目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第16話 しゃしゃり出る小娘~聖剣は誰がために~

「その決闘、Sクラス対Eクラスの備品争奪戦争にして貰うことは出来ませんか!?」

「……なに?」




 突然のエルさんの乱入し、眉間にシワを寄せる学園長。


 俺の【魔女】裁判が一応は決着を見せ、会議室の空気が弛緩しかんしたその瞬間を狙うように、エルさんは2年Sクラスに宣戦布告を申し出た。


 途端にピリッ! と再び会議室に緊張が走る。




「君は確か2年Eクラス委員長の……」

「エル・エルです!」




 心臓の弱い爺さん婆さんなら一発で昇天しかねないほどの圧を放つホーク学園長に、真正面から立ち向かうエルさん。


 か、カッコイイ……惚れ直しそうだ。


 トゥンク☆ と胸の鼓動が高鳴り続ける俺の視界の隅で、クリリンが学園長の圧にやられて泡を吹いて気を失っている姿が目に入って来たが、構わずエルさんの勇姿を瞳に焼き付けるべく意識を我が守護天使様へと集中させた。




「2年Eクラスはたった今、2年Sクラスに備品争奪戦争を申し込みます!」

「その備品戦争をアシト・アカアシとユウト・タカナシの決闘代わりにして欲しいと、そう申すワケだね?」

「はいっ!」




 恐れを知らない若手芸人のように真っ直ぐ学園長を見据えるエルさん。


 そんなエルさんをBクラス代表のロップ・ホップはオロオロッ!? した様子で見守り、Aクラス代表のヤギチンに至っては面白そうにニヤニヤ♪ しながら事の成り行きを見守っていた。




「いいのかい? 備品戦争となるとクラス全員が強制参加になる。2年Eクラスは2人、対して2年Sクラスは7人。3倍以上の戦力差がある上に、相手はアカデミー始まって以来の最高クラスと言われている2年Sクラスだよ?」

「分かっています」




 覚悟の上です、と大きく頷くエルさん。


 カッコイイ……濡れる!


 俺が女なら今頃は下半身が大雨・洪水警報で大変な事になっていただろう。


 ヤダ、俺の(クラス代表である)女、イケメン過ぎない?


 もう一生ついていくわ!




「ふむ……しかし、これはあくまでアシト・アカアシが【魔女】か否かを見分けるための決闘だしなぁ」

「俺は別に構わねぇぜ? 1人だろが7人だろうが全員まとめてぶっ飛ばしてやるよ」

「……Sクラスボクらを舐めるなよ? アシト・アカアシ。ボクの仲間は全員お前の100倍強いぞ?」

「そりゃ楽しみだ」




 バチバチッ! と俺とユウト・タカナシの視線が空中でぶつかり合う。


 どうもコイツの言動はしゃくに触って仕方がねぇ。


 初めて顔を会わせるが、仲良くなれる気が微塵みじんもしない。


 まぁ仲良くする気なんざ1ミリもないから、別にいいんだけどさ。


 なんて事を考えていると、学園長が全員の視線を集めるように、またもや無意味にパチンッ! と指先を鳴らした。




「ОK、わかった。ならこうしよう。今回の備品争奪戦争は2年Sクラス7名と2年Eクラス2名による1対1のサドンデス・デスマッチ仕様にしようじゃないか!」

「サドンデス……」

「デスマッチ仕様……?」




 なにそれ? と俺とエルさんの頭に「???」が浮かび上がる。


 そんな俺達に学園長は「なに、簡単なルール変更さ」と楽しそうに口角を引き上げた。




「お互いのクラスから1人を選出し、戦い合う。負ければそこまで。勝てば次の相手とそのまま決闘。先に相手のクラスの剣士を全員負かしたクラスが勝者だ」

「……つまり負けるまで同じ人間が戦い続ける『勝ち抜き戦』方式ってことか?」

「ざっくり言ってしまえばそうだ!」




 どうだ、面白いだろう? と何故か当事者でもないのにワクワク♪ した顔を見せる学園長。


 何を1人で興奮しているんだ、このオッサンは?




