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第4話 「国民辞めたい高校生、現る」

「国……辞めたいんスけど」

廊下の突き当たり、学年主任が咳き込む教室の奥に、黒いパーカーの少年が突如立っていた。


「え、君、なに言ってんの?」


クラスメイトがざわつく中、本人はお構いなしで、


「いや、マジで。俺、国民辞めて自由になりたいっす」


一同が無言になる。


ここは東京都心の私立高校、南龍崎みなみりゅうざき学園。

だが、どうやら今、ただの高校ではないらしい。


獅堂まゆらは、仕事の合間にSNSを覗いていた。

“ヤ退くん”の依頼は増える一方、9歳のしのぶCEOからも「次は国を退職したい」と連絡があったばかり。


そんな時、事務所に突如、激しいノック音。


「獅堂さん、助けてください! 新しい依頼人がヤバすぎて…」


電話の向こうは、リュウだった。


「詳細を教えてくれ」


「とにかく、国民を辞めたい高校生が現れました。かなりヤバイです。CIA時代のスパイ活動で培った危険察知レベルでヤバイ」


「わかった。ハル、準備して!」


翌日。学校の屋上。


そこに立つのは、田島 たじましょう、17歳。


彼の口から漏れたのは、意味不明かつ壮大すぎる「退職理由」だった。


「この国、マジでブラック企業すぎる。朝から晩まで洗脳教育、意味のないテスト、誰も幸せにならないシステム。俺、こんなの続けたくない」


「おい翔、やめろって」


教員が必死に説得するが、翔の瞳は燃えていた。


「国はさ、自分の人生の契約者じゃねえ。俺たちは奴隷だ」


まゆらは、かつてCIAで極秘工作をしていた経験を思い出した。

「国家」という巨大組織を相手にするのは、ヤクザ以上に危険。だが、依頼は依頼。


「翔くん、君の人生は君のものだ。ヤ退くん、出動!」


作戦会議では、リュウが厳しい表情で言った。


「この子、完全に洗脳から抜け出してる。でもな、国を辞めるなんて、革命レベルだ。危険なだけじゃ済まない。政治家、公安、あらゆる組織が動くぞ」


「でも、黙って見過ごせない。誰かが動かないと」


ハルがPC画面を指し示す。


「この子、ネットで“国民辞めたい”ムーブメントを拡散し始めてる。今や拡散力は国家の兵器と変わらない」


学校内では、翔の影響がじわじわと広がっていた。


「国民辞めたい」ステッカーが配布され、SNSでは「#国民辞めたい」がトレンド入り。


教師たちは必死に抑え込もうとするが、逆効果。


まゆらは翔と直接対話するため、学校へ潜入。


屋上で待つ彼に近づき、


「翔くん、なぜそこまで国を辞めたいの?」


「だって、国が俺たちの自由を奪ってる。法律、ルール、義務…全部強制でさ。俺はもっと自由になりたいんだよ」


まゆらは静かに頷いた。


「その気持ち、わかるよ。でも、自由ってのは単にルールを破ることじゃない。自分で選ぶこと。ヤ退くんは、“選べる自由”を守りたい」


翔の目に、一瞬の迷い。


「でも、どうやって?」


「一緒に戦おう。君の意思を形にするために」


そこへ突然、教員たちが突入。


「翔、連れて行くぞ!」


まゆらはすかさずリュウに合図。


「行くぞ、援護!」


屋上は一気に緊迫した空気に包まれる。


リュウの一言で場が変わる。


「この少年を止める理由は何だ? 法律か? 常識か? それとも、上からの命令か?」


教師たちは答えられずに黙った。


「自由は奪うものじゃなく、与えるものだ。俺たちは、君が自分で選ぶための道を作るだけだ」


まゆらが後ろからタピオカを取り出して、くいっと吸う。


「ほら、まずは一杯どう?」


緊張の瞬間に、場が少し和んだ。


数日後。


「国民辞めたい」運動は、あっという間にメディアに取り上げられた。


政治家は「少年の思想は危険」と批判するが、国民の心は揺れていた。


夜の事務所。


まゆらは窓の外を見ながら呟いた。


「国家だろうがヤクザだろうが、結局は“人間の鎖”を解きたいだけなんだよな」


リュウが頷く。


「この国がブラックなら、俺らがホワイトな道を作るしかない。たとえ火の中、水の中、血の海の中でもな」


ハルが静かに言った。


「……もう、引きこもりに戻りたい」


まゆらは笑った。


「ハル、それ言うなよ」



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