「はじめまして、ご主人様」
その瞬間、時が止まった、ような気がした。
銀髪ポニーテール、整った顔立ち、完璧なメイド服姿。
彼女の一挙手一投足は、まるで執事喫茶と高級ホテルと魔法少女が合体したような威圧感と美しさに満ちていた。
「……いや、誰がご主人様だよ」
「春日井メイ、今春より本学に転校してきました。ご主人様の身辺警護、身の回りの世話、精神的ケアまで、すべてを担当させていただきます」
「いやいやいや、待て待て! 俺の許可を取ってからにして!? てか初対面だよな!?」
「初対面、ではありません」
彼女は一歩、俺に近づいてきて……、
「中学の修学旅行。京都、清水寺。あなたが落としたハンカチを、私が拾いました」
「うっすらとしか覚えてないぃぃぃ!!」
「その瞬間、決めたのです。この人の下で働こう、と」
動機がガチすぎる……!
たかがハンカチを拾っただけで、人生の進路を決めるな!!
「つかさ会長。これより、風間ユウト様をお守りするのは、私です。お引き取りを」
「ちょっ……な、なんでメイちゃんがユウトくんのメイドやってるのよ!」
「それが契約ですので」
「契約って何の!? どうやって結んだの!? 説明書とかあんの!?」
生徒会室で始まる、メイド vs 会長のバトル。
気品と礼儀のバチバチが、あまりにも静かに、しかし致命的に繰り広げられていた。
「ご主人様は、甘いものが好きです。今日はガトーショコラをご用意しております」
「甘やかすなら私のほうが得意ですっ! 膝枕から耳かきまでフルセットでどうぞっ!」
なんで俺を取り合う“戦場”の武器がおやつと膝枕なんだよ!!
どっちも嬉しいけど困るんだよ!!
そして、その夜。
俺は寮の自室で、ようやくひと息ついていた。
「はぁ……なんか一日で寿命が5年くらい縮んだ気がする」
ドアのチャイムが鳴る。
時計を見ると、すでに夜の9時を回っていた。
「はい? どなた」
「ユウトくん……会いたくて、来ちゃった」
ドアの隙間から見えたのは、ダウナー系文学少女・氷室しずく。パジャマ姿。
「いやいやいやいや!? おまえ女子寮だよな!? なんで!? ていうかその格好なに!?」
「……ねむれないから、読書……一緒に……」
そのままふらりと部屋に入ってくるしずく。
いやいやいや! こっちは下手すりゃ人生終了なんですけど!?
「……ユウトくんの匂い、落ち着く。……すぅ……」
そのまま、ベッドに横になるしずく。
「ちょっ、寝るな! 一回帰ろう! いやマジで帰って! 寮監来たら俺アウトだから!」
しかし俺の叫びも虚しく、しずくはすやすやと眠りの森へ……。
そして翌朝。
「ユウト先輩、おはようございます♡」
「ユウトくん、今日は会長特製のお弁当作ってきたよ!」
「ご主人様。昨夜、女子の痕跡がこの部屋に残っていましたが、どなたか泊まりましたか?」
……俺の学園生活、マジで命の危険あるんじゃないか?