土曜日の朝、僕は悩んでいた
美月さんとの約束があるのに、他の5人からも次々と誘いが来ていたからだ
愛美からは
『今日、一緒にショッピングしない?アンタに似合う服を選んであげる』
というメール
雅子先輩からは
『今日は演劇の稽古があります。見学に来ませんか?』
という電話
静香さんからは
『新しい本が入荷しました。一緒に見に行きましょう』
という手紙
千尋からは
『生徒会の資料整理を手伝ってください』
という正式な依頼
麗奈先輩からは
『今日はマラソン大会の下見です、一緒に走りませんか?』
という誘い
「どうしよう・・・」
僕は部屋で頭を抱えていた
みんなの好意は嬉しい
でも、僕は恋愛対象として彼女たちを見ることができない
結局、美月さんとの約束を優先することにした
約束は約束だ・・・
書店で美月さんと会うと、彼女はいつもより可愛い私服を着ていた
ワンピースにカーディガン、まるで文学少女の理想像のようだった
「寿さん、お待たせしました」
「あ、いえ、僕も今来たところです」
サイン会は盛況で、美月さんは作家さんと楽しそうに話していた
僕は文学のことはよくわからないけど、美月さんの嬉しそうな顔を見ているのは悪くなかった
その後、カフェでお茶をしながら、美月さんは読書の楽しさについて熱く語った
「寿さんは、どんな本が好きですか?」
「僕?えーっと、マンガくらいしか・・・」
「マンガも立派な文学です!どんなマンガを読まれるんですか?」
美月さんは興味深そうに身を乗り出した
「主にバトル系とか、スポーツ系とか・・・」
「素晴らしい!私も最近、少年マンガを読み始めたんです、寿さんの影響で」
「僕の影響?」
「はい、寿さんがどんなものを好きなのか知りたくて」
美月さんは頬を赤らめた
「寿さんと同じものを好きになれたら、もっと寿さんに近づけるような気がして・・・」
その時、カフェの入口にギャルファッションの愛美が現れた。僕たちを見つけて、驚いた顔をした
「あ、寿!こんなところにいたのね」
愛美は僕たちのテーブルにやってきた
「美月ちゃんも一緒なのね、デート?」
「デ、デートなんて・・・」
美月さんが真っ赤になった
「そうなのよ、デートなの」
美月さんが突然はっきりと言った
普段の大人しい彼女からは想像できない積極性だった
「アタシも寿とデートしたかったのに〜〜」
愛美が唇を尖らせた
「え、えーっと・・・」
僕は2人の間で困惑していた。
「美月ちゃん、寿を独り占めしちゃダメよ、みんなで仲良くしましょ」
愛美は勝手に椅子を持ってきて座った
「寿、今度アタシとも映画見に行かない?ホラー映画なんてどう?怖くなったらアタシの腕に掴まっていいから」
「ホラーは苦手です・・・」
「じゃあロマンス映画は?」
「それも・・」
その時、カフェの外から手を振る人影が見えた
雅子先輩だった
「寿さーん!」
先輩は堂々とカフェに入ってきた
「あら、皆さんもいらしたのね」
雅子先輩は演劇で鍛えた美しい立ち居振る舞いで僕たちに近づいた
「寿さん、今日の稽古はどうでした?」
「あ、すみません、行けませんでした」
「そうでしたか・・・では今度、必ず来てくださいね」
先輩は僕の頭を撫でた
「え?先輩?」
「あなたのために、特別な演目を準備していますから」
4人でのお茶タイムは、なんだか微妙な空気になった
美月さんは本の話を続けようとするし
愛美はファッションの話を振ってくるし
雅子先輩は演劇の魅力を語り続ける
僕はただ・・・
「はい」
「そうですね」
と相づちを打つだけで精一杯だった