朝の陽光が差し込む再就職代行事務所の一室。まゆらは、湯気を立てるおでん鍋の前で腕を組んでいた。その隣で、灯がランドセルを背負ったまま、真剣な表情で書類に目を通している。
「まゆらさん、この“ランドセル就労支援制度”って、本当に子どもたちのためになるんでしょうか?」
灯の問いに、まゆらは眉をひそめた。彼女の過去が脳裏をよぎる。元・極道としての経験、そして再就職代行事務所を立ち上げた理由。それらが交錯し、答えを出すのが難しかった。
「制度自体は理想的かもしれない。でも、運用する人間次第で、子どもたちの未来を奪うことにもなる。」
まゆらの言葉に、灯はうなずいた。彼女自身も、ランドセル就労支援制度の被害者として、制度の闇を知っていた。
一方、ハルは教育庁の研修室で、白紙の紙と向き合っていた。“お絵かき自己分析”という課題に、彼の手は止まったままだ。過去の罪、再就職代行事務所での経験、そして今の自分。それらを絵にすることができなかった。
「ハルさん、手が止まってますよ。」
隣の席の若い職員が声をかける。ハルは苦笑いを浮かべながら、ペンを走らせた。描かれたのは、歯車の中で必死にもがく人間の姿だった。
その頃、田淵は労基署の前で深呼吸をしていた。信仰と就労の狭間で揺れる彼は、ついに通報という形で行動を起こす決意をした。彼の手には、再就職代行事務所の内部資料が握られていた。
「これが、俺の信仰だ。」
田淵は自分に言い聞かせるように呟き、労基署の扉を開けた。
再就職代行事務所では、まゆらと灯が新たなプロジェクトの立ち上げに向けて動き出していた。“プロメテウスJob”と名付けられたそのプロジェクトは、AIを活用した完全自立社会の実現を目指すものだった。
「このプロジェクトが成功すれば、再就職という概念自体が変わるかもしれない。」
まゆらの言葉に、灯は希望の光を見出した。しかし、彼女の胸には一抹の不安もあった。
その夜、しのぶちゃんはおでん屋のカウンターで、静かにおでんをつついていた。ランドセルの中には、いつものように拳銃が二丁。彼女の目は、まゆらたちの動向を見逃さなかった。
「人材リソースとキャッシュフローの最適化。さて、次の一手はどう打つかしら。」
しのぶちゃんの呟きは、夜の静寂に溶け込んでいった。