目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第19話 VS 2年Sクラス~彼女が【最強】を信じる限り、アシト・アカアシは【最強】を張り続ける~

 エルさんに勝利という花束をプレゼントしてみせる! と覚悟を決めた、翌日の放課後。


 俺はエルさんと担任のクリリンと共に修練場の控室で、静かにその時が来るのを待っていた。




「――だから俺、言ってやったんですよ!『カルロス、それパンやない。ひじきや』って!」

「へぇ~。カルロス君もおっちょこちょいやねぇ?」

「いや、何の話をしているんだ、お前らは?」




 集中力を高めるべく、我が守護天使エルさんと楽しく談笑していると、何故かゲンナリしたクリリンの声が肌を叩いた。


 俺がエルさんを独占していたからヤキモチを焼いているのかもしれない。


 クリリンは真っ青な顔でお腹を抑えながら、




「こっちは緊張でゲボを吐きそうだっていうのに……随分と余裕がありそうで羨ましいわ、オェッ!?」

「どうしたクリリン? 急に産気づいて?『つわり』か?」

「えっ!? せんせぇ~妊娠してたん!? うそっ!?」

「してねぇよ」




 オレは男だ! と声を荒げるも、またすぐ「オェッ!?」とえずくクリリン。




「うぅ~……気持ちワリィ、気持ちワリィよぉ~」

「んだよ、二日酔いか?」

「教え子が退学と【魔女】認定されるかどうかの瀬戸際の日に、酒なんか飲むか。というか1ミリも胃袋に入らんわ」




 そう言ってクリリンはジロリッ! と俺を睨みつけながら、真っ青な唇をボソボソと動かし始めた。




「お前が魔女じゃないことは分かっている。だからアシトに関してはそこまで心配はしていない。問題はエル、お前だ」

「えっ、ウチぃ?」




 いきなりクリリンに名前を呼ばれ、キョトン? とした顔を浮かべるエルさん。


 可愛い♪


 結婚したい。


 それが無理なら彼氏になりたい。




「よりにもよって自分の退学を賭けてSクラスに勝負を挑むとは……分かってんのか!? 負けたらお前、明日から無職だぞ!? ……あっ、ヤベ。また気持ち悪くなってきた……おぇっ!?」

「大丈夫、せんせぇ~? 背中さすろうか?」

「……頼むわ」




 ストンっ! と俺の隣に腰を下ろすクリリンの背後へと周り込むエルさん。


 そのままいたわるようにクリリンの背中をさすさすと優しく擦り始めて……クソっ!?


 あの野郎、俺のエルさんに介抱させやがってからに!?


 嫉妬で頭がどうにかなりそうだ!




「大丈夫やでぇ、せんせぇ~。ウチは……ウチらは負けへんから。なっ、アシト」

「ッ! は、はいっ! もちろんです、エルさんっ!」




 嫉妬の炎で身体が焼き尽くされそうになっていた俺に、エルさんの浄化の笑顔が降り注ぐ。


 あぁ。パ●ラッシュ……この笑顔を守る為なら俺はなんだって出来る気がするよ。


 クリリンよ、今日のところは気分が良いから見逃してやるよ。


 命拾いしたな、天パ?




「『負けない』って……何か策でもあるのかよ?」

「「策?」」

「……もしかしてあのSクラス相手に無策で挑むってワケじゃないよな?」




 タラリッ! とクリリンのコメカミに一筋の汗が流れる。


 俺とエルさんはお互いに顔を見合わせ……ニッコリ♪ と微笑み合った。




「気合と」

「根性で」

「「頑張る?」」

「オロロロロロロロロロロロロッ!?」




 ビチャビチャビチャッ!? と控室にクリリンのマッドショットが炸裂する。


 小刻みに痙攣しながらお口からスプラッシュし続けるクリリンを前に、思わず「おわっ!?」と驚きの声をあげてしまう。




ったねぇなぁ!? もうっ!」

「大丈夫せんせぇ~? お水飲む?」

「ま、マジか!? お前ら、マジか!?」




 酸っぱい匂いがするクリリンが、どこか責めるように俺達を睨んでくる。


 俺達を睨む前に、その吐き出した汚物を処理しろよテメェ?




「さ、作戦! 今から作戦を練るぞ、お前ら――」




 ――ガチャリッ!




「――2年Eクラス諸君……時間だ」

「……Ohオゥ




 屈強な野郎の声と共に、ガチャリッ! と俺達の居た控室の扉が開く。


 見ると、扉の前には学園長の警備をしていたゴリマッチョの剣士の1人が立っていた。


 どうやら時間らしい。




「それじゃクリリン、俺たち行ってくるわ。行きましょう、エルさん」

「うん。じゃあ行ってくるね、せんせぇ~っ!」




 ふんすっ! と鼻息を荒げながら、気合い充分と言わんばかりに笑みを溢す我らが総大将。


 ちょっと可愛すぎませんか?


 あっ、ヤバい、しんどい!?


 可愛すぎてしんどい。もう逆にしんどい!?


 もうしんど過ぎて股間と心臓が痛い!?


 まだSクラスと戦ってもいないのに、もう瀕死寸前である。


 この調子で大丈夫か、俺?


 本当に勝てるのか、俺?


 そう思ったのはどうやら俺だけではないらしく、クリリンも「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁっ!?」と愛人の結婚式に乱入する間男のように声を張り上げた。




「せめてエル、お前が一番手でイケ! 間違いなく手も足も出ないだろうが、少しでも体力を削れれば御の字だ!」

「ふざけんなよ、クリリン? エルさんの珠のお肌に傷をつける気か? 一番手は俺がいくに決まっているだろうが?」

「悪手ッ!? それマジの悪手だから!?」




 やめてくれぇぇぇぇっ!? と恥も外聞もなく泣き叫ぶ天然パーマ。


 その顔は涙と鼻水でグシャグシャのグチョグチョで……人間『あぁ』はなりたくないモノだな……。




「大丈夫やって、せんせぇ~」

「大丈夫じゃねぇよ!? どっからくるんだ、その自信は!?」




 ドン引きしている俺の横で、エルさんが満面の笑みでクリリンにピースサインを浮かべてみせる。


 お茶目なエルさんもまた、いとをかし趣がある……。


 エルさんは胸がキュンキュン♪ とうずきまくっている俺の背中をポンッ! と軽く叩くと、不敵な笑みを浮かべてハッキリとこう口にした。




「だってアシトは最強やから。なっ、アシト?」




 そう言って笑うエルさんの瞳は、本気で俺が最強であると信じている色をしており……俺は改めて彼女に誓い直した。




「はいっ! 俺は最強です!」




 エルさんが俺を最強だと認めてくれている内は絶対に誰にも負けない。


 彼女の前では俺は最強を張り続ける!


 その覚悟、改めて彼女に誓い直した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?