目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第17話 「再就職を“超える”覚悟の一手――プロメテウスJobの予告する未来」

港の倉庫街、午後9時23分。夜風が倉庫の隙間から冷たく吹き込む中、春日ハルはスーツの男と睨み合っていた。


「……よお。ハル坊」


七三分けの男、高堂。元厚労省キャリア官僚。かつての上司。今や国家の“再就職市場管理委員会(JREMC)”の刺客。


「お前は厚労省の言いなりになる気か?」ハルの声は硬い。


「選択肢は二つ。まゆらを裏切るか、死ぬか」


その言葉が、脳内で何度も反響する。


◆◇◆


「再就職代行屋は国家の敵だ。彼らは制度の隙間を埋め、自立を謳う――だが国はそれを許さない」


高堂の言葉は、まるで冷徹な宣告だった。


ハルは思い出す。自分が“ねじ込んだ”60代の男が初日過労死したこと。家族が首を吊ったこと。社会的合理性という名の暴力。


そして今、かつての同期であった田淵と、元ヤクザのまゆら。


二人は同じ“極道再社会化プログラム”の生き残りだが、片や信仰に逃げ、片や制度に従い再起を誓った。


「感情を持った瞬間にプログラムは破綻する。お前もそうだ、ハル」


「……俺はもう戻らない」


◆◇◆


夜の事務所。


まゆらは灯と湯豆腐を囲みながら言った。


「“再就職”はもう古いのよ。私たちは制度に頼らずに“仕事”を作る側になる――それが新しい時代の流れ」


灯が目を輝かせる。


「どういうこと?」


「名前は“プロメテウスJob”。これはただの“職業マッチング”じゃない。完全自立社会への第一歩よ」


「自立?」


「そう。国も企業も介在しない。働く者が直接、価値を交換し合う――それは“職”を超えた新たな『再就職』の形」


ハルは黙って聞いていた。まゆらの決意は本物だった。


◆◇◆


翌日、まゆらと灯は密かにプロメテウスJobの立ち上げを宣言した。


SNS上での告知は瞬く間に広がり、既成の労働市場を揺るがす波紋となる。


「国が管理する再就職なんて、もう終わりよ」


「私たちは誰の命令も受けない。選ぶのは、自分自身」


まゆらの言葉には、かつてのヤクザ時代の凄みも、社会を突き破る覚悟も宿っていた。


◆◇◆


しかし、その裏では田淵が教団の地下室で密かに動いていた。


「次に再就職するのは――“まゆら”だ」


謎の“神託”が告げられ、田淵は冷笑する。


「お前を迎えに行く……我々の最後の就職先に」


教団は国家の再就職政策を利用し、支配と信仰の網をさらに広げようとしていた。


◆◇◆


その頃、高堂はハルに特別任用通知書を手渡した。


「これはただの復帰命令じゃない。“プロメテウスJob”を潰すための最前線だ」


「潰す……?」


「そうだ。国は、制度の外にある全ての“外道”を排除する」


ハルは拳を握りしめる。


「俺はもう一度、戦う。制度の内側でも外側でもなく、新しい居場所のために」


◆◇◆


事務所の窓から見上げる夜空。


まゆらは灯に告げる。


「“再就職”はただの始まりに過ぎない。私たちは“職業”の枠を超えて、新たな社会を創る。プロメテウスJobは、それを予告しているの」


灯は真剣な目で頷いた。


「完全自立社会……働く自由も、選ぶ自由もある。でも、それは簡単じゃない」


「だからこそ、闘いが必要なのよ」


まゆらは再び湯豆腐の鍋を見つめながら、かすかに微笑んだ。


「闇の中に光を灯すために、私たちは立ち上がった――さあ、始めましょう」


◆◇◆


果たして、プロメテウスJobが描く“完全自立社会”とは何か?


国家の監視網、再就職代行の暗闘、極道と信仰、そして制度を超えた「仕事」の再定義。


「再就職」とは、単なる“職”への再出発ではなく、自由か管理か、選択か支配かをかけた生存の戦いなのだから――。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?