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第3話 襲撃者を返り討ち

 セルジュが目覚めた時、両親の葬儀は既に終わっていた。


(お父さま……お母さま……)


 自分の足で歩けるまでに回復したセルジュが真っ先に向かった先は、一族の眠る霊廟だ。

 霊廟は屋敷の裏手にある。

 生い茂る木々に囲まれた向こうは崖、手前には屋敷。

 奥まった所にある霊廟は侵入者が入りにくい場所にあり、攻め込まれていざというときには最後の砦となる。


 護衛たちは屋敷側にいて、霊廟前にいるのはセルジュとテバスの2人だけだ。

 霊廟の前に立ったセルジュは、亡き両親へ思いをはせる。

 前世の記憶が蘇っても、現世のセルジュにとっての両親は彼らしかいない。


(もういないんだ……)


 セルジュの心の中は切なさでいっぱいになって外まで溢れだしそうだ。

 実際、涙は溢れて止まらない。

 嗚咽を上げながらセルジュは屈んで花を霊廟に供えた。

 いったん屈めば立ち上がれそうもないくらい、重くて息苦しい感情が足元に溢れて暴れて溺れそうになる。

 ポロポロと涙を流し、声にならない声を上げるセルジュ。

 その後ろにテバスがスッと立った。


(お父さまも、お母さまも、もういないけれど……ボクには、テバスがいる。だからボクは、立ち上がらなきゃ……)


 現世のセルジュは悲しみのなかに溺れていても、頭の芯にいる前世の勇者が抱き留める。

 だから、シュッと鋭く空気を切って何かがセルジュの小さな体を襲う気配に、体は勝手に動いた。

 セルジュは左手を地面に着くと身をひらりと翻して、その何かをかわす。

 タンッと音を立てて細く鋭い刃物が地面に刺さる。

 セルジュは体全体を回転させながら地面に刺さった刃物を右手で引き抜くと、それが飛んできた方向へと投げ返した。


 セルジュの動作は軽く素早く、後ろに立つテバスが事態を把握する前に、ウッという小さなうめき声とドサリとモノの落ちる重たい音が響いた。


「え? 一体何が……」


 ポカンとするテバスに答えることなく、セルジュは身軽に動きながら次から次へと飛んでくる刃物をかわし、受け止め、投げ返す。


(体力はないが、体が小さい分、動きやすいな。コレなら何とかなりそうだ)


 ヒラリヒラリと危険から身をかわしながら逃げるセルジュを、優秀な執事は呆然として見つめている。


「テバスッ! 危ないっ!」


 的確にセルジュを狙ってきた襲撃者が標的を変えたことに気付いたセルジュは、テバスの細長い体に自分の体を絡めるようにして彼を助けた。

 小さな刃物が、霊廟の扉に当たってカンッと音を立てる。

 セルジュはテバスに体を絡めたまま器用に体を操ると刃物を拾って投げ返して、華麗に襲撃者を始末した。


(気配は……もうしないな。今ので最後か)


 セルジュは勢いをつけてテバスの体から飛び降りて綺麗に着地すると、念のための、身を低くしたまま周囲を窺った。

 その鋭い視線は、4歳児のものとは思えない。


「坊ちゃま……これは?」


 問われてセルジュが振り返ると、クールな見た目の執事が唖然としてこちらを見ていた。


(あー……やっぱ、冷静で完璧な男に見えても、コレには驚くかぁ)


 セルジュは土で汚れた膝を手で払いながら立ち上がると、小さな指先でぷっくりした頬をポリポリと掻いた。

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