が眉根をしかめる。


 そんなBクラス委員長を横目に、ヤギチンは俺に向かって顎をクイッ! と向けた。




「悪いのぅBクラス委員長、別にバカにするつもりはなかったんや。ただ、このバカは『普通やない』って事を伝えたくてのぅ」

「いや、普通じゃないのは知ってるわよ。ロックドラゴンを倒す程の実力があるんだから。アタシが知りたいのは、何で実力を隠していたのかってことで――」

「それがそもそも勘違いや」




 Bクラス委員長の言葉を遮りながら、俺の【秘密】を知っているヤギチンが『やれやれ……』とばかりに肩をすくめた。


 ハァ? とムカつく表情で顔を歪めるBクラス委員長。


 そんなBクラス委員長にヤギチンは俺の気持ちを代弁するかのように口をひらいた。




「アシトは実力を隠してへん。手も抜いてへん。正真正銘、実力でEクラスに入ったんや」

「だから『ソレ』がありえないでしょって話をしてるの!」

「いいや、充分ありえる話やで? むしろ30点も取ったことに驚きや。頑張ったなぁ、アシト?」

「おう、超頑張った」

「な、なによソレ……? ほんと意味分かんないんだけど?」




 男2人だけで分かり合っているのが心底気持ち悪いのか、Bクラス委員長が「うげぇ~!?」と真っ赤な舌をチロチロと出し、吐くマネをして俺達を煽ってくる。


 本当にナチュラルにムカつく女だな?


 絶対に友達いないだろ、コイツ?




「2人だけで分かり合っていないで、アタシにも教えなさいよ!」

「別に教えるって程でも無いんやが……」




 チラッとヤギチンが俺の方へ視線を滑らせる。


『喋ってもええか?』とアイコンタクトを飛ばしてくるヤギチンに、俺は無言で頷いた。


 別に【秘密】とは言っても、隠しているワケじゃないしな。


 今はエルさんも居ないし、知りたいなら教えてやれ。


 ヤギチンは『了解や!』と小さく頷くと、改めてBクラス委員長と向き直った。




「ええか、ロップはん? 信じられんかもしれへんが、今から話すことは全て本当の話や」

「あ、あによ? も、もったいぶってないで早く教えなさいよ!?」

「実はアシトの奴はなぁ――」

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