薄暗い部屋の隅で、まゆらは肩を震わせていた。
「ああ、やっぱり…リュウにまで裏切られるなんて――」
彼女の声は、普段の強気な態度とは違い、どこか壊れそうな弱さをまとっていた。
元極道――裏切られることは日常茶飯事だったはずだ。
でも、リュウの裏切りは、まゆらにとって全然違った。
「リュウ、信じてたのに……」
まゆらは、ふとあの笑顔を思い出した。
金髪にピアス、香水の香りを漂わせながら、片手に電子タバコをくゆらせ、口角を絶えずあげていた男。
「俺が一番カッコよく見えるように動いてる」
あの言葉の意味を今、彼女は痛いほど噛みしめている。
「信じてたのに。あんなに危険な現場でも、私にだけは本音を話してくれたのに」
まゆらの胸の中にぽっかり穴が開いたようだった。
裏切りは、もう慣れていたはずなのに――。
その頃、しのぶちゃんは誰にも見られない場所で静かに話していた。
「ランドセル就労支援制度…それは、社会の闇を照らす“光”だ」
彼女の言葉には不思議な説得力があった。
「私が目指すのは、ただの再就職支援じゃない。社会の歪みを矯正し、弱者が利用される構造を変えること。誰もが希望を持てる未来のために」
だが、その“希望”は、時に人の心を蝕み、利用される道具になってしまう。
「だから私は、冷静に、計算高く動いている」
しのぶちゃんの目は、冷たくも熱く燃えていた。
リュウは裏切りの夜、闇に紛れて動いていた。
「まゆらたちを出し抜いて、一歩先に行く」
香水の香りを漂わせ、電子タバコの煙を静かに吐き出す。
「この社会のゲームで勝つには、裏切りも策略も必要不可欠だ」
彼はそう言いながら、自分の欲望と野望を満たすために動いている。
ナルシストの彼にとって、一番大事なのは“自分が輝くこと”だった。
まゆらと灯、翔はリュウの裏切りに揺れる心を抱えつつも、プロメテウスJobの未来を模索していた。
「このままじゃダメだ」翔が言う。
「しのぶちゃんの制度も、リュウの動きも、全部計算のうちかもしれない。でも俺たちは希望を捨てるわけにはいかない」
灯が頷く。
「希望は簡単には奪えない。私たちが守る」
まゆらはまだ傷ついていたが、ふと拳を握り締めた。
「信じられる仲間が減っても、私が倒れるわけにはいかない」
彼女の目に再び火が灯った。
かつての極道時代、裏切りは数えきれないほど経験してきた。
でも、リュウは違った。
彼は「仲間」を演じ、まゆらの弱さや迷いも見抜き、巧みに寄り添っていた。
その分、裏切られたショックは大きかった。
「信じることは、弱さじゃない」
自分に言い聞かせながらも、まゆらはその言葉にまだ心がついていかない。
彼女の心は、まるで暴風雨の中で揺れる小舟のように不安定だった。
「でも、裏切りを恐れてばかりもいられない。私は、私の道を行く」
そう決意し、彼女は静かに涙を拭った。
しのぶちゃんの冷徹な計算、リュウの華麗な裏切り、まゆらの揺れる心。
それぞれの思惑が絡み合い、プロメテウスJobの未来は揺れ動く。
果たして、彼らはこの社会の闇を照らし、希望を守ることができるのか?
それとも、裏切りと策略の渦に飲み込まれてしまうのか?