入学式が終わって数日。
神代学園の生活にも、ほんの少しだけ慣れてきた……と思ったのは完全な勘違いだった。
「風間ユウトくん、すぐに生徒会室まで来てください」
放送が鳴ったのは昼休み。
俺の名前だけをフルネームで読み上げてきやがった。
「おいおい……何やらかしたんだ俺……」
周囲のクラスメイトが「え?」「何したの?」とざわつく中、俺は肩をすぼめて、生徒会室へと向かう。
そして、ドアを開けた瞬間。
「よく来たね、ユウトくん!」
そこにいたのは、完璧すぎる美貌を持った女子生徒だった。
ふわりと揺れる茶色の髪、きらきらと輝く琥珀色の瞳。
整った顔立ちに、気品ある制服姿。そして……
「私は生徒会長の鏡ヶ原つかさ(かがみがはら・つかさ)。よろしくね、ユウトくん♪」
そう、まるでアイドルのように笑った、その直後だった。
「さて、膝枕の時間ね。さ、ここにおいで♪」
「…………は?」
いやいやいや、俺、まだ何もしてねえよ!?
書類提出もしてないし、名前覚えてもらうような目立ち方もしてないはずだぞ!?
「私ね……この学園に入ってから、ずっと“運命の後輩”を探してたの」
「いや、先輩が運命を押し付けてくるなよ!!」
「ふふっ、ツッコミも合格♡ じゃ、遠慮なく……」
つかさはふわりとスカートの裾を整えると、俺の頭を抱いて、
その膝へと
「いやああああああっ!? やめろおおおお!!」
逃げようとする俺に、背後から鍵を閉める音。
えっ、なんで鍵閉めたの!? 俺まだ罪状すら知らされてないよ!?
「ユウトくん……わかってる? これは“儀式”なのよ。膝枕って」
「何の!? 何の儀式なんですか会長ぉおお!!」
「信頼の証、愛情の育成、そしてちょっとした癒やし♪」
「万能すぎるだろその膝枕!!」
結果。
逃げられず、俺は大人しく(というか抵抗むなしく)つかさの膝で寝かされた。
「ふふ……ユウトくん、かわいい顔してるのね」
「そんなこと言いながら髪撫でないでください会長……」
「ねぇ、今日から毎日、来てくれる?」
「えっ……?」
「ほら、私って“しっかり者”だから……いつも気を張ってて、つらくなっちゃうの。でも、甘える相手がいれば、もっとがんばれる気がして……」
甘えん坊、発動。
しっかり者会長、という看板の裏に潜む重度の甘えん坊属性。
その全てが、俺に向かって放たれ始めていた。
そのとき、突然ドアが開く。
「会長、いけません。ユウト様は……ご主人様ですので」
完璧な礼儀作法、銀の髪をポニーテールに束ねた、まるで執事系ヒロインのような少女が登場した。
「お待たせしました。私は春日井メイ。本日より、ご主人様の専属メイドとして、転校して参りました」
「「…………えぇぇぇぇぇ!?」」
俺のツッコミが間に合わない。
この学園、やっぱりどこかおかしい、いや、俺の周りだけ次元が違う気がするんだ。
こうして、メイド型転校生が加わり、俺の頭痛とツッコミとモテ期が、さらに加速することになる。