「まぁもちろん実力もさることながら、2人しか居ない君たち2年Eクラスは圧倒的に不利なワケだが……それでもいいなら許可しよう」




 どうする、2年Eクラスの諸君? と俺とエルさんをどこか試すような視線で見つめるホーク学園長。


 そんな学園長に引っ張られるようにエルさんがどこか躊躇ためらいがちに俺を見てきた。


 その瞳は俺に対してどこか申し訳なさそうな色合いが滲んでいて……大丈夫ですよ、エルさん。


 俺はエルさんが決めたことなら何でも従う覚悟が出来ていますから!


 例えエルさんがここで『アシト、ウチの便器になれ!』と無茶を言ってきても、むしろ笑顔で頷く自信がありますから!


 笑顔でエルさんの黄金シャワーを受け止めながら「ルネッサ~~ンス♪」と爽やかに微笑んでみせますから!


 ……あれ? なんの話をしていたんだっけ、俺?




「……やります。その条件でお願いします」




 俺が意識を妄想の世界へ飛ばしている間に、エルさんの覚悟を決めた声音が耳朶を叩いた。




「その代わり、こちらも1つ条件を……いや、お願いをしてもええでしょうか?」

「お願い? いいだろう、言ってみなさい」




 ありがとうございます、と学園長に向かって頭を下げるエルさん。


 一体ナニをお願いする気なのだろうか?


 エルさんの隣に座るクリリンが『頼むから変な事だけは言わないでくれよ!?』とハラハラした面持ちで我らがマイ☆エンジェルを見守っていた。


 そんなクリリンの期待に応えるように、エルさんは所在無さげに空中をただよっているユウト・タカナシの聖剣を指さして、




「もし2年Eクラスが勝利した暁には、その時はSクラスの備品ではなく、そこの魔――聖剣バルムンクを渡して貰うこと出来ませんか」




 と言った。


 瞬間『何を言ってんだ、この小娘は!?』とザワザワッ!? 会議室がザワザワし始める。


 その声に混じって、どこかあきれ気味のユウト・タカナシの声がヤケにくっきりと俺の耳朶へと届いた。




「やっぱりね……そんな事だろうと思った。まだこの聖剣を狙っているのかい、エルちゃん?」

「狙っているんじゃない。返して欲しいだけ」

「返して欲しいって、コレはボクが友達になった女の子から貰ったモノだよ?」

「我が家の家宝を盗んでおいて、よくもそんな事が言えたもんだ! 恥を知れ!」




 珍しく激昂げっこうしているエルさんが、ユウト・タカナシを鋭く睨みつける。


 よく分からんが、どうやらあの空中に浮かんでいる聖剣とエルさんには何か因縁のようなモノがあるらしい。




「静粛に。静粛に! ……ふむ? 聖剣を求めるか、エル・エルよ。それは何故だ?」




 ザワザワしていた会議室が学園長の一喝で静かになる。


 そんな静寂をブチ破るようにエルさんは言葉をつむぎ始めた。




「あの聖剣バルムンクは元々、我が家の家宝として大切にたてまつってきたモノなんです。2年前に亡くなった両親から受け継いで大切に保管していたのに……当時、村に住んでいた村長の娘がウチが留守で家を空けている間に盗みに入ったんです」




