月曜の朝。
教室の空気が、どこかざわついていた。
「転校生来るってマジ?」
「この時期に? 珍しくね?」
「しかも女子らしいぜ。名前が……なんだっけ……」
「雪村アオイ」
その名前を口にした瞬間、クラスの時間が止まった気がした。
いや、止まったのは、俺の胸の奥だった。
廊下の先から、姿を現した彼女は、あの頃と、何ひとつ変わっていなかった。
真っ直ぐで、優しい目。
肩までの髪を揺らし、姿勢よく立つその姿は、小学生の頃からずっと、俺の記憶に刻まれていた。
「お久しぶり、ユウト」
アオイは、何でもないように微笑んだ。
◆◆◆
「初恋の人って……本当に、いるんだな」
放課後、屋上でひとり、俺は呟いていた。
彼女との記憶は、鮮やかだった。
運動が得意で、俺の勉強を教えてくれて。
泣いたときは必ず隣にいてくれて。
引っ越しの前日、「絶対にまた会おうね」と約束して。
そして……そのまま、忘れていた。
忘れていた“はず”だった。
「……で? どういう関係なのかな?」
声がして振り向くと、そこにはつかさ。
彼女の後ろには、ことの、しずく、メイ。
ヒロインたち全員が揃っていた。
「昔の女かぁ……ふぅん……」
ことのが、妙に低いテンションで呟く。
「過去の恋なんて……今、必要?」
しずくは、珍しく言葉を尖らせた。
「ご主人様、過去を抱えたままでは、前へ進めません」
メイの声も、ほんの少しだけ揺れていた。
「みんな……」
「ユウトくん」
つかさが、一歩前に出る。
「私たちは、ここにいる。今、ここであなたを想ってる。
その事実だけは、忘れないで。あなたの“心”を見てるのは、今の私たちなんだから」
彼女の言葉に、胸の奥が、また揺れた。
◆◆◆
夜。
俺の部屋に、雪村アオイが訪ねてきた。
「昔と同じ。ノックしても反応鈍いよね」
そう言って笑う彼女は、あの頃の“幼なじみ”そのままだった。
「ユウト。話したいこと、あるんだ。……私、転校してきたの、偶然じゃないよ」
「……え?」
「もう一度、あなたに会いたかったから。今でも、ちゃんと好きだから」
◆◆◆
その夜。
俺は初めて、本当の意味で“選ばなきゃいけない”と思った。
心が揺れているのは、過去のせいか。
それとも、今、隣にいてくれた誰かのせいか。
恋の選択は、ひとつしか許されない。