梅雨の湿気が街を包むある日、再就職代行事務所「極道リセット株式会社」は、いつものように静かな朝を迎えていた。
「灯、今日の予定は?」
まゆらが湯気の立つおでん鍋をかき混ぜながら、事務所の奥でランドセルを背負ったまま書類を整理している灯に声をかけた。
「今日は、教育庁からの依頼で“お絵かき能力”の評価を受けに行く予定です」
「お絵かき能力? また新しい評価基準が出たのかい?」
「はい。最近、教育庁では児童の創造力を測るために、絵画を通じた評価を導入しているようです」
まゆらは眉をひそめた。
「創造力ねぇ…。まあ、頑張っておいで」
灯は頷き、ランドセルの中身を確認してから、事務所を後にした。
一方、田淵は労働基準監督署に向かっていた。
「また労基署か…。最近、あそこも変わったな」
田淵が労基署の壁に貼られたポスターを見て、眉をひそめた。
「“働き方改革で、あなたの未来を守ります”か…。口だけは達者だな」
彼はポスターを睨みつけ、拳を握りしめた。
「現場の声を聞かずに、何が改革だ」
その頃、灯は教育庁の評価室にいた。
「では、灯さん。こちらの用紙に、あなたの“将来の夢”を絵で描いてください」
担当官が微笑みながら用紙を差し出した。
灯は少し考えた後、クレヨンを手に取り、絵を描き始めた。
描き終えた絵には、ランドセルを背負った自分が、大きな建物の前で笑っている姿が描かれていた。
「これは…?」
「これは、私が将来、誰かの役に立つ仕事をしているところです」
担当官は頷きながら、評価シートに記入した。
「素晴らしいですね。あなたの創造力と将来への意欲が感じられます」
灯は微笑み、ランドセルを背負い直した。
その帰り道、灯はランドセルの中から一枚の紙を取り出した。
それは、彼女が描いた未来の自分の絵だった。
「この絵が、私の希望なんだ」
彼女はそう呟きながら、事務所へと歩を進めた。
事務所に戻ると、まゆらが迎えてくれた。
「おかえり、灯。どうだった?」
「はい、無事に評価を受けてきました」
灯は絵をまゆらに見せた。
まゆらは絵を見て、優しく微笑んだ。
「いい絵だね。あんたの未来は、きっと明るいよ」
灯は頷き、ランドセルを大切に抱きしめた。
その夜、事務所ではおでんを囲んで、まゆら、灯、田淵、そしてハルが集まっていた。
「お絵かき評価か…。時代も変わったな」
ハルが呟くと、田淵が頷いた。
「だが、変わらないものもある。人の心だ」
まゆらはおでん鍋を見つめながら、静かに言った。
「私たちの仕事は、人の心に寄り添うこと。再就職も、その一つだよ」
灯は頷き、ランドセルの中の絵を見つめた。
「この絵が、俺の希望。そして、皆さんと一緒に働けることが、私の幸せです」
彼女の言葉に、皆が微笑んだ。
再就職代行事務所「極道リセット株式会社」は、今日も人々の希望を支えるために、静かに動き続けていた。