 ソレに気づいたはウチは、急いで村長の娘さんに返して貰うように直談判しに行ったら、



『あぁ、あの剣ね? 欲しそうにしてから、通りすがりの勇者様にプレゼントしちゃった♪』




「――って。だからウチ、バルムンクを持って行った勇者の後を慌てて追いかけた。バルムンクを……家宝を返して貰えるように」

「なるほど。つまり、その村長の娘が勝手に渡したのが」

「ボクの持っている聖剣バルムンクだというワケだね」




 学園長の言葉を継ぐように、ユウト・タカナシが言葉を重ねていく。




「でもボクはこの剣は『我が家に伝わる聖剣です』って言われて、あのにプレゼントされたワケだけど?」

「そんなの嘘っぱちだよ! あの剣はガブ……エル家に伝わる宝剣なんだ!」

「ふむ……ではその村の娘とやらを呼んで真偽をハッキリさせるのはどうだ?」




 学園長が至極ごもっともな事を口にするが、エルさんはフルフルと首を横に振った。




「村長の娘さんは我が家の家宝であるバルムンクをタカナシさんに渡して以来、原因不明の病気で意識不明の寝たきり状態なんです……」

「むむむ……それは困った。そもそも、何故か村長の娘はそんな嘘を吐いてまでユウトに聖剣をプレゼントしたのだ?」

「……本人が言うには一目惚れしたそうでして、タカナシさんに気に入られたかったからと言っていました」




 悔しそうに眉根を寄せてそう吐き捨てるエルさん。


 俺のエルさんにこんな悲しそうな顔をさせるだなんて……その村長の娘、絶対に許さんわ!


 俺の【輪廻転生しても絶対に許さない】リストの中に村長の娘をしっかり記していると、エルさんの話を黙って聞いていたユウト・タカナシが「分かった」と小さく呟いた。




「いい加減、絡まれるのも迷惑していた所だ。ここらで全部決着をつけようじゃないか」




 そう言ってユウト・タカナシは不遜ふそんにも俺のエルさんをジロリッ! と睨みつけながら、




「お望み通り、君らが勝ったらこの聖剣バルムンクを譲ってやる。ただしっ! もし負けたら、もう二度とボクに絡まない事を誓え!」




 誓えるのであればその勝負、受けてやる! と上から目線でそう吐き捨てるユウト・タカナシ。


 テメェ、エルさんに何て口を叩きやがる!?


 思わず威嚇しそうになる俺の言葉を遮るように、エルさんが声を発した。




「誓うよ。この勝負で負けたらもう二度と絡まないし、アカデミーも辞める」

「ちょっ、エル!? アカデミーを辞めるって、何を言って!?」

「静かに、Bクラス代表。……エル・エル、続けなさい」




 学園長にたしなめられ、不承不承と言った様子で口をつぐむBクラス委員長。


 気持ちは痛いほど分かる。


 ぶっちゃけBクラス委員長が声を上げなければ、俺が悲鳴をあげている所だった。


 う、嘘ですよね、エルさん?


 せっかく再開したというのに、負けたらまた離れ離れになっちゃうんですか?


 そ、そんなのは絶対に嫌だ!


 俺の中で【魔女】判定とは別の理由で負けられない理由が出来た瞬間である。




「ただし勝ったら、その時は我が家の家宝であるその聖剣バルムンクを返して貰う!」

「いいだろう。……学園長、承認をお願いします」

「あい、分かった! 2人の願い確かに聞き届けた!」




 ホーク学園長がバンッ! と机を叩きながら立ち上がると、当事者の誰よりも楽しそうな笑顔でハッキリと宣言した。




「今ここに特別ルール仕様で2年Sクラス対2年Eクラスの備品争奪戦争を承認する! 試合日時は明日の午前1時より、第一修練場にて開始するモノとする!」




 異論はないな? とユウト・タカナシとエルさんの顔を交互に見返す学園長。


 2人はバッチバチに睨み合いながら、コクリと大きく頷いた。




「2年Sクラス、異論はありません」

「2年Eクラスも異論はありません」

「よろしい! では只今をもって2年Sクラス対2年Eクラスの備品争奪戦争の締約ていやくを宣言する!」




 ――かくして俺が【魔女】か否かを判断するための決闘は、いつの間にかエルさんの退学をかけた備品争奪戦争へとすり替わっていたのであった。


 正直、色々と『言いたいこと』『質問したい』部分は多々あれど、これだけは今ハッキリと言える。


 いや、言わなければならないだろう。




「……絶対に負けられない戦いがここにあるっ!」




 俺とエルさんの輝かしい学園生活のため、俺は2年Sクラスを潰す覚悟を決めた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?