「ねえ、まゆらさん」
9歳のしのぶが、事務所のソファにちょこんと座っていた。
その小さな顔には、全世界を操るかのような冷静な視線が宿る。
「退職代行サービスを始めたのは、ヤクザだけじゃなくて、国家や企業、あらゆる“奴隷”を救うため。だから、私は本当の“雇い主”なの」
まゆらはタピオカをすすりながら軽く頷く。
「まさか、小学3年生が裏でそんな大きな仕掛けをしてるなんてな」
「そう。私はこのおでん屋の看板娘、でもそれだけじゃない。裏では巨大なデータ収集ネットワークを持ってて、依頼者の退職率や再就職率、果ては社会の動向まで掌握してるの」
「それって、まさか…」
「国を動かす裏の力になるわけじゃないよ。でも、今の社会システムがいかに人間を消耗品として扱っているか、数字とデータで暴くことができるの」
「つまり、“退職”は単なる労働からの解放じゃなくて、社会全体の再構築の鍵なんだな」
しのぶは頷き、深刻な顔で言った。
「退職代行業界に革命を。私の使命はそこにある」
その時、外の街角で不穏な動きがあった。
刺青ダルマの健ちゃんが、影の組織から尾行されている。
「俺の居場所はもうないのか…」彼はポケットから畑仕事用の手袋を取り出し、深いため息をついた。
事務所に戻ったまゆらは、リュウとハルにこう告げる。
「次の依頼は、この街の“隠れた奴隷”を助けることになる」
リュウはニヤリと笑った。
「隠れた奴隷? つまり、法律やシステムの網目をかいくぐる連中か?」
ハルはため息をつきながらも、画面に向かって動き始める。
「データを解析して、最適な再就職先を探します。社会の裏側からの脱出ルートを」
まゆらはタピオカを片手に宣言する。
「ヤクザも国家も企業も、誰も逃げられない鎖を断ち切る。人生はリセットできる。血で書かれた誓約書でもな!」
次の日、健ちゃんはまゆらチームと接触した。
「畑を耕したいだけだ。でも、俺の名前はもう汚れてる。誰も俺を受け入れてくれない」
まゆらは微笑む。
「君の人生は、誰のものでもない。私たちが君の味方だ」
リュウとハルもそれぞれにサポートを約束。
その瞬間、画面にニュース速報が映し出される。
「退職代行“ヤ退くん”が社会現象に。政府は調査委員会設置へ」
しのぶが笑う。
「やっと社会が私たちに注目し始めたわね」
まゆらは真剣な眼差しで言った。
「これからだ、本当の戦いは」