――雨の降る薄暗いオフィス。
まゆらがパソコンの画面を見つめている。資料の山を前に眉間に皺を寄せていた。
「なんでこんなに不可解な数字ばかり…?」
再就職代行「おでん屋」のメンバーたちは最近、ランドセル就労支援制度に潜む異様な矛盾に気づき始めていた。
灯もランドセルの中の絵を撫でながら、静かに言う。
「制度の表向きは子どもたちの“未来のため”って言うけど、実際は誰のためなのか…」
そこへ、チャラチャラした香水の匂いとともに一人の男が現れた。
「おっと、こんな暗い顔して何してんの?」
振り返ると、そこには金髪にピアスを輝かせ、スーツをビシッと決めたリュウ(水嶋隆之)が、電子タバコの煙をくゆらせながら得意げに立っていた。
「リュウ…あんた、なんでここに?」
まゆらの声は硬かった。
「まあまあ、俺様は元ホストのナンバーワン。人の心の動きはお手の物だぜ?」
リュウは口角をくいっと上げ、どこか余裕たっぷりに微笑む。
「最近、おでん屋の連中が探ってるランドセル就労制度の“闇”を少しだけ知ってるんだよな」
灯が目を細める。
「なに言ってるの? まさか、あなた…」
「裏切り? その通り!」
リュウは派手に笑いながら、机の上の資料をかき集めた。
「だってさ、あの制度の黒幕は他ならぬ“しのぶちゃん”だっての、知ってるか?」
「しのぶちゃんが黒幕?」
まゆらは目を丸くし、次の言葉を待った。
リュウはスーツのポケットからスマホを取り出し、画面を見せる。そこには幾つもの取引記録と、不自然に膨れ上がった予算の書類が映し出されていた。
「これ全部、しのぶちゃんの名前で動いてる。つまり、あのランドセル就労支援制度は、表向きの“子どもの未来のため”っていう建前を利用した金の亡者ビジネスなんだよ」
まゆらは硬い表情のまま、震える声で呟く。
「それが本当なら…こんな汚い話、許せない…」
灯も決意を新たにした。
「しのぶちゃんは誰よりも優しい顔をしているけど、その裏で…」
リュウがニヤリと笑った。
「まゆら、灯、これからは気をつけた方がいい。あの女は巧妙に人の心を操るからな。心理戦の天才だ」
リュウの言葉には、かつてのホストとしての鋭さがにじみ出ていた。
「でも、どうしてあのしのぶちゃんがこんなことを?」
まゆらの疑問に、リュウは肩をすくめた。
「金だよ、金。社会のシステムを利用して、自分の利益を最大化する。それがしのぶちゃん流さ」
――その時、事務所のドアが激しくノックされた。
「緊急連絡だ!」
入ってきたのは、プロメテウスJobの新鋭、情報屋の黒田翔。
「しのぶちゃんが次の一手を打つらしい。まゆらさん、灯さん、今すぐ対策会議を」
――その言葉に全員が緊張を強いられた。
まゆらは皆を見渡し、深く息を吸った。
「私たちは、表に出てくる以上のことを知らなきゃいけない。しのぶちゃんの本当の顔を暴く。それが子どもたちの未来を守る唯一の方法」
灯がランドセルをギュッと握りしめる。
「そう、私たちはこの希望を守るために立ち上がる」
リュウはスマホを手に取り、あざとい笑みを浮かべた。
「よし、俺も手伝ってやるぜ。魅せてやろうぜ、この心理戦、ナンバーワンの力を」
――だが、その裏にはさらに深い闇が渦巻いていることを、誰もまだ知らなかった。