その夜、窓をコンコンと叩く音がした
「さくら、いるか?」
聞き慣れた声だった
窓を開けると、幼馴染の大輔が脚立に乗って顔を出していた
「大輔?なんで窓から?こんな時間に」
「玄関から入ったら、お前の母ちゃんに『さくらちゃん、最近モテモテなのよ、6人も女の子から告白されて』って小一時間、相談されそうで」
大輔は苦笑いしながら部屋に入ってきた
僕と大輔は幼稚園からの付き合いだった
お互いの家を行き来して、一緒に遊んで、一緒に宿題をして、まるで兄弟のように育った
「学校でも話題になってるぞ、お前の『モテ期』」
大輔は僕のベッドに腰かけた。
「やめてくれ、もう頭がパンクしそうだ」
僕は机に突っ伏した
「6人も同時に告白されるなんて、普通じゃないよな」
「だよな?僕、何もしてないのに」
「でも、お前のこと好きになる気持ちはわかるよ」
「え?」
大輔は天井を見上げた。
「お前って、誰に対しても裏表がないじゃん・・・好きなものは好き、嫌いなものは嫌いってはっきり言うし、困ってる人がいたら放っておけない」
「それって普通のことだろ?」
「普通じゃないよ、特に最近の高校生は、みんな建前ばっかりで本音を言わない、でもお前は違う」
大輔は僕の方を向いた
「それに、お前は自分が女子だってことを意識しすぎないから、みんなリラックスして接することができる・・・でも同時に、女子としての魅力もある」
「女子としての魅力?」
「ああ。お前が困ったときに見せる表情とか、照れたときの赤くなった顔とか、すごく可愛いよ」
僕の顔が赤くなった
「だ、大輔・・・」
「なあ、さくら・・・お前、本当はどうしたいんだ?」
「そりゃあ、普通に恋愛したい・・・好きになった人と付き合いたい」
「で、その相手は?」
「・・・男子」
「だよな」
大輔は笑った
でも、その笑顔はいつもと少し違って見えた
「なら、はっきり断ればいいじゃないか」
「それが出来たら苦労しないよ。みんないい人だし、傷つけたくない」
「優しいな、お前は」
そう言って、大輔は急に真剣な顔になった
「でも、中途半端な態度を続けてたら、もっと傷つけることになるぞ」
「わかってる、でも・・・」
「さくら、お前に聞きたいことがある」
大輔は僕の手を取った
「俺のこと、どう思ってる?」
「え?」
突然の質問に、僕は困惑した
「大輔は・・・大輔だよ、幼馴染で、親友で、家族みたいな存在」
「家族みたいな、か」
大輔は複雑な表情を浮かべた
「なあ、さくら・・・俺、お前のことずっと見てきたから知ってるんだ」
「何を?」
「お前が本当に好きになる人のタイプ」
大輔は立ち上がった
「お前は、自分を理解してくれる人、ありのままの自分を受け入れてくれる人を求めてる。そして、一緒にいて自然でいられる人」
「・・・・」
「今の6人は、確かにお前のことを好きだと思う、でも、彼女たちはお前の一面だけを見て好きになったんじゃないか?」
大輔の言葉が胸に刺さった
「美月は、ワイルドなお前が好きで
愛美は、飾らないお前が好きで
雅子先輩は、率直なお前が好きで
千尋は、正義感の強いお前が好きで
麗奈先輩は、素朴なお前が好きで
静香は、無骨で純粋なお前が好きだ」
「でも、お前の全てを知ってるのは俺だけだ」
大輔は窓に向かって歩いた。
「お前が朝に弱いこと、甘いものが好きなこと、怖い映画を見たら、1週間は独りでトイレに行けなくなること、家族のことを誰よりも大切に思ってること、全部知ってる」
「大輔・・・」
「そして俺は、そんなお前の全部が好きだ」
大輔は振り返った
「でも俺は、お前の幼馴染だから、きっとお前は俺のことを恋愛対象として見ることはないんだろうな」
大輔は寂しそうに笑った
「だから今日は、友達として相談に乗りに来たんだ」
そう言って、大輔は窓から出て行こうとした
「待って」
僕は大輔を呼び止めた
「大輔、その・・・」
僕は自分の気持ちがよくわからなかった
大輔の言葉を聞いて、心が騒いでいる
「今度、2人で映画でも見に行かない?怖くない映画を」
大輔は振り返って笑った
「ああ・・・いいな、久しぶりにゆっくり話そうか」