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第9話 『初恋再来。揺らぐ想い、ひとつの過去』

 月曜の朝。

 教室の空気が、どこかざわついていた。


「転校生来るってマジ?」

「この時期に? 珍しくね?」

「しかも女子らしいぜ。名前が……なんだっけ……」


「雪村アオイ」


 その名前を口にした瞬間、クラスの時間が止まった気がした。

 いや、止まったのは、俺の胸の奥だった。


 廊下の先から、姿を現した彼女は、あの頃と、何ひとつ変わっていなかった。


 真っ直ぐで、優しい目。

 肩までの髪を揺らし、姿勢よく立つその姿は、小学生の頃からずっと、俺の記憶に刻まれていた。


「お久しぶり、ユウト」

 アオイは、何でもないように微笑んだ。


 ◆◆◆


「初恋の人って……本当に、いるんだな」


 放課後、屋上でひとり、俺は呟いていた。


 彼女との記憶は、鮮やかだった。


 運動が得意で、俺の勉強を教えてくれて。

 泣いたときは必ず隣にいてくれて。

 引っ越しの前日、「絶対にまた会おうね」と約束して。


 そして……そのまま、忘れていた。


 忘れていた“はず”だった。


「……で? どういう関係なのかな?」


 声がして振り向くと、そこにはつかさ。

 彼女の後ろには、ことの、しずく、メイ。

 ヒロインたち全員が揃っていた。


「昔の女かぁ……ふぅん……」

 ことのが、妙に低いテンションで呟く。


「過去の恋なんて……今、必要?」

 しずくは、珍しく言葉を尖らせた。


「ご主人様、過去を抱えたままでは、前へ進めません」

 メイの声も、ほんの少しだけ揺れていた。


「みんな……」


「ユウトくん」

 つかさが、一歩前に出る。


「私たちは、ここにいる。今、ここであなたを想ってる。

その事実だけは、忘れないで。あなたの“心”を見てるのは、今の私たちなんだから」


 彼女の言葉に、胸の奥が、また揺れた。


 ◆◆◆


 夜。

 俺の部屋に、雪村アオイが訪ねてきた。


「昔と同じ。ノックしても反応鈍いよね」


 そう言って笑う彼女は、あの頃の“幼なじみ”そのままだった。


「ユウト。話したいこと、あるんだ。……私、転校してきたの、偶然じゃないよ」


「……え?」


「もう一度、あなたに会いたかったから。今でも、ちゃんと好きだから」


 ◆◆◆


 その夜。

 俺は初めて、本当の意味で“選ばなきゃいけない”と思った。


 心が揺れているのは、過去のせいか。

 それとも、今、隣にいてくれた誰かのせいか。


 恋の選択は、ひとつしか許されない。

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